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第14話 魔伯爵の来訪


後に全種族を巻き込む『終極戦争』へと発展するこの人族との戦争は、勃発時の予想通り戦争を仕掛けた人族軍の方が負け続けていた。

最下位の種族である人族軍との戦力差は歴然であり、5種族への同時進行など愚の骨頂であった…

しかし、その予測を覆す出来事が起き始める。

日々躍進する人族軍の『科学技術』による新兵器が、次々に実践投入され、戦況は一進一退を繰り返す様相を見せ始め、圧倒的であった5種族連合軍を退け始めたのである。

更に数日前、最新技術の粋を集めた強化装甲(パワードスーツ)が新たに実践に配備されると、その威力は凄まじく、人族と他種族との間にある膂力の差を補って余りある力を引き出し、互角以上の力を発揮したのだ。


人族軍を最下位種族と侮っていた5種族連合軍の奢りもあり、策を労せず力押しに頼っていた連合軍は、劣勢を強いられ、均衡を保っていた最前線の戦いは、人族優勢へと傾き…連合軍は、大敗し続けていた。

このまま押し切られるかに思われた戦況に変化が突然訪れた。


連合軍側に新たなる戦力が、投入された…と言うかやって来た…

それが、『太古の神族(ティターンズ)』の末裔…巨人種のザムドが最前線へ現れたのである。


その絶大な膂力は、5種族の精鋭数十人が束になって掛かっても勝てない程…強さの次元が違った。

前線でその暴威を振るい、『強化装甲』に身を固めた人族を蹴散らし、圧倒していったのだ…

それに加え、5種族連合軍で唯一人族に対して優勢を保っていた空域に有翼族(ハーピー)のハイマールが、参戦した事により、効率的に戦果が上がったのだ。


これらはレインの指示によるものだった…彼等が最前線に参戦したお陰で、5種族連合軍が、人族軍を押し返し、再び膠着状態へと引き戻したのである。


二人の参戦を予想だにしなかった連合軍は、その戦果に沸き上がった。この勢いを止める事なく、このまま押し切るべく5種族全軍の最大戦力での戦いの準備を進めていた。

そんな中、族長達の戦略会議の場にハイマールが呼び出されていた。


円卓の会議席に座る各種族の族長達が居並ぶ中、

片膝をつき傅いているハイマールがいた。


「此度の武勇、大したものだ!

あの誰にも与する事の無かったザムドを使い、敵を薙ぎ払わせ、上空からの編隊による波状攻撃は見事であった。」


有尾族(ドラゴンウォリア)の族長ゲルニカが、ハイマールの功績を讃えると族長達も皆頷いた。

有翼族(ハーピー)の族長ガルーダも満面に笑みを浮かべ、


「流石は、我が種族最強の戦士じゃのう!

あの飛行編隊を組んだ千変万化の戦術は素晴らしいものじゃった…族長の儂も鼻が高いわい!

…して、あの様な戦術を何処で如何にして学んだのじゃ?

あれ程巧みな戦術は、上位種族とてそうそう見られるものではないぞ?」


「僭越ながら説明させていただきます…

あの戦術は、先日…我が主君である…レイン様より賜ったものであります。

元は『魔族』の戦術らしいのですが…

我等、有翼族ならば『魔族』に匹敵する成果が上げられるだろうと…ご教授頂いた次第…」


あからさまに嫌そうな顔になる族長達、


「またあの者か…あの()()()()の進言と申すのか…?

あぁ…そう言えば、お前達5人は、彼奴の軍門に下り『悪魔』へと隷属したのであったな…」


ゲルニカが、呟くと

ガルーダが、口惜しそうに


「『契約』の為とは言え…我等5種族の中でも最強と謳われる者達を『魔族』なんぞにしなくてはならんとは…全種族の中で最も忌み嫌われる…あの『魔族』となり果てるとは…」


