第11話 疑惑と追及
王城の奥に隣接して建つ違和感のある建築物。
中世ヨーロッパの石造りの街並みとは全く異なる流線形のその建物は、素材が何で出来ているのかも定かではなかった。
そこは『東方聖櫃教団』の所有する教会である…国民の中には『研究所』と呼ぶ者もいる様だ。
教団は、経典と呼ばれる書物により得られる知識によって『科学技術』を人族に齎した。
その功績を讃え、ガシン現国王が城内に教会を建立したのである。
教会は各地にも建立され、東方域には『東方聖櫃教団』の教皇が座す聖地がある。
教皇は一度も聖地から出た事が無く、その出自や年齢、性別すら知られておらず、謎に包まれている。
他の宗教と大きく違うのは、彼等の信仰する神は、古よりどの種族においても崇め奉る神である『運の神』ではなく…『知識の神』である事だろう。
普通なら突然現れた他教徒を受け入れる事など容易には出来ない…悪くすれば、弾劾される事もある。
しかし、現国王は快く受け入れ、すんなりと容認してしまった…そして、驚く事に『国教』に推挙したのである。
国王陛下の擁護もあり、教団は少しづつ国民に浸透して行ったのである。
そして『東方聖櫃教団』が国教となってから数年余りで…
彼等から齎された『科学技術』により、国力や軍事力が飛躍的に向上し、数千年前に人族が失った栄華と繁栄…そして、国民の活気を取り戻したのである。
『科学技術』の知識を有し、其れを無償で提供するなど…
国に対し多大なる貢献をしている教団の権力は、絶大であった。
政界にも幅を利かせ、国政にまで関与していた。
レインとハルトは、マルス聖機士長の案内で教会へと足を運んだ。
到着すると教会の外には、国王の護衛を務める近衛騎士団が警護していた。
「…何かしら?こんな所へ近衛騎士団が来てるって事は…
国王陛下も御訪問されているのかしら?」
マルス聖機士長が独り言を呟いていると、
「ハルト王弟殿下?」
背後から声を掛けられ、3人が振り返ると、其処にエリュシナ宰相が立っていた。
「こんな所でいかがなされました?」
「それはこちらのセリフだよ、エリュシナ殿。
この物々しい警護は…国王陛下が教会へ御越しになられているという事かな?」
エリュシナの質問に質問で返すハルトに、
「えぇ…国王陛下は、現在ザスト大司教殿へ面会をしております。」
「…ふむ、国王陛下自ら教会へ出向くとは…普通であれば、大司教殿の方を呼び出すであろうに…
それ程、お急ぎになっておられたという事は、やはり先程の…」
「それは私にも分かり兼ねますが…
先程の『魔鋼機士の暴走事件』の後、安全を期して王城へ戻ろうとしたのですが、此方へ赴くようにとの仰せでしたので、警護を伴い教会へ参った次第です。
何故、急に危険を冒してまで此方へ赴かれたのか…『賢王』様の御考えは、我等凡人には理解できませぬが…何かお考えがあっての事かと存じます。」
「…となると、国王陛下も我々と同じ御考えか…」
ハルトが、教会を見上げながら呟いていた。
その時、マルス聖機士長が叫んだ。
「王弟殿下!不味くありませんか?!
万が一、あの『暴走』が教会の仕組んだ謀略だとしてら…国王陛下が危険ではありませんか!」
「!!」
「どういうことですか?!
まさか、先程の『暴走事件』は教会の謀略だと言うのですか?!
それでは、今大司教と謁見されている国王陛下の身が…!」
マルスの話を聞き、エリュシナ宰相が慌てていた。
警護隊に対し、足早に指示を出し教会内に走っていく。
その後を追う様にハルトとマルスが駆け出して行った。
(…おかしな気配だ…何だ…どこか違和感がある…)
レインは、教会を見上げ眼を細めていた。
大聖堂の大扉を壊しそうな勢いで開け放ち、雪崩れ込む様にハルト達が入って来た。
「陛下!ご無事ですか?!」
ハルトが大声で陛下の安否を確認するが、
「何じゃ…騒々しい。ハルト…宰相も一緒とは…何事じゃ?
今は、大司教殿と今後の方針について会談中じゃぞ?
