三十六話 隠れ里
「霧が濃くて景色が変わんねぇ!」
思わずグチが漏れる。
あの街道での一戦の後、ひたすらに歩いていたのだが、霧のせいで周りがよく見えず一緒の景色が続いているのでストレスが溜まる。
「ご主人様、私達迷ってない?」
ホムラが言う。
周りを見てみるが、一面真っ白だ。
「気のせいじゃないか?」
「ううん、地面が違う。街道は踏み固められて草が生えてなかった。けどここは生えてる。」
「そうか?街道も使われてなかったから多少は生えてただろ?」
ホムラにそう答えるが首を振る。
「草の長さが違う。街道は生えたばっかりの若草だったけど、ここは濃い緑」
言われてみればそうだ。
草の色が違う。
「ま…マジ?それヤバくね?」
こんな霧の中で迷ったら死ぬしか無いじゃん。
「大丈夫ですよ。私達一応飛べるじゃないですか」
おお、頭良い。
「それじゃあ、取り敢えず上から確認しますか」
脚に力と炎を込める。
『何者だ!』
今から飛ぶ、と言うところで声が聞こえてきた。
その声のした方を見ると、茂みから男が出てきた。
その男はある一点を除いて、普通の人間だった。
その男には黄金色の尻尾と耳が生えており、和服に身を包み、腰には刀が差してあった。
「テメェから名を名なれ。それが礼儀ってヤツだろ?」
俺は冷静に返す。
すると男が名を名乗る。
「私の名は狐太郎だ。ここらで爆発音がしたと聞いて警戒にあたっていたのだ。なにか心当たりは無いか?」
成程、心当たりか…滅茶苦茶ある。
エグい程ある。
これ絶対武器喰いとの戦いの音でしょ。
水蒸気爆発の。
ここは正直に言うか。
「あ〜、心当たり有る」
「本当か!?」
「心当たりと言うか…俺が犯人と言うか…」
…凄い形相でこちらを見てくる。
「詳しく聞かせて貰おうか」
「……………はい」
「…と言う訳で爆発音が鳴ったのです」
爆発音について一通り伝える。
狐太郎は納得した様に頷く。
「成程、戦いの中で鳴った音でしたか。話を聞いてそこまで危険性は無いと判断しました。しかし、貴方から放たれるその妖力、人の身でありながら何故それが放てるのです?」
何を言ってるんだ?こいつ。
俺は妖力何て知らんぞ。
「妖力?そんなん俺は知らんぞ?俺の炎は魔力だと思ってたのだが?」
そう伝えると狐太郎が驚いた顔になる。
「な!?自らの出している物が何か分からなかったのですか!?」
やめろ〜顔が近いんじゃ〜
自らの出している物だなんて、魔力で出していると思ってたが違うのだろうか?
肩を掴まれ、揺さぶられながら考えていると、クロウが呟く。
「確かにエンジ様の放つ炎は詠唱などしている素振りが有りませんでしたな。特定の形も無さそうでしたし。」
「?詠唱ならクロウもしていないだろ?」
そうクロウに言うと、明らかに呆れた様に言う。
「私達は魔力を別のものに変えて使う場合、詠唱をしなくてはなりません。ルージュ様やホムラ様の様に種族的に関係ない事が有りますが、大抵は口の中で呟いて詠唱を行うのです」
ほへ〜そうだったのか。
俺は全く詠唱をせずに出来るし、特定の形とかも無いな。
「対して、私達妖狐族が使う妖力は、魔力と違って特定の形も詠唱もありません。まあ、簡単に言えば種族的な能力ですね。魔力や魔法とは違い、誰でも使える訳ではありません」
狐太郎も説明してくれた。
俺の使う炎は妖力なのか。
てか妖狐族何て居るのか。狐と言えば九尾だな。そう言う人も居るのかな?
指先から炎を出してみる。
何の変哲も無い炎だが、本当に妖力で出来ているのか。
何だ面白いな。
そう言えば俺の炎は魔力を燃やせる性質があったな。それはどうなんだろ?
「なあ、俺の炎は魔力を燃やせるんだが、それは何か関係あるのか?」
そう言ってみると、狐太郎がまたもや驚いている。
「今魔力を燃やせると言いました!?ちょっとついて来てください!」
狐太郎が焦った様に言う。
「わかった。わかったから落ち着け」
落ち着かせようとそう言ってみる。
しかし、全く効果がない様だ。
手を引っ張って連れて行こうとしてる。
「待って、速い速い!もう少しゆっくりにしてくれ!」
全く止まらない。
そのまま俺は何処かに連れてかれてしまった。
やっと止まってくれた。
視界を上げると、目の前には階段と鳥居の様な物が鎮座している。
周りの木々が紅葉して居るので、そう言えば秋なのだなと分かる。
鳥居を潜ると、和風な建造物が並ぶ。
和服に身を包んだ妖狐族の人々が視界に入る。
集落の規模的に小さな街くらいの大きさはあるだろうか?
村と言うには少し大きい。
よくこの大きさで魔族に攻め込まれ無かったな。
森に立ち込める霧が関係しているのだろうか?
集落の周辺だけ霧がかかっておらず、綺麗な青空が見える。
集落の様子に見入っていると、狐太郎が謝ってきた。
「あの、すみません引っ張ってしまって。少し気が動転していて。考えたら急がなくても大丈夫でした。本当にすみません。」
「ああ、ビックリしたぞ。話も聞いてもらえなかったし。まあ、そんなに気にして無いから顔を上げてくれ」
狐太郎に顔を上げさせる。
「それよりも、仲間を待たしてくれ。急いで走ったから遅れているだろ?」
そう言うとまた謝ってきた。
「そうですよね、すみません。私が急いだせいで…」
ショボーンと言う効果音が似合う程に狐太郎がしょんぼりしてしまった。
少ししてから、仲間が来た。
「あ!ご主人様ー。急に何処かに連れてかれたからビックリしたよー」
ホムラが呑気に言う。
その言葉を聞いてまた狐太郎が謝る。
「すみません!すみません!」
そんなに謝らなくていいのに…
狐太郎が謝るのをやめさせる。
そして、狐太郎が集落に歓迎する言葉を言う。
「では改めて、ようこそ!妖狐族の里に!」
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