十六話 ブラッドプリンセス
昨日の気になる依頼の場所に俺達は向かっている。
その場所は、深い森の奥の山になっている場所にある。
そこまでは石段で行けるようになっているが、その石段までの道のりが森で覆われている。
なので、今は森の中を歩いている。
自分のランクよりも高い依頼を、受注せずに行っているので見つかったら少し不味いことになってしまう。そんなことになったら嫌なので、日も上っていない早朝に出発した。
森の中なのでまだ朝日は見えないが、空が僅かに明るくなっている。今は晩春なので五時頃だろうか。
早朝は動物達が活発になり始める時間だ。それは魔物も例外ではない。
俺達の目の前には、五体のオークが立っていた。
「「「「「プギィィィ!」」」」」
オーク達が一斉に叫び、突っ込んできた。
ゴブリン同様頭が悪いので、あまり高度な戦闘は期待できない。
突っ込んできた一体を通りすぎざまに居合いで首を切って殺す。
ホムラが二体目を炎の玉で怯ませる。その隙に俺が身体を十字に二回、袈裟斬りにして殺す。
残った三体が怖れて怯む。そんなこともお構い無しに炎の玉をホムラと二人で連射する。
オーク達は、身体中を焦がして倒れる。
時間が無いので魔石を取らずに先に進む。
途中出てきた魔物や動物を殺しながら進み、五時間が経った。かなりのハイペースでほぼ走りながら来たおかげか、俺達の目の前には大きく長い石段が続いていた。
千段は余裕であり、先の方が見えないほど長い。これは苦労しそうだ。と、思いながら歩を進める。
いくら進んだだろうか。ようやく石段の終わりが見えてきた。
「ハァ…やっと…ついた……」
ホムラも疲れている。その顔には達成感が浮かんでいる気がする。
「ハァ…ハァ…ホムラ…まだ…目標は達成してないぞ…」
「そう…だった…」
ホムラに注意したが、実は俺もかなりの達成感を感じている。
二人でそう感じていると、どこからか、白い煙の様なものが現れた。
「デテイケ!」
幽霊はそう叫ぶと、俺達の方に突進してきた。
「死ね」
俺はそう呟いて炎の壁を出して防いだ。
「!?」
しかし、幽霊は炎の壁を突き抜けて、いや、通り抜けて突っ込んできた。
「うわ!」
「キャッ!」
驚いてしまい、防御の態勢を取ってしまった。
幽霊は、俺達を通り抜けて向こう側にいってしまった。
「ホムラ!大丈夫か!?」
「大丈夫。それよりご主人様は?」
「俺も大丈夫だ」
お互いの安全を確認し、幽霊の方に向き直る。しかし、幽霊はそこには居なかった…
「なんだったんだ?」
わからない。デテイケと忠告した後、俺達を通過して消えた。なぜそんなことをするのか全くわからない。
「ご主人様、考えてもしょうがないので、取り敢えず先に進みましょう」
「わかった」
…だが、気になる。もしかして、攻撃手段がないのだろうか。物に触れられない幽霊だから、あり得る。
俺達を脅かして、逃げなかったから次の作戦をしに行ったのだろうか?
そんなことを考えていたら、石段が途切れて和風な門が現れた。
その門をくぐり抜けると大きな庭が広がっており、その奥には平屋の屋敷があった。尤も、その屋敷は廃屋で、苔や植物が侵食していた。
庭は、ジメっとしており、薄暗く妖しげな雰囲気だった。
庭を歩ていると、上の方から話しかけられた。
「こんにちは」
「「!!」」
声のした方を見ると、赤黒いゴスロリを身に纏った少女が宙に浮いていた。
無表情で暗かったが、その妖しく不気味な声とは裏腹に、人を惹き付ける美しい顔だった。
少女が手を前にかざすと、少女のての前に赤黒い棘のような物が現れた。
その棘は、凄まじい速さでこちらに飛んできた。
その棘を首を捻って軽く避けると、その少女はニヤりと妖しく笑い、沢山の棘を飛ばしてきた。
今度は、火力にものをいわせて炎で防ぐと、少女はこちらに近付いてきた。
「あなた達、なかなか面白いわ!気に入った。私の王になって♡」
「はぁ?」
少女はそんなことを言ってきた。
部下になれとかならわかるが、なぜ王なのだろうか、まあ今の俺にはそんな気は無いので断ろう。
「俺は今は誰かの上につくだとか誰かを下僕にするだとかは考えていない。今は、な。」
「あら、残念。じゃあ死になさい」
少女は冷たい声色でそう言って、手を振りかざした。
少女の足元から、赤黒い液体の波が現れた。
視界が赤一色で埋め尽くされる。
「あなた達は、私の血で溺れ死ぬのよ…」
少女は、少し悲しそうにそう呟いた。
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