それを何の断りも無く入って来るとは、無礼にも程があるのではないか?」
予想とは全く違った雰囲気だった。
憤慨している国王の後ろで最初は驚いていたザスト大司教もにこやかに出迎えている…
教団が首謀者であり、国王を誅殺しようとしているという推理は、間違っていたようだった。
「あ…いえ、申し訳ありません。
国王陛下の身に危険が迫っているかも知れないと…私共の早とちりであったようです。」
ハルトが、速やかに低頭し謝罪する。
「早とちりで済まされる問題ではないぞ!」
憤慨するガシン国王に、
「国王陛下…何やら誤解があったようですが、ハルト殿下も陛下の身を案じての行動でしょう。
此処は私の顔に免じてご容赦頂けませんでしょうか?」
ザスト大司教が、助け船を出してくれたのだ。
「…大司教殿が、そう言われるなら今回は不問としよう…だが、2度は無いと覚えておくが良い!」
ハルトとエリュシナは低頭し、マルスは跪きながら
「はっ!」
短く返事を返した。
その返事を待っていたかのようにザスト大司教が口を開いた。
「国王陛下、これは考え様によっては…良い機会ではないでしょうか?
国軍の要であるハルト全騎士団長とマルス聖機士長が同席しておられる…
となれば、前もってお二方にも今後の国の方針をお伝えしておけます。」
「おぉ、そうじゃな!流石は、ザスト大司教殿!
何せ…我の意見に反対するのはいつもこの二人じゃからのぉ…軍議に時間を掛けてる場合ではない。
それも『知識の神』様の教えなのかね?いつも感嘆させられるのぉ、」
ザスト大司教とが新国王の会話の全容が見えていないハルト達であったが、レインは、
「…『暴走』は、お前等のでっち上げだったって事だろう?」
「?!」
国王とザスト大司教の顔から笑みが消えた。
話を続けるレイン、
「…わざと国民にも他種族達にも『魔鋼機士』は、失敗作だと印象付けたんだな…
噂話は広まるのが早いからな…5種族連合側にも直ぐに伝わるだろうさ…
そうなりゃ…単細胞なあの連中はこの機を逃す筈がない…不利な戦況を覆す為に総力戦を仕掛けてくるだろうからなぁ…
そこで実際は『暴走』などしない完成された『魔鋼機士』を使って5種族連合を葬ろうと画策してたってとこだろう?
5種族連合は、まんまと罠に嵌まり…お前等の掌の上で踊らされるって事だ…」
レインが、話し終えると国王が青ざめた表情で訊き返した。
「き、貴様…何故それを知っている?!」
狼狽したガシン国王の前にザスト大司教が歩み出る。
「貴方は…確か…今朝大回廊で御会いした方ですね?
不思議な雰囲気を持っておられたので覚えていましたよ…ですが、何者なのですか?
あの時エリュシナ殿が迎えに来られていましたね…ハルト殿下の客人だとか…確か…レイン殿でしたね。」
「まぁな、そう言うこった。
ん…で?どうなんだよ、俺様の話は間違ってるか?」
「ザスト大司教、先程のレイン殿の話は本当のことですか?!
まさか…わざとあの騒動を起こしたというのですか…怪我人も…いいえ、犠牲者も出たのですよ?!」
エリュシナ宰相が、詰め寄る。
再び笑顔を取り戻したザスト大司教が、
「いやいや、レイン殿の話は面白いものでしたが、何の証拠もない…それこそただのでっち上げです。
それに…あの『暴走』は事故だったのですよ?…そう処理されます。
国王陛下がそう裁定されましたので…明日にでも発表されるでしょう。」
笑みを崩すことなく淡々と答えた。
「そ、そうじゃ、その件はもう終わったのじゃ…これ以上詮索をすることは許さん!」
エリュシナもハルト達も頭を垂れたが、レインだけは国王とザストを凝視していた。
(…これが…『賢王』と呼ばれる国王か?こんな…もしかして演技してやがんのか?
いや、そうは見えねぇ…これではまるで傀儡じゃねぇか…だが、何だ…この違和感は…)
「そんで、オッサンはこの先の戦争をどう動かす気だ?
5種族連合…下級位階種族の殲滅か?それとも…上級位階種族にでも挑もうってのかい?
オッサンからは、俺の嫌いな匂いがしてんだよなぁ…あの『知識の神』の腐臭が漂ってきやがる。」
レインがあからさまに嫌そうな顔をしている。
「創世の神々の中でも至上の神である『知識の神』様を冒涜するとは…
人の身の分際で不遜が過ぎますぞ?