『魔族』を忌み嫌のには、それなりの理由があるのだが…それはまたいつか話す事にしよう…


「…『魔族』に対する意識も…族長様達の仰ることも、理解できますが…

我等は『魔族』となったつもりはありません。

あくまでもレイン様を主君と仰ぎ、従者としての地位を得たと言うだけです。」


ハイマールが、静かに反論する。


「ふん…主従関係だと…?詭弁だな…まぁ良い…が、

あの下級悪魔は今どうしている?…彼奴は我等に啖呵を切って、人族の王都へと潜入しに行きおった…

自分が戻るまで軍を動かすなと釘を刺してな…

…だが、今は彼奴の話など無視して動かなくてはこの好機を逃してしまう。

お主等が参戦したおかげで、今や連合軍が優勢へと転じておる…

尻を引いた人族軍対し此処で総戦力を畳みかけるのが、定石であろう?」


「…此度の小競り合いは、一時的な勝利に過ぎません。

人族の『科学力』を侮ったが為に我等は苦境に立たされた事をお忘れなきよう…

一度敗北した人族は、数日でその弱点を克服し更なる脅威となって表れて来たではありませんか。

それ程あの『科学力』と言う代物は脅威なのです…

レイン様が戻られるまでもう少し待機していただかなければ…」


「それでは問うが…あれから幾日過ぎた?既に2週間は経過しておるのだぞ?

連絡は来たのか?何か成果はあったのか?幾ら待っても何の報告も来ておらん様だが…?

どうなっておるのだ?もうこれ以上待つ事は出来ぬぞ?!」


矢継ぎ早に疑問を投げかけて来る。


「…そ、それは…」


返答に困るハイマールにも予期せぬ伝令兵が駆け込んで来た。


「ご報告申し上げます!」


「どうした?血相を変えて…何かあったのか?」


ゲルニカが、伝令兵に問い掛けた。


「はっ、人族軍の主戦力と思わしき大部隊が、王都エレノアを出陣したと斥候より知らせが届きました!

其の数…千と…」


「なんだと?!」


「しかも、今度の『新型』は…巨人種の様に巨大な騎士の姿をしており…100騎近く居るとの事…

その威力は判りませんが、奴等の『科学力』は…我等の想像を遥かに凌ぐものかと…」


「巨大な騎士…?また新たなる『科学力』を投入して来ると言うのか?!

…我等が、攻勢に出ようとするこのタイミングで仕掛けて来るとは…」


ゲルニカの顔色が変わる。

他の族長達からも響めきが上がった、会議室の空気が重くなる。


其処へ更なる来訪者が現れた。


「失礼します。」


鎧に身を固めたシュレイナが、颯爽と入って来た。

非力な妖霊族(エルフ)には珍しく腰の左右に2本の長剣を帯刀している。


「…作戦会議室にしては、何とも賑やかですわね?」


「何の様だ、シュレイナ?お主はこの会議には呼んでいない筈だが…?」


妖霊族族長ディードリヒが、シュレイナに対し冷たく問いただす。


「えぇ、承知しております。

その無礼を承知で罷り越したのです…レイン様からの伝言を伝えに…」


「なにっ?!あの悪魔から連絡が来たというのか?!」


シュレイナの言葉が終わる前にゲルニカが反応していた。


「えぇ…『精神感応伝達魔法』で先程連絡が在りました。」


「『精神感応伝達魔法』だと?!

上級位階の種族でもごく一部の者しか使えぬ超高等魔法ではないか…

あの下級悪魔…いや、本当に上位悪魔なのか…」


ゲルニカが、信じられないと言った表情をしながら呟いていた。

それを尻目にガルーダが、本題に戻す。


「それで、レイン殿は何と言っておったのだ?

…あの『科学力』とか言う不思議な力について何か分かったのか?」


「…或る程度は掴めたようです…けど、まだ捜査中だそうです。

それよりも、レイン様から言付かった今後の動向に関する戦略を伝えに来たのです。」


鋭い視線を送るウォルフが、低い声でシュレイナへ声を掛ける。


「…『悪魔』如き下賤の輩が、我等の作戦会議に進言するというのかね?」


シュレイナは、臆した風も無くウォルフへ視線を返した。

…と言うよりも主を罵倒され、体中から殺気が噴き上がっている。


「…その通りです。

5種族連合軍は、レイン様と『契約』を交わしたという事をお忘れ無く…

契約の条件は2つ…我等5種族の中でもっとも屈強な戦士を『魔族』へと帰属させる事。

もう一つは、この戦争が終結する時迄…作戦の全権をレイン様へ譲渡し、レイン様の指示に従う事。」


ウォルフが、不精面で答える。


「…ふん、分かっておる。

それが『契約』だ…その見返りに『魔族』の力を借り入れる事が出来るのだろう?

