第12話 魔錬石の適性
中庭にマルス聖機士長が現れてから数刻後、殆どの傭兵が倒れ伏していたが、中には、まだ気力で立っている者も数人居た…傭兵達だけでなく聖騎士団の連中も同様に疲労困憊し肩で息をしている。
何故このような状況になっているのか…
それは、マルス聖機士長が、聖機士団と傭兵部隊の連中に『魔鋼騎士』への適正能力を測らせた結果だった。
『魔鋼機士』に搭載されている『魔練石』は、『精神感応石』とも呼ばれていて搭乗者の内なる力を引き出し増幅させる力がある。
『内なる力』とは、長年の修行や鍛錬によって身に付ける『練気』と呼ばれる力であり、それを『昇華』することで『武技』や『錬技』を使えるようになるのだが…
しかし…そもそも『錬気』とは、根本的に『魔力』と同じ力なのだ…
人族に掛けられた『種の制約』により、それが『魔力』とは認識出来ないだけ…なのだ。
事実…人の内にも『魔力』は存在している…
搭乗者の『魔力』…『錬気』を『魔錬石』が吸収し、力を増幅させる事で『魔鋼機士』を作動させる動力となっている。
しかし、実際…腕を動かすだけでもかなりの『魔力』を消耗する。
百人近く居た聖機士団員と傭兵達は、尽く倒れてしまっている…
「全く…なんという様だ?不甲斐ない…それでも武の誉れ高い聖騎士団なのですか?
精進が足りていないのです、もっと鍛錬に励みなさい!」
マルス聖機士長が、機士団の団員に喝を入れる。
「も、申し訳ありません…」
副聖騎士長が、ヨロヨロと立ち上がって謝罪していた。
「あの者達をご覧なさい、『魔鋼機士』を手足の様に操っている…彼等は、先の選抜試験で傭兵部隊に配属されたばかりの新兵ですよ?」
軽快な動きで動き廻る3体の『魔鋼騎士』が、定位置に戻ると背面のハッチが開き、中から操縦者達が出てきた。
カシムとザッハード…そして、グリムだった。
彼等は、『魔鋼騎士』から平然と降り立つと、カシムが話しかけてきた。
「二人共…流石だばなぁ。
オイラなんか、初めて乗った時は歩かせるだけで精一杯だっただよ…それをあれだけ動かして平然としてられるってんだから…
やっぱアンタ等…化け物だ。」
「中々どうして、この乗物は扱いが難しいな…
少しでも気を抜くと大量の『練気』を吸い取られてしまう…」
「…だな、此れでは並大抵の戦士では、扱う事は出来んだろうな…
余程『内なる力』が大きいか…或いは、力の使い方に…長けていなければ…意識を失うか昏倒してしまうだろうな。此れでは、実戦投入は無理だ…」
グリムとザツハードが、操縦した感想を口にした。
「お前達もそう思うのね…
『魔鋼機士』をまともに動かせるのは、私を除けば観兵式の時に乗っていた5…4人だけ…
貴方達を含めてもたったの6人しか居ないの。
こんな事じゃあ…戦争を終結させる程の戦力にはならないわ…」
マルス聖機士長が、3人の元へ歩み寄りながら話す。
「…かと言って、今から騎士団と傭兵達を鍛え直してる時間も無いのよ。」
「時間が無い?とは、どう言う事だ?…5種族連合は、前線から動いていない筈だが…」
グリムが、マルスに訊き返した。
「えぇ…その通りよ、5種族連合軍は動いていないわ…全線で我が軍と膠着状態を続けているわね。
もっと力押しで攻め込んでくると思ったんだけどねぇ…何かしら思惑があるのかもしれないわね…
だけど、彼等は猶予を与えてくれたのよ、こちらにとっては願っても無い好機だったわ。
教団から齎された『科学技術』をさらに発展させてより強力な軍へと進歩できた…
お蔭で徐々にではあるけど、我が軍の方が優勢になってきてる。」
(なるほど…人族などいつでも勝てると高を括っていた…その傲慢さが、俺達が負け続けている敗因か…)
「…だったら、このまま長期戦に持ち込めば…人族が勝つって話だろう?