それに、軍を動かすのは…私などではなく…国王陛下御一人でございます。」
ザスト大司教の眼の奥に淡く光が宿ったのをレインは見逃さなかった。
「どうした…オッサン、押し隠してた感情が動いてないか?
感情なんて動かしてたら信仰心が欠落してるってどやされんじゃねぇの?
なんせ、お前んとこの信仰してる『知識の神』は、確か『感情』なんて代物は捨てろとかって説いてなかったか?
ホントあの頭でっかちの馬鹿は…昔っから気にくわねぇ『知識』フェチの糞オタク野郎だったからな…
『知識』だけが善であり、それ以外は堕落や背徳行為だとか言ってるバカだろ…?
よくそんな奴を信仰する気になったもんだ?」
「…貴方は、我等が信仰する『知識の神』様の事を良くご存じの様ですが…
まるで、昔からの悪友にでも対する口の利き方だ…
崇め敬うべき神に対する態度が、余りにも不敬で不遜過ぎる…何が貴方にあるのでしょう…」
「そうじゃ、その無礼な者は一体何者だ!
国王である我に対する態度も…いや、それ以上に我等が信仰する『神』への暴言の数々…
何故このような場に列席しておるのだ、ハルト!」
目の前で馬鹿にしたように不敵に笑うレインに激高した国王が、ハルトへ詰問した。
「恐れながら…申し上げます。
この者は、人族の中で並ぶ者が無い程強い…恐らく騎士団の中にも彼と比肩する者はおりますまい…
そのような人材を放っておくべきではないと…此度騎士団へスカウトしております。
この場へは偶々同席しただけに御座います。」
「北の辺境域の更に先の地より王国へ旅をしてきたようで、礼儀などは弁えておらぬようです。
礼儀作法などとはぬ縁の地で生きて来たのでしょう…
ご容赦願えませんでしょうか?本人に悪気は無いのです…」
ハルトとエリュシナが弁護していた。
エリュシナが擁護するとは思っていなかったのか、ハルトもレイン本人も驚いた顔をしていた。
「ふむ…宰相である其方がそこまで言うのなら国王としての寛大な心で許そうではないか。
その愚か者を連れてさっさと下がるが良い。」
「あ?お前誰に向かって…」
国王に食って掛かろうとするレインをハルトが制止し、
「失礼いたしました…国王陛下の御無事も確認できましたし…
それでは、我等は此れにて失礼いたします。」
そう言って、ハルト達はレインを抱えるように退室して行ったのである…
何やら喚いているレインが、扉から消えると、
「…あの男…以前何処かで…感じた事のあるあの雰囲気には覚えがあるのだが…気の所為か…
其れに他種族の密偵かも知れんぬしのぉ…」
「あの者が密偵であれ…秘密裏に進めている我等の計画が、知られているとは思えません。
…用心に越したことはありませんが、お気になさる必要はありません。
其れに、5種族連合との戦争は表向きの事…我等の真の目的に気付く事などありますまい…」
「…そうじゃな…此度の事件が、我々の策だと勘付かれたのには、多少驚きはしたが…大いなる歴史の流れは、既に動き出しておる。
もう誰にも止める事は出来ぬわ。
先ずは、我等の真の目的の為に5種族連合には消えて貰わねばならん…」
ガシン国王の顔に邪な笑みが浮かんでいた。
「… 我等の真の目的を成就する為ならば、いかなる犠牲も止む負えません…
其れが、異教の徒であれば尚更…崇高な我等の『神』以外を信仰する愚かな者達には、我等の目的の為の糧になって頂きましょう。」
ザスト大司教は、薄く微笑んだ顔を崩す事なく淡々と話をしている。
「神は…唯一『知識の神』であるな。
我等人族に力を…『科学技術』を齎し、未来へと導いて下さる。
其の教示を指し示してくれるザスト大司教殿には…『東方聖櫃教団』の教えには、感謝しておるぞ。」
ら、
「偉大なる王が、感謝などする必要など御座いません。
我等は、至高なる『神』の御心の思し召すままに従っているだけで御座います。
『神』は常に貴方様と共に居らっしゃいます。」
傾頭し、礼節する大司教に、
「そうであったな…『神』は我と共にある…」
ガシン国王は、大聖堂にある『知識の神』のシンボルを見上げた。
一日と待たず、観兵式での『魔鋼機士』暴走の噂は、瞬く間に国中へ拡がっていき、その話題で持ち切りとなっていた。
国中が慌ただしくなり始めていた。
5種族との最終戦争が近いと国民も肌で感じている様だった…
それは、新たに傭兵団に徴兵された者達も例外ではなかった。
傭兵団の駐屯地は、聖騎士団の宿舎と隣接しており、敷地中央の広場に傭兵達が集められていた。
緊迫した空気が漂っていたが、口を開く者は無かった。
その中にザッハードとグリム…それにカシムも居た。
「なんだば…空気がピリピリしてるだな?