…だが、何も起きないではないか?

人族は、新たな『兵器』を携え進軍を開始したとの情報もあるが…未だ『魔族』の援軍も来る気配も無く…

『科学力』の全貌も未だ掴めていないだと?!…あんな()()()()の言葉など信じられるものか!」


その時突然、会議室中が凄まじい妖気に叩きつけられた。


「?!」


「あら?…聞き捨てならないわ。我が御方様を『下級悪魔』呼ばわりとは…良い度胸ですわね?

凍結地獄(コキュートス)に落ちたいのかしら、この犬コロは?」


振り返る一同の目の前に妖艶で美しい女性が立っていた。

黒髪で美しい顔立ち、肌は真っ白で黒いドレスが際立っている。

しかし、その瞳は紫色の光りを放ち…彼女から噴き出している禍々しい気配は、会議室の者達を凍り付かせた。


「リリ…ス…リアンヌ様、此処はお怒りをお沈め下さいませんでしょうか。

族長達には、レイン様の事は…」


シュレイナが慌てて駆け寄り、耳元に囁きかける。


《リリス様、この者達には貴方様と同様にレイン様の事も素性は隠すように仰せつかっておりますゆえ…》


「…そう言う事ですか。

それであれば、仕方が在りませんね…今回は許しましょう…ですが、あの御方はお前等如きゴミ虫風情が話しかける事も出来ぬ高貴なる御方…もし今後同じような態度であれば…」


そう言うと、リアンヌと呼ばれた女の瞳が光を増す。

吐く息が白くなる程辺りの気温が一気に下がり…族長達の手足が凍り始めていた。


「?!」


「貴方達を永久に氷像に変えてあげるから肝に銘じておきなさい。

あぁ、それと…下位位階種族のゴミとは言え、貴方達に自己紹介しておいてあげるわ…

我が名は…リ…リアンヌ。クラスは…」


リアンヌは、右手に嵌っている装飾の施された指輪を見詰めながら、少し考える素振りを見せ、


魔伯爵級(デビルカウントクラス)…くらいかしら…

今後あなた方の指揮を執る様仰せつかっているからそのつもりで。」


氷結から解放された族長達から響きが起こる。

リアンヌが、円卓の空いている席に優雅に座るのを待ってゲルニカが言葉を発した。


「リ、リアンヌ殿…そ…それは一体どういう…」


「あら、聞こえなかったのかしら?

5種族連合軍はれから私の指揮下に入るという事よ?お分かりになったかしら、頭の悪そうなワニさん?」


呆気にとられるゲルニカと族長達に溜息を吐き、


「脳みそも筋肉で出来ているような種族に理解させるのは面倒臭いわね…

シュレイナ、貴方から説明してあげて。」


「畏まりました…それでは、今後の指揮権及び戦略について説明いたします。

此度の『契約』に従い、5種族連合軍の指揮権はレイン様にありますが、現在『御方様』は人族の王国へ潜入されており御不在の為、代行としてリアンヌ様を遣わされましたので、今後5種族連合軍の指揮をリアンヌ様にとって頂きます。」


「なっ…そ、そんな事を…」


「それと今後の動向ですが…」


「それは、私から話すわ。」


そう言って、リアンヌが族長達の方を凝視する。

その視線は有無を言わさぬほどの威圧が込められていた。


「…貴方達の置かれている現在の状況は十分に理解しているわよ。

新たな戦力により劣勢だった戦局を打破した今、その勢いに乗り人族軍を撃破したい気持ちも分からないではない…それに、人族軍側も戦力を整え、この前線に向け進軍中である事も知っています。」