長引けば長引くほど…その『科学技術』ってのでもっと強くなる筈だからな…」
ザッハードが、当たり前の疑問を口にした。
「貴方の言ってることは、もっともなんだけど…実際、そうもいかないのよね。」
「何か問題でもあるのか?」
「この城ん中には…いんや、オイラ達人族には、長期戦に耐えられるだけの物資が無いんだよ…
最下級の種族だったんだばよ?…他種族に豊な土地も鉱物も何もかも奪われたんだば、
最後に残ったこの東の果ての領土には、もう何も残ってないんだば…」
カシムが、ザッハードの質問に答えた。
「そう言う事よ…だから、私達にはもう時間が残されていないのよ。
それは、国王陛下も分かっておられる…ここ数日のうちに最後の進軍の勅命が下る筈よ…
それまでに、この『魔鋼機士』を1機でも多く実戦に投入しなくてはならない。」
「今のやり方じゃ、そいつは無理だぜ?」
マルス聖機士長の言葉を真っ向から否定する声が、背後から聞こえた。
振り返るマルス達の目の前にレインとハルトが立っていた。
「どういう意味かしら…
貴方の強さは認めているけど…部外者の貴方に口を出してもらいたくは無いわね?」
マルスが、強い口調でレインへ言い放つ。
「如何だろう、マルス聖機士長。少し彼の話を聞いてみないか?」
ハルトが、取りなす様に間に入る。
「ハルト殿下…」
「レイン殿には、何か打開策がある様だ。
其れを聞いてから判断しても遅くは無いと思うのだがな。其れに…」
レインは、ザツハードとグリムが、『御方様』と呼んでいた…と言う事は、彼等にとって目上の存在だろう。
例えば、武術の師匠なのかも知れない…
ザツハード達の選定試験での行動や練兵式でのレインを見る限り、悪い者達では無さそうだが…何故、其処までハルトは、レインを信頼しているのか…
マルスは、練兵式の時にハルトが言った言葉を思い出していた。
寝物語の話をした後、ハルトが独り言のように呟いているのが聞こえていた。
《彼が、纏っている雰囲気…あれは、万人の上に立つ者だけが持つ王の気質…
レイン殿の素性とは、どのような者なのであろう…あれ程、不思議な雰囲気を持っている御仁には、会った事が無い…もしかすれば、本当に『魔族の王』なのかもしれんな…》
そう笑いながら話していた。
(まさか、ハルト様は本気でこの男が『魔族の王』だと思っていらっしゃるのでは無いのだろうか…)
「ハルト様が、そこまで言われるのでしたら…聞くだけ聞きましょう。
さっさと話してみなさい…」
「お前、マジで偉そうな奴だな…?
…ったく、色々と忙しいのにわざわざ来てやったんだぜ。もう少し丁重に出迎えてくれよ?
まぁ、ハルトとの『約束』だからな…説明してやるが…」
そう言って、おもむろにザッハード達の方へ振り向く。
「レ、レイン様…?」
「ちょうど良い…おい、お前等、どうだった『魔鋼機士』に乗ってみた感想は?」
「か、感想ですか?…これと言って…特には何も…
強いて言うなら、操縦桿から『魔錬石』に力を注ぐ時に違和感みたいなものを感じたくらいでしょうか…」
グリムが、考えながら感想を述べた。
その答えにカシムも賛同する。
「そうだばな、なんて動かしててもなんかしっくりこねぇんだば…
人の物を動かしてるって言うか…借り物を触ってるって感じがするんだげ…違和感に戸惑って動かし難いんだば。」
「動かし難い…?
そんな筈無いわ…『魔練石』は、誰にでも扱える様に教団の研究施設で誰にでも使えるよう標準化されてるのよ?」
マルスの言葉にレインが、答える。
「だから、お前等はなっちゃいねぇのさ…『科学技術』ってのがあっても使い方が分かってない。
そもそも『魔練石』は…数千年前『機械神族』から人族の王に贈られたもんなんだぜ?
あれは『機械神族』の根源に…」
「…『機械神族』?我等人族が、位階序列上位の彼等と交友があったと言うの?
歴史書には、そんな記録は何処にも…」
マルスが、口を挟むとレインが舌打ちをした。
「ちっ…話の途中で質問するのか?礼儀も知らん奴だな…
面倒臭ぇのに説明してやってるんだ静かに聞けよ?
その『魔錬石』ってのは『機械神族』にとって『心臓』みたいなもんだ。
無機生命体であるアイツ等には、原動力となる『核』が必要だからな…
それが無けりゃ、ただの機械…『魔鋼機士』と同じって事だ…」
「…何が言いたいのよ?