みんなどうしちまったんだば…」
カシムが、歩きながら周りを見回していた。
頭には包帯を巻いている…あの暴走事件で『魔鋼機士』に搭乗していたカシムは、倒れ込んだ拍子に気絶してしまっていた。
「カシム殿ではないか?
大丈夫なのか?事件に巻き込まれて怪我をしたと聞いたが…」
グリムがカシムに気付き声を掛けて来た。
「おお、カシム殿!どうだったんだ?あの『魔鋼機士』なるモノを動かしたんだろう?
感想を聞かせてくれ、あんなものは初めて見るからなぁ…早く俺もあれに乗って動かしてみたいんだが…
おや?カシム殿、怪我をしたのか?」
ザッハードは、『魔鋼機士』に興味津々の様でカシムの怪我に気付くのが遅かった。
「グリムさんにザッハードさんじゃなかですか。
心配には及ばんです、大した怪我ぁじゃないだで…」
「全く何を浮かれておるのだザッハード?
『魔鋼機士』とやらに乗るには…何やら適性がどうとか言っておったではないか。
動かせたのは、カシム殿以外で2人だけだただろう…確か…ケリーとダイナムだったか?」
(…あの二人は、どこか異質な感じのする人族だったが…
何といったらいいか…そう、『魂』の輝きが無いと言うか…あれは、何だったのか…)
グリムが、何やら物思いに耽っている。
「ほんでも、調整すりゃ…みんな乗りこなせるようになるゆうとったし…
それに、こん集まっとるんは『魔鋼機士』をそれぞれに合った機体へと調整する為の個人の資質を検査するんやなかっただか?」
「そういう話だったな…それでこいつ等はこんなに緊張しているのか?」
辺りを見回すグリムに、
「それは違うんだば…多分、こん前『暴走』した事が原因だで…あの時『魔鋼機士』に乗っていたユリウス隊長が亡くなったんをみんな知ってるんだば…」
カシムが、自分の考えを口にする。
「成る程…確か体内の『魔力』を吸い尽くされていたと言っていたな…」
(それが事実なら…『魔鋼機士』は危険な代物でしかない、戦争に投入する程信頼できるものでないという事か…)
ザッハードも思案に耽ていると、
「そうだば!ザッハードさん、あん時すんごい強か人がおったんだばが、もしかんしたら…
ザッハードさん達の知り合いじゃなかかと思って?」
「強い人?」
「そうなんだば、『魔鋼機士』を片手で軽々と投げ飛ばすし、竜種並みの強度を誇る装甲を素手で打ち破るし…巨人種にも匹敵する程の膂力を持っているのにそん人には全く通用せんかったんだば…」
少し興奮気味にカシムが話している。
「あん強さは…ザッハードさん達と同じ…もしかすっとそれ以上の『化け物』かもしんねぇ…そんぐれぇ、強ぇかった。」
ザッハードとグリムが、目を大きく見開き顔を見合わせた。
「そ、その者の名は?な、何と名乗っていたか覚えているか?」
「…確か…あっ!」
突然、カシムが一転を見詰めながら変な声を出した。
「どうした、カシム殿?」
訊き返すザッハードに…カシムが、指を差しながら、
「あ、あの人ですよ?!」
そう言われたザッハード達が、指の差す方向に振り向き愕然とする。
「レイン様?!」
ザッハードとグリムが声を揃えてその名を叫んでいた。
それは、会場中に響き渡り、会場中の傭兵達の視線を一身に浴びる結果となった。
中庭の奥にある巨木の下に黒いコートの男が一人立っていた。
ザッハードの声が聞こえたのかこちらに振り向くと忽然と姿が消え…
「お前等何やってんだ、こんな所で?」
突然背後から声を掛けられ、跳び上がって驚く3人。
「レ、レ、レイン様こそ、このような処で何をなされているのですか?!」
グリムが、訊き返していた。
カシムは、ポカンとして何が起きたのか理解できないと言った表情だった。
(…今んは、『残影身』…?いんや、まるで別物だで…
あの木の下からここ迄の間にどんだけん人が障害になっとると思ってるんだば…
それをすべて躱して超高速移動なんて不可能だば…)
「あぁ…俺様は…まぁなんか成り行きでな…話せば長くなるんだが…
それより、お前等の方こそ何やってんだよ?ここは聖機士団と傭兵団の駐屯地だぞ?
