第十二話〜執着
「人肉調理師(お前ら)にも大切な人を想う心あるんだな」
彼は呟いた。
「……どういうこと? 私たちがただ人を殺したい連中に見えるの?」
「いいや、そういうわけじゃないさ。俺の方が殺人欲は強いだろうし、俺はただーー」
昨日、彼は白いローブを羽織った人に仕事の依頼をされると同時に、こう言われた。
「人肉調理師達は、国と連携しているだけのサイコパス集団だ。人の心は持ち合わねていない」
「俺たち殺し屋も人殺し集団だが?」
「そういう意味ではない。あいつらは媚び売りもしている邪悪なんだ」
「俺の頭の中に入るかどうかはわからんが、一応入れといてやる」
白いローブの人物は感謝の言葉を告げ、去っていった。
「デマを聞かされたかもしれないと思っただけだ」
彼は刃物を2つに分け、二刀流スタイルになった。
「時間が押してるんでな。ちゃっちゃとその3つの虫どもを駆除させてもらう」
「……前までは本気じゃなかったの?」
「そういうわけじゃないさ。効率化だ効率化」
確かに、園児ほどの大きさの刃物を振り回すより、二等分にして、二刀流でかかった方が獲物を狩るには適している。
「さぁ! 残り5分で終わらせてやる!」
「……馬鹿にしてるの? 5分くらい余裕で…」
奈那は体力の限界に来ていた。
今の時刻は深夜帯の上に彼女の年齢を考えると、疲れない方がおかしいのだ。
「かなり楽しめたぜ。お疲れのようだし、ぐっすり休みな」
奈那は、斬られ、焼かれる3人を見て、情が湧いたわけでもなく、涙が出たりとかはしなかった。
ただただ、敗北感と睡魔に襲われた。
朝の7時頃になり、煌星は目覚めた。
「ふぅぅ〜。あれ!? あっ、洗濯機に入れたんだった」
彼は乾燥済の服を取り出し、着替えた。
「奈那どこ行ったんだ……? 無一文の俺を1人残すなよ……!」
奈那の分も含めて荷物を持って、チェックアウトを済ませた。
「あの、奈那は! 俺と一緒にいた女の子はどこにいますか?」
どうしても気になって、チェックアウトの直後に聞いた。
「藤川奈那さんは、留置所に拘束されています」
「なんでですかっ!!?」
彼は驚いた。
奈那が? ありえない。
彼女がやらかすなんて全く考えられない。
「面会しに行きたいので、留置所の場所教えてくれませんか?」
「君が殺ったんだろ?」
奈那は取調べを受けていた。
遺体が灰になった上に、彼女が殺したという証拠もない。
彼女が犯人と断定できないのに、警官は
「認めないと、大変なことになるのはお嬢ちゃんだよ?」
彼女に罪を認めさせようと必死だった。
「……なんども言いますけど、私じゃないんです。そもそも遺体は灰になっていたんでしょう? メリットがありませんよ」
「いーーーや? 君にメリットがないからこその偽装工作じゃないのかい?」
警官はやたらと執着している。
まるで、人肉調理師に恨みを持っているみたいに。
「君って、頭蓋骨触るの趣味なんでしょ? しかも本物! 裁判になったらおもーい刑罰が下されるよ?」
「……本当に私じゃない! 殺し屋の人が!」
「信じるわけないだろう? そんな都合がいいことあるかい? スイートルームにいた人全員が灰になっていたなんて、君の嫉妬で殺したんじゃないの?」
「……お金に興味はないし、そんなくだらない感情を出すわけない」
煌星は留置所に向かっていた。
途中に林があったが、早く着くにはそこを通ったほうがいいと考え、足を動かしたがーー
「もう1人の四琴見っけ」
インフェルノと鉢合わせた。
「誰だよお前! 急いでいるだよ! しかも無一文なんだよ! 通せ!」
「かっかするな。俺は取引しにきた」
取引? いきなり何を言ってるんだこいつは、宗教勧誘ならお断りだ。『俺が神だ!』とでも言って追い払ってやる。
「留置所にいる女の子の無実証明、手伝ってやるよ。あの子には楽しませてもらったし」
「なんで知ってるんだよ!! 楽しませてもらった? まさか……!」
奈那がいなかったのはこの男と夜の営みをしていたからか?
「俺、殺し屋やっててさ、最近はターゲットの抵抗も大したことなくて、そんな時に君ら人肉調理師の話を聞いてな。強そうと思ったんだ。案の定強かった!」
「だから、奈那を助ける手伝いがしたいと」
「そうだな、その代わりに、俺と手合わせしろ」
「殺す気か? 実は他意があるとかじゃないのか?」
「ねぇよ。君も彼女と同等の実力と見ただけだ。別に勝ち負けはどうでもいい。俺が楽しめればそれでいいんだ。時間とかは俺が決める」
なるほど、この戦闘狂は俺と一発やりたいわけか。
「わかった。受けて立つ。だけどよ、なんで奈那が無実だって知っているんだ?」
「取調べを行っている警官、たった1人がやけに執着していた。過去に白いローブを羽織った人物が人肉調理師にやけに執着していたから、これもデマだと思っただけだし、俺が殺した虫どものせいで、ああなってるんだしな、罪滅ぼしだよ」
罪滅ぼしと言っても、人殺しのことではなく、奈那が追い詰められる原因を作ってしまったことだろう。
両者は刃を構え、お互いの刃を凝視した。
煌星の刃が小さく、力負けしそうなこと、インフェルノの刃が園児ほどの大きさがあり、林では不便になりそうなこと。
これらを踏まえて両者は『本気でやらないと不味そう』と思い、葉が土に足をつけると同時に動き出した。