この問題とその話に何の関係があるっていうのかしら?さっさと要点だけを話しなさいよ!」
少し興味が湧いて来たのか…マルスが、急かす様に話す。
「…ったくせっかちな女だな?…興味がわいたのか。
お前等の抱えている問題は2つ…一つは、『魔力量』だな。
『機械神族』の『魔錬石』には、膨大な魔力が蓄積されている…だから、あれ程の力が発揮できるんだが…
お前等の作った模造品は…形や造りは、似ていても『魔力』が込められていない。
だから、直ぐに操縦者の『錬気』を消耗して動けなくなっちまう…
もう一つは、大量生産した所為で全部同じモノを造っちまった…って事だ。」
「大量生産が悪いとでも言うの?
さっきも言ったけど、教団のお蔭で誰にでも使えるように標準化してる…」
「…成る程、その標準化がもう一つの問題点と言う訳か。」
暫く考えていたハルトが、何かに気付いた様だった。
「おっ?分かったのかハルト?」
「先程、彼等が話していた感想の中にヒントがありましたからね。
人それぞれ個性がある様に『錬気』にも違いがある…
要するに標準化されている『魔錬石』では、個性のある操縦者に適していない…
だから、違和感があり…しっくりこなかった。」
ハルトが、自分の導き出した答えを話した。
「…操縦者と『魔錬石』には、相性があるって言ってるのですか…?
そんな…事が、あるんでしょうか…『魔鋼機士』は我等が創り出した心持たぬ機械です…』
「…使い慣れていないからと言う考え方もあるんだけど…
レイン殿はそうは言っていない様だよ?」
ハルトが、微かに笑みを浮かべながらレインの方へ振り向く。
「そうでしょう?レイン殿。」
口元を吊り上げるレイン。
「ああ…相性で正解だ。」
「操縦者の個々に合わせて『魔鋼石』を作らなければならないという事ですか?!
それこそ、時間が足りない…それでは到底間に合わない…」
マルスが、絶望的な顔をしている…
「普通ならな…」
「…?」
「お前等が創った『模造品』は、良く出来てるからな…
おい、お前等…ちょっと、そこの『魔鋼機士』に乗ってみろ。」
「へっ…?レイン様それは…」
「つべこべ言わずにさっさと乗りやがれ!
面倒臭ぇんだからさっさと終わらせして昼寝してぇんだ、この馬鹿共が急げっ!!」
「は、はいっ!」
バタバタと『魔鋼機士』に乗り込んでいくザッハード達。
「何をやろうと…」
マルスが呟くように話し掛ける。
「…まぁ、見とけって…今に分かるからよ。」
「レイン様、準備出来ましたが…次はどの様に…?」
『魔鋼機士』の中からザッハードが声を掛けて来た。
「よし、そんじゃあ…お前等、操縦桿の中央にある魔攻回路に魔りょ…『錬気』を流し込め。
掌に『錬気』を溜める気持ちでやってみろ…」
「魔攻回路へ直接ですか?」
「ああ…良いから言われた通りにやってみろ。」
中の3人が、掌を魔攻回路に充て『錬気』を練る…
暫くすると心臓部にある『魔錬石』が輝き始め…駆動音が鳴り始めた。
「んじゃ…そっから得意とする『武技』でも『錬技』でも良いから
流し込んでいる『錬気』にイメージを込めてみろ…」
言われた通りザッハード達が、イメージを『錬気』に乗せる…
すると…それぞれの『魔錬石』が違った色に輝き始め…外観が変形して行く…
ザッハードの機体は、黄褐色で重厚感のあるタイプへ…
グリムの機体は、濃紫で手足が長くシャープなタイプへ…
カシムの機体は、全身白く胸の部分だけが。金色のスタンダードタイプへ
と変形してしまった。
(ザッハードとグリムは、まぁ順当な形になったな…
それにしても…あのカシムって奴は『太陽神』によっぽど愛されてのか?…あの配色にあの剣…)
「こ…これは…?!」
マルスとハルトが目を剥いて驚く。
「これが…本来の『魔鋼機士』の姿って事だ。
アイツ等の『錬気』に共鳴し、その力を十分に発揮する形に変形する…」
「こ…これが…本来の『魔鋼機士』…」
マルスとハルトが同時に呟いていた。
「おい、カシム。
お前、ちょっと動かしてみろ…さっきは違和感があったんだろう?何が違うか体感してみろ…」
レインが、カシムに指示を出す。
「オ、オイラっすか?!
