十七話 血の女王
壁…そう思える程に大きな赤黒い波が俺達に迫る。
避けようにも横にも縦にも大きいので間に合わない可能性が高い。炎で飛ぼうにも、速く長い距離を飛ぶには溜める時間が必要になってしまう。
絶体絶命。その言葉が頭をよぎる。
こんなところで死んでたまるか!何か良い方法は……
クソ!高火力で吹き飛ばすしか思いつかない!そんなことをしてしまったら、俺は良いがホムラに危険が及ぶかも知れない。
ホムラの高温への耐性がいくらあるかがわからない限り下手な行動は出来ない。
「大丈夫。私を信じて…」
歯を噛みしめ、切羽詰まっている俺に対してホムラが優しく声をかけてくれた。
俺はハッとした。仲間を信じているつもりだったが、俺は仲間を庇護しようとしていただけだ。
仲間が強い事を俺は知らなかった。
ホムラは大丈夫。俺とホムラは一心同体。そう考える。行ける!
俺はホムラを片手で抱き寄せる。そして、右手を前に出して手を開く。
小さな火の玉が手の前に生まれる。その火の玉はどんどんと大きくなり、半径が俺の身長と同じサイズになった。
炎が波に触れ、蒸発する音が響く。
炎が波に覆い隠されそうになるが、すぐに波が蒸発し水蒸気が視界を白く染める。
水蒸気が無くなるとそこに波は無く、驚いた顔をして少女が立っているだけだった。
少女はすぐに驚いた顔をにやけさせ、まるで神に祈るような声で話しかけてきた。
「王よ。私のキングよ!私の…私を…」
「だから!俺は誰の王にもならない!」
「貴方は王よ。誰がなんと言おうと!私の、私だけの!」
「ちがう!」
「違わない!王は!私は!」
少女は興奮した様にそう捲し立てた。
辺りに散らばった赤黒い液体を球状に集め始めた。
ゾクッと悪寒が走る。
「やめろ!それは危険だ!」
そう叫ぶが、少女の耳には届かない。
「タナトス・アクティノボロー!」
少女の言葉に合わせ、球の中心からレーザーの様に放出される。
圧縮され、勢いの乗ったそれは、高い威力も速い速度も持ち、石ですら簡単に貫けそうな程に鋭かった。
その攻撃をホムラを抱き寄せたまま直感で避け、炎を少女に放つ。
横たわった柱の様な炎は少女に迫るが、レーザーで防がれ、そのレーザーをこちらに向けられた。
空中に居るところを狙われたので、炎を出す勢いで避ける。
「ご主人様、私は大丈夫だから下ろして」
おお、そうだった。攻撃を避けてホムラを下ろす。
これで攻撃に集中できる。
刀を鞘に納めたまま、居合いの形をとる。炎を身体中に纒い、鞘からは圧縮くされた炎がチロチロと見えていた。
「死ね!」
少女がレーザーをこちらに向ける。
レーザーが俺の間近に迫る。
そこで俺は炎を解放する。
「…桜火乱舞・死桜一閃」
そのとたん、レーザーが二つに裂けて消滅する。それにともない、レーザーの根元の球も破裂する。
俺が刀で斬ったからだ。
呆気にとられる少女の後ろで残心する。
少し遅れて周りの廃屋や木が真っ二つになる。
唖然とする少女に大木が倒れてくる。
ヤバい!そう思った。
だが、大木の先に少女は居なかった。
ホムラが少女を救出してくれたからだ。
俺はすぐに納刀し、二人の元に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「大丈夫、この子に怪我はない」
「良かった…」
「でもこの子、気絶しちゃってる」
「衝撃で気絶しちゃったのかな?なんか悪いことしちゃったな」
「だけどあの子が先に攻撃してきたから大丈夫なんじゃない?」
「それもそうか」
気絶している少女を起きるまで見守ることにした。
こうやって気絶している姿を見ると、ただの女の子の様に見えた。
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