「それであれば、この状況下でとるべき行動は、間を置かず全軍にて人族の王国迄攻め入るのが得策では…」


ゲルニカが、リアンヌへ進言する。

リアンヌは、少し間を置き、話を続ける。


「まぁ…貴方達下位種族同士の争いだけなら…それも良策かも知れないわね。

…でも、この戦争は…そう簡単な話ではないのよねぇ…

人族の影に隠れ…裏で糸を引いている種族が居るとしたら?」


リアンヌの言葉に族長達が息を呑んだ。

裏で糸を引き種族とは…この戦争に参戦している下位6種族ではない…

上位位階種族が絡んでいると言っているのだ。


「そ、それは…まさか…そんな事が、在り得るのでしょうか?

下位種族の争いに上位種族が介入するなど…」


「ないとも言い切れないわよ?

まぁ…意図は分からないけど…退屈凌ぎかも知れないし…ゲーム感覚かも知れない…

なんにしろ、上位種が裏で暗躍しているなら…お前達に勝ち目などありはしないわね。」


リアンヌが、涼し気な口調で淡々と話している。

それと対比するかのように族長達は、冷や汗を掻き続けていた。


「…そ、それが…上位位階種族が人族軍側に介入しているのが事実なら…

下位種族が集まっただけの我等に勝ち目などある筈がない…」


「まぁ…そうでしょうね…

上位位階種族単体の戦闘力は、数千体の下位種族を遥かに凌駕しているわ…

きっと争いにもならないわね…まず間違いなく一方的な虐殺が行われる事になる。」


淡々と語るリアンヌの言葉に静まり返り、族長達が青褪めていく。


「…だけど、この状況で…そうなる可能性は皆無よ。」


リアンヌは、この状況を全面的に否定する言葉を簡単に言ってのけた。


「な…?それは、どういう意味なのでしょう…」


ゲルニカは、我知らずリアンヌに対し警護を話している事に気付いていない様だ。


「貴方達の目の前に居るのは誰かしら?」


「?」


理解できない様子の族長達に呆れるリアンヌが答える。


「貴方達の眼は節穴の様ね?目の前の絶世の美女が『契約』に従い貴方達の側に居るのよ?

上位種族なんて大した事は無いわ。」


「い…いや、そ…それは、どうなのでしょうか…

貴方様から感じる『魔力』は、桁違いなのは肌身に感じております…

我等下位種族では到底及ばぬ程の潜在魔力を秘めておられる…で…ですが…

貴女様が…御独りで上位位階種族を相手になさるなど…」


ゲルニカの言わんとしている事は解かる。

如何に上級悪魔とは言え…軍団を引き連れて来た訳でもなく、単身で上位位階種族相手に太刀打ちできるとは到底思えなかったのだ。


「…心外ねぇ…私一人では、上位位階種族共に勝たないと思っているのかしら?」


リアンヌの気配に怒気が混じる…

大地を揺るがす程の『魔力』が溢れ出していた。


「こ…これは…?!」


「貴様等、私を誰だと思っている?!

上位位階種族など『魔王』の敵では無いと言っているのだぞ!」


「ま…魔王?!」


「あっ…」


《ま…不味いわね…私は『魔伯爵級(デビルカウントクラス)』の悪魔の設定だったわ…

レイフォールド様…レイン様には、素性を隠すように言い遣っていたんだった…

此れって…バレたら怒られるパターンよね…》


引き攣った愛想笑いを浮かべるリアンヌ。

彼女が放っていた大地を震わす程の『魔力』が一瞬で消失していた。

族長達は、何が何だか訳が分からなくなっている。


「リアンヌ様は、『魔伯爵級(デビルカウントクラス)』ですが、その御力は『魔王級(イビルキングクラス)』にも匹敵すると自負しておられるという事ですよね?」


シュレイナが、慌てて助け舟を出す。


《おぉ!ナイスじゃ、シュレイナ。後で褒美を与えてあげるわ!!》


「ま…まぁ、そ、そう言いたかったのよ…

私がいれば上位位階の種が相手であろうが、とるに足りぬ相手だしねぇ…

とは言え、戦闘は避けこのまま待機がお前達への命令なのだけれど…」


「こちらに進軍している人族軍を迎え撃つのではなく戦闘を避け、待機せよとおっしゃるのですか?!