り…了解したっす、ちょっと…やってみるっす…」
そう言って、操縦桿を握るカシムが…
「えっ…?!これ…って…」
「ん?どうした…操縦桿の握った感じが、さっきまでと違うか?
…長年使って慣れ親しんで来た剣の柄を握ってるような感じがするんじゃないか?」
「…ホントにそうだば…それに伝わってくる感じが…」
「ほら…試しに掛かって来い…
面倒だが、そこそこ面白そうだから相手してやるぜ。」
「レ、レイン様?!何を…この機体は…不味いですよ?
これ程の内在能力を持っているとは…」
ザッハードが、驚いた声を出している。
「試すなんて…万が一何かあれば…それにこの機体の持つ性能は…」
「…やってみねぇと強さが分かんねぇだろう?
ほら、カシム…さっさと掛かって来い!」
怒鳴りつけられ、カシムがビクッとなっていた。
その反動で操縦桿を押してしまう…
その瞬間、駆動系が大きく音を鳴らし『魔鋼機士』が、歩き…いや、凄まじいスピードで走り出した。
「うわぁっ?!」
カシムが、驚いた声を出している。
カシム自身こんなスピードが出ると予想すらしていなかったのだ。
「ほう…良い動きじゃないか…」
凄まじいスピードでレインの方へ飛び出し、避ける暇もない…
レインは、薄く笑っているように見えたが、ザッハードとグリムは、瞬間的に体が動いていた。
頭で考えて動いたわけではない…それ程の動きだった…無意識だったのかもしれない
「レイン様!」
ザッハードの機体とグリムの機体が、瞬時にカシム機とレインの間に現れる。
「う…そ…アレは…『残影身』…?!」
目の前に現れたザッハード達の機体に激突する瞬間、大地を蹴り上げ空中へ跳び上がり間一髪で避けた。
一回転して軽く地面に着地して見せたカシム…
あのスピードであの一瞬で判断し避けきるとは…並外れた動体視力と反射神経を持っている様だ。
そして、その動きをあの機体でやってのける…やはり、カシムは並みの人族ではない…
ハルトとマルスは、開いた口が塞がらなかった。
目の前の光景が、余りにも信じられなかったのだ…
機械を動かしている動きではなかった…人の…然も修練された戦士以上の動きだったのだ。
「ほう…思った以上に良い動きをするじゃねぇか。」
レインが、平然と振り返り機体から出て来たカシム達に声を掛ける。
「レイン様!何を考えてらっしゃるんですか?!
この機体の質量をあの速度で…もし、直接接触したらただでは済まないレベルですよ!」
「カシム殿が、機転を利かせてくれなければ、我等もろともレイン様も吹き飛んでいたところです!
…レイン様の『御力』をもってすれば、問題ないのかもしれませんが…
もう少し、慎重にしていただけませんか?
御側にお仕えしている者達の身にもなって頂かなければ…
皆どれ程『御身』を心配していると思っておいでなのですか?!
そもそも、本来の力を1/1000以下迄抑制されておられるのですよ?
その事をお忘れではないでしょうね?…大体いつもいつもレイン様は身勝手が過ぎます。
我等のみならず、関係する方々にも影響力を与えていることを自覚していただかなければ・・・・」
グリムが、説教を始める…
(うへぇ…忘れてた、アイツ説教魔だったな…スイッチ入っちまってる…)
レインが、グリムの説教に辟易している様だ。
宥める様にグリムに話しながら
「お…おう、す、すまん…グリム。だから…今は、ち、ちょっと落ち着こうか…?
説教ならゆっくり後で聞くからよ…頼むから少し待ってくれ…なっ?」
そのやり取りを見ながらマルスが声を掛ける。
「…これは、一体何なの…?
『魔鋼機士』が『強化装甲』の様に変形するなんて聞いてないわ…
それに…どうしてあんな動きが出来るのよ?
