三十九話 守護者
今回はノリに乗ったので、少し長くなってます。
それからと言うもの、かなりキツイ修行が続いた。
朝は日が昇る前に起き、精神を統一させて妖力を練る。
日が昇り切ったところで筋トレをする。
腕立てや腹筋など生半可な物では無く、巨大な岩を持ち上げてスクワット。
富士山程の大きさの山を半日で往復。
勿論道中には魔物や動物が蔓延る。
そして午後になると、天様との手合わせ。
正直これが一番辛い。
まるで未来でも読んでいるかの如く避ける。
そして反撃が逐一強い。
得意の炎を放つも氷で阻まれ反撃…
精神的にも肉体的にも追い込まれ、何度もホムラに泣きついた。
俺が修行している中、ホムラだけが横で見守ってくれる。
そのがどれほど心の支えになったか…
修行開始から何ヶ月か経った。
天様に修行をつけてもらいながら日々を過ごし、気付けば季節も巡り春になっていた。
地面からは若草が生え、木々には新芽が芽吹き始めていた。
妖狐の里には桜が沢山生えており、蕾も膨らんでまるで木が紅く染まっている様だ。
あと数日もすれば花が咲き乱れるだろう。
過ぎた季節の中で、俺は大きく成長した。
最初は凍らせる事など到底出来ないと思っていた池も、底まで綺麗に凍らせる事が出来た。
更に、一日に一度しか使えない程消耗するが、天候も変える事ができるようになった。
風一つ吹いていない日に竜巻を起こし、雨の日にはその雨を雪へと変えた。
そんな日々の中、唐突に天様がある事を言った。
「ふふふ、貴方はかなり強くなったじゃない?そろそろ私を越せそうねぇ」
「いえ、そんな事は無いですよ」
「謙遜はダメよ。確かに貴方は強くなったわ。だから、今日で免許皆伝、修行も終わりよ」
天様は優しく微笑む。
俺が一言言おうとした時、一つ風が吹いた。
その風にはまだ蕾の筈の桜の花びらが乗っていた。
風はつむじ風となり円を描く。
天様が桜の花びらに包まれ隠される。
風が治まり、桜の花びらが地上に降り注ぐ。
天様のいた場所を見るが、そこに天様は居なかった。
それどころか、修行場所から見えていた里も無くなっており、まるで 狐につままれたような感覚に陥った。
呆気に取られた。
そこにあった物が、人が、全て消えているのだから。
ひとまず里のあった場所に向かう。
ホムラ達も消えてしまったのかと焦ったが、そこは大丈夫だった。前方からホムラ達が走ってくる。
「ご主人様!里が!」
皆焦った様にしている。
「落ち着け!確かに俺達は妖狐の里に居た!」
皆を宥めるが、俺すらもまだ焦って居る。
混乱するのは当たり前だ。
何ヶ月も暮らして居た場所が更地になるどころか、森に包まれているからだ。
ふと、一筋の風が吹く。
それはあの時と同じ様に桜を乗せて吹いた。
その風が声を俺達に向けて運んでくる。
『貴方達との日々は楽しかったわ。魔王討伐、貴方達なら出来るわ。頑張りなさい』
その声は優しく慈愛に満ちたものだった。
『これは餞別よ。じゃあ、さようなら』
その声を残して風が吹き止む。
ふと上を見上げると、見事なまでに桜が乱れ咲き、吹雪の様に舞い散っていた。
一片の桜の花びらが俺に触れる。
桜は溶ける様に消える。
その桜が消えた後には、温かなものが残った。
その温かさは、母親の体温の様に、俺達の心を落ち着かせ、力を与えてくれるものだった。
「ありがとう、天様」
きっとまだ見ている筈だと、虚空に向かい感謝を述べる。
そして俺は踵を返す。
「皆、魔王をぶち殺しに行くぞ」
魔王討伐へ、俺達は魔王の城へと向かった。
地は荒れ風が吹き荒ぶ
分厚い雲が太陽を隠し、生物の生力を削ぐ。
頼れる光は雷の閃光のみで、それも微かだ。
俺達は魔王の領域に踏み込んだ。
先の方には霧がかっているが、恐ろしい雰囲気の魔王城が俺達を待つ。
空からワイバーンが襲い掛かる。
「ブラッド・グレーターソード」
ルージュの創った血の大剣で真っ二つに分かれる。
もう何匹目かも分からない襲撃者に辟易する。
弱い敵だがいかんせん数が多く、鬱陶しいことこの上ない。
雷鳴轟く中、何か大きなものの影がこちらに迫る。
またワイバーンかと思ったが、ワイバーンの様な真っ直ぐな飛び方では無く、下半身を下に垂らして飛んでいる。
その影は俺達の前に降りてくる。
それは、引き締まった筋肉とスラっとした巨体を持ち、一対の大きな翼を広げている。
「魔王様の野望を阻みに来た貴様らを、魔王幹部として見逃す訳には行か無い」
その影はゆっくりとした動きで身体に拳を引き寄せ、反対の腕を九十度に曲げて、これもまた引き寄せる。
「魔王幹部が一人、覇道のグルドガード。いざ参らん!」
グルドガードから可視化出来る程の濃い殺気が紅黒く漏れ出す。
「魔王の野望を止めたい訳じゃねえ。ただ強者と戦いに来た。貴様はどれ程強いんだ?
