第十一話〜交差する炎刃
「い、インフェルノって……あの死体を灰にする殺し屋の……」
令嬢が怯えていると、殺し屋は『俺も有名になったものだな』と感心し、刃物で胴を真っ二つに切った。
彼女は激痛に発狂しながら、腕で這い、部屋の出口を目指した。
「どこに行くんだ? っていうか、血残すのやめろよ、燃やさないといけないモノ増えるだろうが」
彼は刃物を2つに分け、それらを使って火を起こし、その部屋には灰のみが残った。
「……今の音どこからですか?」
奈那は廊下で、客人と思われる紳士に話しかける。
「かなり上の方だと思うけど、お嬢ちゃんどうしたの? もう遅いし、寝た方が……」
このホテルは二十階建てで、上位5階がスイートルーム。
音の出どころはスイートルームと考えるのが妥当……?!
十五階まではエレベーター。そこからはどうやって上がるのかはわからないけど、私の想像だと、嫌な予感しかしない……!
殺し屋は十八階に降りた。
今度のターゲットは、ヤクザの組長。
「誰だてめぇは! 若造が何の真似だ!」
「朱鳥組の、朱鳥 木吉。お前も暗殺しに来た」
殺し屋は、まるでターゲットがスイートルームに泊まるのを知っているような口振りだった。
「ふっ、はっはっはっはっは! 若造は夢を見過ぎだ! 現実を見ろ! ワシら、裏社会の人間はな! 銃を持ってるんだ!」
木吉の弾丸は、巨刃に簡単に弾かれた。
「少しは頭が回るようじゃないか。君みたいな若造も最近は減ってきているな」
木吉は焦る。
あまりにも刃物が大きい。拳銃は防がれて終わりだ。
組の人間はみんな下の階で寝ている。
「どうした? 前より威勢がないぞ?」
「若造。朱鳥組に入らないか?」
「断る。ヤクザよりも殺し屋の方が向いてるんだ」
考えている隙を突くという、木吉の作戦は見事に失敗し、切断され、焼かれた。
煌星は風呂から上がり、服を室内の洗濯機に入れたことを思い出し、『どうせすぐ寝るし、朝には乾くだろ』と考え、浴衣を着た。
「あれ? 奈那はどこ行った? おーい! 奈那?」
奈那のことが心配になったが、前の仕事の疲労により、強化された眠気が襲ってくる。
彼はベッドに入った途端に熟睡した。
「やっと十五階! ここから螺旋階段を通って、十六、十七、十八!」
奈那は十八階に辿り着き、殺し屋と鉢合わせした。
「ん? お嬢ちゃんどうした?」
「……あなた? さっきの音の原因」
「さっきの音? どういう音かな?」
煌星は、睡魔のおかげで聞こえなかったが、奈那には聞こえていたのだ。
「……金属と金属がぶつかり合う音よ、火が出るくらいのね。もちろん、今のも聞こえた」
殺し屋は『こいつすごいな』と思い、フードを上げた。
彼の顔には切り傷の跡があった。
「君は、人肉調理師かい?」
「……そうだよ。虚虐教の四琴」
殺し屋はニヤけた。
ついに、人肉調理師の実力者と一戦交える! そう思ったのだ。
「決めた! 1つ勝負をしよう」
「……勝負? どんな?」
「俺のターゲットは全員スイートルームにいる。こいつらが死んだら、俺と戦え、守り切って俺が退散したらハッピーエンドだ」
「……別にその人たちが助かろうと知ったことないんだけど」
「そういうことじゃない。俺は死骸を灰にするんだ。人肉調理師からしたら食品ロスだろ?」
「……確かに。でも無闇に狩っちゃいけないんだよね」
「そうか。じゃあ勝手に勝負開始と行こうか! スイートルームが終わったら、このホテルの奴ら全員殺してやってもいいんだぞ?」
奈那は煌星を想い、彼に続いて、十七階の部屋に向かった。
「君もアクロバットで移動するのか。よくそんなフリフリでできるな。邪魔だろ」
「……慣れてるからどうでもいい」
1分も経たない内に、2人は十七階スイートルームに突入した。
中にいたのは大手IT企業の副社長だった。
「なんだい君たちは!?」
副社長は尻餅をついた。
「富川栄一郎。お前がターゲットだ!」
「……させない!」
殺し屋が刃物でターゲットの腰を切断しようとしたが、奈那が頭蓋骨で彼の腕を殴打したため、上手くいかなかった。
「……邪魔だから失せて。このままだと灰にされるから」
「あ、ありがとうございます! お嬢ちゃん、夜更かしはダメだよ」
富川が慌てて外へ逃げると同時に、殺し屋が螺旋階段を目指す、続く奈那。
別に彼女には正義感もないし、ターゲット達が可哀想だとも思わない。
煌星が狙われることだけを気にかけているのだ。
「ひいっ! もうダメだ!」
殺し屋の腕に麻酔薬入りの注射針が刺さる。
「麻酔か……、だが、俺の片腕を封じるには濃度が弱かったようだな」
奈那が用意したのはほとんどが薄く、トリカブトも入れていない、見回り仕事用の薬だったのだ。
頭蓋骨以外は殺傷能力がないので、これは二つ名に針が入っている彼女にとっては、苦しいハンデであった。
「……阻害できるなら、それでもいい」
「読めないな、調理師。だけど、そこが気に入った!」
このぶつかり合いをしている間に十六階のスイートルームに到達した。
中には新婚夫婦がいた。
いくら奈那でも2人を守るのは厳しい上に、富川は逃げ惑っている。
「俺は3人殺せばゲームクリアだぜ? なんならホテルにいる虫どもを1匹残さ……ず」
奈那が注射針を投げるも、全て弾かれてしまった。
「……煌星お兄ちゃんは! 虫じゃない! 他の輩と一緒にしないで!」
彼女は、煌星に対する侮辱を感じ、憤っていた。
奈那の頭蓋骨は人肉調理器具ではありませんが、普通に鈍器として使える上に、毒薬入りの注射針を何本か持参しているので、実質的には、人肉調理器具を持っている煌星と同等の強さです