第十五話〜彼女との出会い
最近、妙なことが多すぎる。
占いのときから、変な事件を目撃するし、誰かの視線を感じる。
「まぁ、気のせいかもな」
俺はオカルトは好きだが、何でもかんでもこじつけるようなことはしない。
あの占い師がおかしかったのも、事件が多発してるのも、俺が歩いてるところの治安が少し悪いからだ。いや、それも問題か。
「あのー……」
「ん? なに?」
俺に話しかけてきたのは美少女。大体俺と同い年くらいか? 寝起きに悪そうな黄緑のドレスを着ている。
「助けてください! 追われてるんです!」
「えっ……?」
これは治安悪い説立証ですね、はい。
「いいですけど……」
「ありがとうございます!!」
『どうやらお相手さんはお嬢様みたいですね』
『それに歳はあなたと変わりません。あなたは彼女を暗殺者から守り、結ばれます』
占い師の言葉を思い出した。
「えっと、君は何歳なのかな?」
あるわけない。占いは殆どバーナム効果だ。だから、こんな偶然は……
「十八歳です。それがどうかしました?」
年齢クリアか。だが、世の中には同い年の人なんて沢山いる!
「お、お嬢様だったりする?」
なに緊張してるんだ俺。この子が俺の彼女になるなんて、決まったわけじゃないのに……
「はい。そうですよ。私の姓は石井、名は恵蓮です。」
「霧咲煌星です。ど、どうも……」
あの占い師マジもんかよ!?
「そんなにかしこまらなくても……、同い年ですし、気軽に話しま……」
恵蓮は咄嗟に、煌星の腕を掴み、走り出した。
「!? どうしたの? 急に走り出して」
「お母様が、私を実家へ連れ去ろうとしているんです。石井家は代々、歳が十五になると空いている別荘に、使用人と住むことになりますが、お母様は私だけを戻そうとしてくるんです」
占い師の『あなたがすべきことは、彼女の使用人を信じないことです』って、この子の毒母が根回ししてるかもしれないってことか。いや、ここまで当たってるから……
「わかった! ここは俺が止める」
俺は脚を止め、恵蓮の腕を振り解く。
「え!? 無茶です! お母様の使用人は、元自衛隊員の方が数人……」
「それがどうした? 逆にそのくらいあってもすぐ終わると思うぞ」
「はい! すぐ終わります! だから、自分を犠牲にするようなことは!」
俺の方が人の殺し方は詳しい。
人肉を調理するということは、内臓がどこにあるかとか、どこの肉が柔らかいかとかを知っている。
「お嬢様! お母様がお呼びです!」
「さぁ! 帰りますよ!」
執事と思われる2人が恵蓮を連れて行こうとする。
「いや!!! 私は自由に生きたいの!!」
彼女は俺の服をがっしり掴む。
「彼女は嫌がってるようだが、強引に連れて行くのか? 人権もクソもねぇな」
「誰だこのガキは、口が悪すぎるぞ」
「お嬢様。人付き合いは選んでください」
俺の経験上『人付き合いを選べ』と言う奴にまともな奴はいない。
「口が悪いとかを差し置いてさ、俺の質問に答えようか? 嫌がってる子を無理矢理連れてくなんて事案だよ? 誘拐だよ? 犯罪だよ?」
「黙れぇ!!!!」
1人の使用人が、煌星を抑えつけようと向かったが、背後に回られ、ナイフの柄で気絶させられた。
「すごい……。あんな一瞬で……」
「仕方ない……」
もう1人の使用人が、煌星に銃を向ける。
「降伏しろ、動いたら撃つ」
「なんで?」
「なっ……、なんで!? お前はどう見ても負けだろ! 銃相手に刃物で勝てるとでも?」
「え? 勝てないと俺らは四琴まで登れてないよ?」
煌星はあっさり、銃をはたき落とし、さっきと同じ作業をした。
「煌星さん……。あなた何者なんですか?」
まぁ、驚くのも無理ないか。この子視点だと自分と同い年の女の子がガタイのいい男2人をあっさり気絶させたんだから。
「虚虐教の人肉調理師です。男です」
十秒くらい沈黙が流れた。
「えぇぇぇぇ!? その姿で男!? ただ、前者については納得です。それは大変お強いのにも合点がいきます」
おい、後半冷静になるな。
「そんなわけで失礼しま……」
俺が立ち去ろうとすると、彼女は腕を掴んだ。
「ど、どうしたのかな?」
「私の所に来てください!」
え? は? どうして?
よくある西洋の館って感じだな、ここ。
「着きました。私のお家でございます」
煌星の心拍数が上がる。
「え、ええと……。大丈夫ですか? 俺男ですよ?」
「それがどうしたんですか? もしかして女性の使用人を見てキャッキャウフフしたいんですか?」
「違います! ただ……。恵蓮さんの貞操に危険が生じるのではないかと……」
恵蓮は笑った。
「そんなことですか。あなたは私を助けてくれました。だから、強姦等はしないと思っております」
笑顔が天使。マジで天使。
「もう遅いので、うちに泊まってください」
「え!? でも……。着替えもないですし、夜遅くでも平気ですよ」
「あなたの強さは知っていますが、眠気には勝てません。着替えは私の服を貸すので気にしないでください」
いやいやいやいや! 気にするよ! 彼女になるらしき人の服を着て寝るの!? 俺の理性消えるからやめて。
「そんなっ! できませんよ! 理性が危ないです!」
「じゃあメイド服着てお休みになるんですか?」
「それは嫌です!」
「ですよね? 夜着はこちらです。好きなものを選んでください」
圧倒的ネグリジェ率。ゴスロリ以外の女物は着ないって決めてるのに……!
無難に済ませられる色がなかったので、水色を選んだ。
他の物はフリフリが多かったのでやめた。
「可愛い物を選びましたね♡」
可愛い物しかなかったからな!
そして、俺は薄々気づいた。
「あの……、もしかして楽しんでますか?」
恵蓮がナチュラルタイプのSということに……