…籠城など腰抜けの所業ですぞ?!」


「我等より下位の種族相手に籠城するなど…末代までの恥…

それでは、祖先の霊にも顔向けできません!」


ゲルニカ達族長が、半立ちに成る程の動揺を見せる。


「貴方達が他種族にどう思われようとそんなの私の知った事では無いわ?

それに…これは勅命なのよ…レイン様から下された命令なのよねぇ。

あの御方の言…それは絶対不変…否は無いのよ。

…もし、それに異議を唱える者がいると言うなら…」


リアンヌの瞳が妖艶な紫色に輝く。

先程とは比べ物にならない程の気配が噴き出す…息をする事すら出来ぬ圧迫感だった…

そう…それは凄まじいまでの『殺気』だった。


「人族が攻めてくる前に…私がお前達の種族を根絶やしにするわよ?」


殺気が族長達に叩きつけられると族長達は金縛りにあったように動けなくなった。

冷や汗を流し、何とか呪縛を解こうと藻掻くが叶わず、改めて思い知らされていた…

目の前の妖艶な『魔伯爵級』の女悪魔は、紛れもない怪物だという事を…


「も、申し訳ございません!

我等の身も弁えず不遜な物言いを致しました…平にご容赦頂きたい…」


族長達が、首を垂れ謝罪すると圧迫ししそうなほどの『殺気』が消えていた。

リアンヌがにこやかな表情を浮かべ。


「…そう、分かってればいいのよ。

それじゃあ、今回の作戦を伝えるわね…」


そう言って、リアンヌは今後の作戦を話し始めた。

作戦会議を終えたリアンヌとシュレイナは、湖畔の陣営へ戻って来ていた。

出迎えたのは、妖霊族の子供サクヤと獣人族の子供ライコウだった。

レインの『幻惑』の魔術による仮の姿であり、元は人族の王家の子息だったのだが、故あってレインの元に身を寄せる事となったのだ。


「お帰りなさいませ、リリス様。」


「あぁ、ただいまサクヤ。

それにライコウもまだ小さいのにちゃんとお出迎えしてくれるなんて、偉いわね。」


リリスがにこやかな表情でサクヤとライコウに接している。

もし、他の悪魔達がこの光景を見たらさぞ驚いていただろう…

何せ、リリスは魔族きっての子供嫌いの筈だからだ…


にも拘らず、毛嫌いする事も無く普通に優しく接しているように見える。

それに、あの他人に懐こうとしないライコウが自分から手を握って貰いに行っている。


「ん?どうしたのライコウ?私が居なくて寂しかったのかしら?」


リリスが、優しくライコウの手を握ってあげている。

リリスの質問にライコウが少し紅くなって肯いていた。


「まぁ!なんて可愛いのかしら!!

もうハグしてあげたくなっちゃうじゃない!!」


と言いながら既にライコウをハグしていた。

サクヤも抱き寄せ、二人に強くハグするリリス。


「リ、リリス様、す、少し強すぎます…」


「あ、ああ、ごめんね、力の加減が難しいのよね。」


そう言って慌ててライコウ達を離すと立ち上がり、


「それとサクヤ、私の事は此処ではリアンヌとお呼びなさい。

今はリリスという名は名乗らぬようレイン様に禁じられているのですからお気を付けなさい。」


「あっ、そうでした…今後気を付けます。」


ガルムがテントの方から歩いてきてリリスの前で跪くと


「お帰りなさいませ、リアンヌ様。

此度の作戦会議…どうでした?滞りなく済みましたか?