ザッハード達が、使ったのは『残影身』でしょ…?あの『錬技』を生身ではなく機械で…どうやって…?」
マルスは疑問だらけの様だった…目の前で起きた事が全く理解できていないのだろう。
それは、ハルトにも言えた。
「…カシム殿の動きも機械のそれではなかった…
それにあの瞬間…咄嗟に中空へ跳び上がるなど…鍛錬された者でも不可能…」
「…疑問はもっともだろうな。
アイツ等の話を聞いてみると理解できるぞ?なぁ、カシム…どうだった今回の乗り心地は?」
レインが、カシム機に向かって話し掛ける。
操縦席で自分が何をしたのか理解できていない様子のカシムが、レインの声に気付き我に返った。
「…あっ、エ、えぇっと…オイラは何をしたんだば…?
危険だと認識した瞬間…勝手にこの『魔鋼機士』が動いた…って感じだっただば…」
自分の身に起こった事を振り返る。
それにザッハードも加わる…
「…俺も同じだ…レイン様をお守りしなければ…と思った瞬間、機体が勝手に動いた…」
まだ説教をしていたグリムもザッハードの言葉に賛同した。
「…俺も同じだな、間に合わない距離だったので、頭の中に『残影身』が浮かんだ…」
「…だそうだ。
『魔錬石』ってのは『精神感応石』とも呼ばれてるのは知っているか?」
「…知ってるわ。古文書にも書いてある…
《『魔錬石』は魔力や使用者の精神エネルギーに感応し、その大いなる力を発揮する。》と…」
「そう…この石は『機械神族』の『核』であり心臓だ…いわゆる『魂』の器って奴だな…
その体内の『核』に思考や精神の回路を接続していた…」
「…彼等の意志や思考…に反応した…って事なのね…
『魔錬石』に力を溜めておく事で…操縦者の『錬気』の消耗を減らせる上に…
その状態でなら操縦者の意志や思考…精神の力で、あれ程の動きが出来るようになる…」
マルスが、まるで自問するように呟いていた。
「おいおい、聖機士長さんよぉ…
呆けるのは良いが、早いとこその辺に転がってる連中を叩き起こした方が良いんじゃねぇか?
お前等のとこの王様が、明後日には全軍を率いて出兵するらしいぜ?
この『魔鋼機士』がお前等の切り札なら急がねぇと間に合わなくなるぞ。」
「なっ…?!」
マルスはレインの言葉に驚き、同時にハルトの方へ振り向いた。
「あぁ…レイン殿の言った事は、事実だ。先刻国民へ発表されたようだ…私もさっき聞いたばかりだが…
兄上が…ガシン国王陛下が、決断された様だ…」
「しかし、それは…どういう事なのでしょうか?ハルト殿下。
何故、我等機士団へ通知が来ていないのですか…?
最高評議会で緊急議決されたにしろ、国民へ発表する前に騎士団には、ご報告があって然りではありませんか!それを…」
「…進言したのは、ザスト大司教殿の様だ。
国王陛下の独断で決議されたらしい…」
「まさか…何故此れ程急がれるのですか?
我等の物資が、枯渇するのはまだ数ヶ月は先の筈です。」
マルスが、ハルトに食ってかかる様に詰め寄った。
レインが、横から口を挟む。
「…急がせたのは、教団だぜ?
なーんかあったんじゃねぇの…事情が変わったんだろうさ?」
(…ま、大体の想像はつくがな。)
レインが、クスッと笑った様に見えて、
マルス聖機士長が不審な視線を送っていた。
(…このレインと云う男は、一体何なのかしら…『機械神族』の事をあれ程熟知しているし…先日も…『太陽神』にもかなり詳しく知っているようだったわ…ホント、不思議な男ね?)
「ほれ、さっさと『魔鋼機士団』を創り上げねぇと間に合わんぞ?」
「…貴方に言われると何かムカつきますね…?
国王陛下が、御決めになったのであれば…従うのが、騎士としての務め…」
マルス聖機士長は、そう言って踵を返し、倒れている傭兵達の方へ歩いて行った。
後に残されたレインとハルトは、その凛とした後ろ姿を見つめていた。
「なあ、ハルト…お前に少し聞きたい事があるんだが…」
「…私に話ですか…?分かる事であれば、何でもお答えしますよ?」
薄く微笑むハルトが、快く承諾した。
「そうか…だったら、単刀直入に聞きが…
数年前、国を追われた王族の中に…サクヤとライコウって言う姉弟が居た事を知ってるか?」
ハルトの顔から微笑が消え…一転険しい顔つきになる。
「…何故。貴方がその名前を…」