やろうぜ」
二つの殺気がぶつかり合う。
それは常人なら気絶する程の殺気だ。
強者に対して敬意を払い、こちらも本気を出す。
修行により練度が上がりより紅くなった炎を練る。
一瞬、辺りが静けさに包まれる。
先に動いたのはグルドガードだった。
その巨体らしからぬスピードで迫る。
丸太の様な拳が、唸りながら命を刈ろうと襲い掛かってくる。
刀を素早く抜刀し、拳と刀が交わる。
炎と紅く黒い殺気が互いに襲い掛かろうとする。
互いに弾かれ、距離をとる。
「たとえ主を脅かす者であっても、強者には礼儀を払う必要がある!」
二度目の衝突が起こる。
「鏖殺の乱打!」
「桜火乱舞・蓮華」
残像が見える程の連打を刀で受け流す。
受け流した勢いをそのままに反撃しようと上段から切り掛かるが、サイドステップで避けられる。
その威力は地を切り裂く程だったので、グルドガードの表情が僅かに固くなった。
「ブラッド・グレーターソード!」
サイドステップで避けた先にルージュの大剣が迫る。
「効かぬわ!」
あろうことか、ルージュの大剣をその自慢の拳で砕いてしまった。
ホムラがグルドガードに迫る。
踵落としからの蹴り上げ、膝蹴りを見舞わせるが、全て受け流される。
グルドガードは連撃を防いだ後、ホムラを鷲掴みにして反対の拳を叩き込んだ。
ホムラは勢いよく吹き飛ぶ。
「ホムラ!」
ホムラを心配するが、それが隙となった。
「闘争の最中によそ見は厳禁!」
蹴り上げられそうになる。
しかし、グルドガードの足元に影が広がる。
「シャドウドール!」
影から人型の影が生まれ、グルドガードを襲い、埋め尽くす。
「すまん!クロウ」
「いえ、仲間ですから」
足止めが出来ると思っていたが、流石に甘かった。
「ウオォォォォ!」
グルドガードを埋め尽くす影が全て霧散する。
「温い!生温いぞ貴様ら!」
怒気を孕ませた声で叫ぶ。
素早い動きでルージュを襲う。
「タナトス・アクティノボロー!」
ルージュに到達する前にルージュが技を放つ。
石すらも砕くその攻撃は、防ごうとしたグルドガードを僅かに削った。
しかし、すぐに逸らされ虚空に放たれる。
攻撃を逸らしたグルドガードはルージュに飛び蹴りを放つ。
血液の波で防ごうとするが、全て無に返された。
しかし、攻撃の威力は弱められた様で、グルドガードがルージュの近くに着地する。
これはチャンスだと思い、ルージュがバックステップで距離を取ろうとする。
流石にこれを読んでいたのか、地を這う様なアッパーカットが見事にルージュを襲う。
吹き飛ばされたルージュと入れ替わる様にクロウが攻撃を仕掛ける。
ナイフが雨の様に降り注ぐ。
しかし、その強固な皮膚に防がれる。
ナイフと共に降りてきたクロウが両足でドロップキック、からの地団駄を踏む様に蹴りを加える。
そして蹴りの勢いで跳び上がり、またナイフを投げつける。
その攻撃に鬱陶しそうにしていたグルドガードだったが、急に身体を硬直させ、苦しそうにした。
何故かというと、腹に真っ黒な魔力弾がクリーンヒットしたからだ。
その魔力弾はクロウが放ったものであり、攻撃を放った後に空中から攻撃して意識を上に向ける事で、本来なら速度の遅い闇魔法を当てる事ができたのだ。
動きの止まったグルドガードをホムラが全力でアッパーし、その後方に居る俺が吹き飛んできたグルドガードを切り裂く。
幾つもの切り傷をつけとグルドガードは、それでも立ち上がり、衰えの無い殺気を放つ。
「中々やるな。だが!勝つのは我だ!」
筋肉が膨張し出血が止まる。
力を溜めるように身体を縮こませ、解放させる。
背中の羽が形を変え、腕と一体化していた。
構えも変わっており、身体をどっしりと地につけた構えから、身体を直立させた構えになっていた。
「貴様らに絶望を与えてやる!」
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