二十七話 圧倒的火力
森の中から、巨大な何かが猛スピードで駆けてくる。
森の木々がザワザワと揺れている。
それにより、馬車に乗っている全員が気づいたようだ。
「何かくるぞ!」
テンションの高いパーティの男……ジェールが声を上げる。
「ここは俺がやる」
俺が前に出ながら言う。
「わかった。怪我はするなよ」
森の中から、バカデカいイノシシの様な魔物が突進してくる。
馬車から飛び出し、イノシシに向かって両手を前に突き出す。
「ぶっ飛べ豚野郎が!」
両手に高温の炎が集まる。
炎はどんどんと温度を上げていき、小さな太陽の様な閃光が放たれる。
その瞬間、炎が解放されて前方に立ち塞がる障害物を悉く飲み込んで行く。
炎がやがて静まる。
イノシシは消え去っており、遥か後方の木々までもが焼失している。
俺は地面に着地し、馬車に戻る。
ジェールは呆然としており、ジェールのパーティメンバーも同じ様な反応をしている。
「あ、ああ、あばばばばばば……」
ジェールがバグった。
「な、なんなんだあの威力は!?」
一人旅をしている人が俺に飛びついてきた。
この人、普段は無口なのに案外喋るんだな。
顔は外套の影で良く見えないが、絶対ビックリした顔になっているだろう。
「なんなんだも何も、ただ炎を大量に圧縮して解放しただけだ」
「威力が異常だ!」
馬車の中が一時騒然としたが、やがて鎮まっていった。
旅ももう十日が経った。あと四日で街に着く。
旅が始まって十三日、景色が今までと大きく変わり、砂地が広がっていた。
山の様な砂丘が地平線に聳え立ち、その麓には街がある。
その街こそ、俺達の目的地だ。
「皆さん、街までもう少しです。護衛してくださってありがとうございます」
商人が頭を下げる。
「いえ、そんなに気にしないでください。利害の一致の関係なのですから」
ジェールがそう言って商人の頭を上げさせる。
なんとも真面目な奴だな。
「それでは皆さんお元気で」
やっと街に着いた。
馬車から降りる俺達に、商人が別れの言葉を言う。
「商人の方達はなかなか優しい人だったな。」
「そうですね、珍しいタイプだと思いますよ」
俺の言葉にルージュが頷く。
「ご主人様、この街とっても活気がある」
ホムラが活気のある街に興奮している。
街にある建物は黄色っぽい外壁で、窓が小さいが数の多いかんじだ。
屋台には、サボテンやヤシの実など砂漠にある物が並べられている。
「ご主人様、あれ何?」
ホムラが屋台の果実を指差して言う。
その果実は赤い色をしていて、炎の球のような形をしていた。
「すまん、わからん。試しに買ってみるか?」
「うん!」
試しにその果実を買ってみた。
果実を割ると、赤い果肉と黄色い蜜のようなものが垂れてくる。
スプーンですくって食べてみると、サッパリとしている果肉と、甘さの強い蜜が合わさってとても幸せな気分になった。
「とても甘くて美味しいです!エンジ様」
「おいしい」
ルージュとホムラが幸せそうな顔で言ってきた。
「ハハハ、すげえ幸せそうな顔だぞ二人共」
「だって本当に幸せだから」
「そうです」
「そうか、幸せか。お前らが幸せなら俺は満足だ」
俺までもが幸せな気分になった。
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