ん?ああ、そうだった此処へは一緒に来てたんだっけ?」
「はぁ?!わ、忘れてた?!
俺達がどれだけ探したと思ってるんですかっ?!」
ザッハードとグリムから殺意のオーラが立ち昇る。
それを見て慌てて否定するレイン、
「あ…い、いや、ちょっと待て…断じて忘れていた訳では…ないぞ!
そ、それよりそっちの…」
カシムの方へ眼をやり、話し掛ける。…話をそらそうとしているのが見え見えだ。
声を掛けられたカシムは、少し緊張気味に、
「お、おらは、カシムですだす。
南方域の辺境地区にあるナハトってところから来たんす。」
少しどもりながら、レインに応えた。
「ほう…お前…人族にしては、良い『錬気』を持っているじゃねぇか。
南部域と言ったな…確か…人族の南に住む民は、シャイナーを崇めている奴が多かったよな?」
顎に手をやり、何かを思い出すような仕草をしていた。
「良く知ってるだばな?
そがん通りだで、オイラの村は『運命の女神』様と同じくらい『太陽神』様も崇めてるんだば…
でも…何でそんな事を知ってるんだばか?そいは、村の者しか知らない筈だば…」
「あぁ…昔、シャインによく自慢されたからな…
お前等の信仰心や物事に対する努力・精進は、どの種族にも負けない程素晴らしいんだとさ。
それにアイツの『教え』は、人の中に在る『心』を燃やしより高みへと歩む…だったか…
心を鍛え『錬気』を高める、それが内にある『魔力』を強くするんだが…」
レインが、遠い日の記憶を思い出していたのであろう、つい口から言葉が漏れていた。
それを聞いたカシムは、
「シャインさんって…誰だば…?あれ…ちょっと待ってけろ、それって…もしかっすっと…」
目の前の黒いコートの男が、何者なのか…大きく目を開き凝視していた。
ザッハードが、それに気付き慌てて、
「だぁっ!レイン様?!」
突然、カシムとの間に割って入りレインに耳打ちする。
《レ、レイン様、な、何をおっしゃっているのです?!
この者は、我等の素性を知らないのです。『太陽神』様が知り合いだなどと軽々しく口に出しては…》
「ん…あぁ、そうだったな…まぁ、心配する必要もないだろう?
このカシムとやらは、信頼がおけそうだ…人の素性をとやかく詮索する程、野暮な輩ではないのだろう?
お前達が、認めている人族の青年の様だしな。」
「そ…それは確かにそうですが…しかし、どこから素性が露見するやもしれないのです。
用心に越したことは…」
グリムが、レインへ忠告を促していた。
「気にすんなって、なるようになるさ。それにお前等、成り行きとは言え傭兵団に入ったんだろ?」
「そ、それは…レイン様を探すには、ちょうど良いかと…」
「いい機会じゃねぇか、そのまま傭兵団に入ってろよ?」
「それは…どういう事なのでしょうか?我等は元々…」
密偵であるといい掛けカシムが居る事に気付き、口籠った。
「…『科学力』って奴に興味があって、この国に来てみたが…
少し事情が変わって来たんでなぁ…もう少し、此処に留まる事にするからよ。
それに…お前等も此処に居るって事は、あの『魔鋼機士』ってのに乗る事になるだろうから
使い方を習っとくんだな…」
「レイン様、暫く残るって…どういう事ですか?」
会場からどよめきが起こった、マルス聖機士長と聖騎士団が入って来た様だった。
「そろそろ時間の様だ。
お前達は、暫く成り行きに任せておけば良い…」
「なっ…」
何か言いたそうなザッハードとグリムに背を向け、
親指でカシム達を指さすと
「カシムとやら…俺様の素性は、そいつらにゆっくり聞いておくが良い。
…人族にしては、かなり見込みがある…が、お前にも何らかの目的があって此処に居るんだろう?
まぁ、詮索する気は無いが…必要なら助けてやってもいいぞ?
『契約』すんならいつでも言って来るが良い。」
「…『契約』ってなんだば…?」
訊き返そうと声を掛けたが、レインの姿は忽然と消えていた。