あの頭の固い族長達が、素直に聞き入れるとは到底…」


「ガルムか、お出迎え御苦労。

問題など何もなかったわよ?スムーズに聞き入れて貰ったわ。

まぁ…私に掛かればこんなものよ、オホホホホ…」


高笑いをしながらそう話す後ろに居たシュレイナが苦笑いを浮かべ頭を抱えていた。

その姿を見たガルムは、


《やっぱり…なんかやらかしたんだな…穏便に話を進める様レイン様に言われていたけど…

この人にそんな事が出来るとは思えないし…多分脅したな…》


ガルムの推察は正解であった。

作戦会議の間、凄まじい『魔力』を放ち周囲の生物を威圧していたのだ…本人は無意識だったようだが…

その余りの恐怖に族長達はただ黙って話を聞いている事しか出来ず…

有無を言わさず、一方的に作戦を伝え帰って来たのである。


「ま…まぁ、族長達が作戦に納得してくれたのなら…5種族連合軍の方は問題ないでしょう。

それよりも、我々の方も一度作戦を整理するべき…」


「ガルム、あんたに言われなくても、ちゃんと召集は掛けといたわよ。」


シュレイナが、後ろを振り返りもせず親指で指さす…

そこには、既に呼ばれていたザムドとハイマールがこちらへ歩いて来るところだった。


「相変わらず、妖霊族(エルフ)は用意周到だねぇ?」


「ふん、獣人族(あんた達)が無頓着すぎるのよ。」


ザムドとハイマールは、リリスの前まで歩いて行き片膝をつく。


「リリス様が来られているとは、思いも寄らぬことでしたので、ご挨拶が遅れ申し訳ありません。

魔神王の城で謁見させていただいて以来、ご無沙汰しております。」


ハイマールが、丁寧に挨拶をする。


「堅苦しい挨拶はいいわ、それと私の名前はリアンヌと呼びなさい。

そっちの大きいのは会うのは初めてかしら?」


リリスがザムドの方を指さす。


「申じ…遅でまじだ、

オダの名は、ザムド…レイン様の臣下どじて頂ぎました弱小者でごぜぇますだよ。」


「あら…そうだったわね…臣下になったって事は…レイン様が貴方達を『魔族』にしたんだっけ?」


「え、えぇ…その事なんですけど…リアンヌ様…

レイン様が、お前達は今日から『魔族』だって言ってましたけど…そんな簡単に『種族』が変わるものなのでしょうか?

見た目も変わってませんんし…特に何か変化があるという事も無いんですよね…

大体宣言しただけで『種族』を変えるなんて出来る訳が…」


シュレイナが、気になっていた疑問を問い掛けてみた。


「あら?気付いてなかったの?

貴方達は、どこからどう見ても立派な『悪魔』になってるわよ?」


「えっ?!」


シュレイナとガルムが同時に声を上げた。


「貴方達『魔族』の定義って分かってるかしら?

他種族とは生命体として根本的に違う存在なのよ…

どの種族も…いいえ…生きとし生ける者すべてに『魂の盟約』が課せられていることは知っているかしら?」


「…そう言えば、レイン様がそんな事を言っていました…

それを破棄する的な事を言って、何やら『契約』させられたような…」


記憶を振り返るような仕草のシュレイナを見ながら、


「…この世界に存在する生命は、すべからく『創世神』様が御創りになられたモノである事は知っているわよね?」


「はい…どの種族にも伝わる創世神話ですよね…

〝無の中に一つの神あり、彼の者7つの神と7つの王を創り、全ての世界を創世せん…″」


シュレイナが、語り伝えられる神話の一説を口にした。


「そう…その7つの神々が様々な生命を生み出し、世界に秩序を齎したのが7つの王達とされているわ。

…アイツ等の傲慢で身勝手な考えの所為で、貴方達の魂に『神盟』が植え付けられた…

貴方達に自覚は無いでしょうけど…その『鎖』は事実存在し、未来永劫縛られ続ける事になったのよ。

あの生簀かない奴等は、そうやって神への反抗心を持たせぬよう生命の根源に楔を打ち込んだ…」


「…」


「…でも、私達『魔族』は…その『鎖』に縛られていない種族なのよねぇ。

創世の時代より…神々に魂を縛られていない者達…それが『悪魔』なのよ。」


「…神々への反逆者…」


ハイマールが、呟いていた。


「そうね…そう呼ぶ者も居るわね…

あながち間違ってはいないんだけれど、ちょっと違うわね。」


「でも…リリス…リアンヌ様。

私達人族にも古くから『悪魔』の伝承はありますけど…どれも神々と対立しているモノばかりでした…」


サクヤが、リアンヌに話しかけた。


「そうねぇ…特に貴方達人族は、昔から『悪魔』との関りが強かったって言うのもあるんだけれど…

まぁ…それに関しては、いつかレイン様の口から聞いた方が良いかも知れないわね。」


リアンヌが、何か言い淀んでいるような言いたくなさそうな雰囲気だった。


「?」


「それより、貴方達は『悪魔』に対する認識がちょっと違うわよ?

魂を縛られていないから神々の思い通りに動かない存在であるという点で言えば、『神々への反逆者』だと言えるんだけど…

そもそも『悪魔』って言うのは、何者にも縛られず、己が『欲望』に忠実なだけなのよねぇ…」


「…でもそれでは、種族として成り立たないんじゃ…?

レイン様…『魔神王』様の配下として使える事も無いんじゃ…」


ガルムが、呟くと


「あら、違うわよ?レイン様にお仕えするのは、私達がそうしたいという『欲望(意思)』なのだから…

それに貴方達もそうでしょ?

レイン様と貴方達の『契約』はどうだったのかしら?

あの方は、たぶん畏まられるのが嫌いだから仲間の様に同等に話せとか何とか言ったんじゃないかしら?

それと面倒臭がりだから素性は隠せとかじゃない?」


レインとの契約はリアンヌの言った通りだ…寸分違わず正解を言い当てていた。


「全くその通りです?!リアンヌ様…レイン様にお聴きになられたとかじゃないですよね?!


ハイマールが、かなり驚いていた。


「私を誰だと思ってるのかしら?側近の魔王の一人よ?聞かなくてもあの御方の行動は把握してるわよ?

それと…多分、その時の『契約』の対価として貴方達の『魂の鎖』は解かれたのね。」


「…?!えっ?!」


少しリアンヌの言葉を考えて整理する間があったが、シュレイナとガルム・ハイマールはほぼ同時に声を発した。


「ち、ちょっと、待ってください…それでは、我々は…あの契約の時から『悪魔』になっていたとか…」


ガルムが恐る恐る聞いてきた。


「そうね。」


リアンヌが簡単に即答する。


「ま…マジっすか?!

『魔族』に帰順するって…そう言う事だったんすか?!…完全に種族が変わっちまってるじゃないっすか?!」


「何も聞いてないんですけど…?それって…私達の了解も無しに勝手にやったって事よね?

…あんの糞魔神王…帰ってきたら絶対ぶっ飛ばしてあげるわ!!」


シュレイナが完全にブチ切れていた。

怒りのオーラが全身から立ち昇っていた…


「あらあら…また面倒臭くなって説明しなかったのかしら?

今頃くしゃみでもしてるんじゃないかしら?」


そう言って、澄み切った青空を見上げるリアンヌだった。



「は、は…ハックション!」


激しくくしゃみをするレイン。


「あらあら、御風邪でも召されましたか、御主人様(マイロード)?」


声を掛けたのは、美しい女性だった。

腰の部分に半透明の翼の様なモノが生えている…


「そんな訳ねぇろう?俺様が風邪をひくなんざ…ある訳ねぇだろう?」


突然悪寒が走り、身震いするレイン。


「な、何だ?!悪寒が走るってのは…ホントに風邪ひいてんじゃねぇのか?!」


「それはありませんわね…創世の7王の一人である貴方様には、無縁な代物でございましょう。」


「…だよな…どっかの馬鹿が…噂でもしてんのかよ?」


「それよりも、御主人様…

下等種族の軍の中にオイル臭い輩が混じってるようですが…

放っておいて宜しいのですか?」


彼等は、

人族の大軍隊の全貌を見渡せる丘の上に立っていた。

美しい女性が人族軍の後方に白地に赤のロゴが描かれた旗を持つ東方聖櫃教団の正規軍の方を視ながら、

嫌な者でも見るような仕草をしていた。


「もうしばらく…様子見ってところだ。」




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