怨嗟の刃誕生 Third
夜の零時。煌星は自分が通っていた高校に来ていた。
仕事内容が、自分をいじめていた淳宏の殺害だったからだ。
叶夢が復讐の機会をくれたのか、たまたまなのか、どちらにせよ煌星は殺る気に満ちていた。
彼は見張りに発見されることを危惧したが、叶夢の『被害者が国を通してるってことは話したよな。学校に在籍している場合は、学校にも知らせが行く。堂々とやれるぞ』という言葉を思い出し、校舎に侵入した。
「いやっ! 離してください! 帰らせてください!」
「早苗ちゃんが悪いんだよ? 俺の誘いを断ったから」
「胸を触らせないから、ガムテープで縛って強姦するんですか……」
「そうだよ。実際助けに来る奴なんているわけねぇしな! ヒヒヒヒヒヒ」
体育館で淳宏の高笑いが響く。
何者かが笑い声を頼りに体育館へ向かったことも知らずに、淳宏は有頂天だった。
「早苗ちゃん。霧咲を殺したのは俺だ」
早苗は動揺した。学校では彼が行方不明になったことで、大騒ぎになっているからだ。
「もしかして、あの病気野郎が好きだったのかい?」
「違います。ですが、殺すのはマズいかと」
「ヒヒヒヒヒヒ! そっかぁ、霧咲。めっちゃ嫌われてるなぁ!」
向かってきている足音は、淳宏の笑い声で掻き消された。
「さぁ、早苗ちゃん! これから脱がすよ。大きい谷間を直接触ってあげよう!」
淳宏が彼女の服を裂こうとした時。
「前田 淳宏。久しぶりだな」
煌星が到着した。
「てめぇ……、霧咲か? バカな! 死んだはず!」
「遺体も確認してないのに死んだ認定は早とちり過ぎないか?」
「ほう……? 霧咲ごときが俺に楯突くのか」
「ふぅーん……? 俺"ごとき"か、じゃあ、殺されても文句言うなよ?」
煌星がナイフで脚を切る。想像を遥かに超える威力で、筋肉がある淳宏の脚を切断してしまうほどだった。
「霧咲が! 霧咲のくせに! イキがんなよ!」
淳宏の脳内はパンクしそうだった。
煌星の動きが速かったこと、彼はナイフで脚が切断されたこと、なにより華奢な彼が力を入れずに鍛えられている脚を簡単に切断できたことが原因だ。
「お前には恨みがあるからな。楽には殺さない。じっくり痛みつけてやる」
煌星による拷問が始まった。
淳宏は泣きながら詫びるも、煌星(彼)が信じるはずもなく、指一本を細切れにしたり、体の部位を切断したり、体育館の床が血の海になっても、ナイフを動かす手は止まらない。
「その辺にしてよ、霧咲くん!」
早苗は、怖かった。表情を一切変えずに淳宏を痛みつける彼が。
「うるさいな外野。俺を助けようとしなかった奴の言うことなんて聞かねぇよ」
淳宏が絶命した頃、もう既に遺体は限界を留めていなかった。
煌星が持参した冷凍箱に肉を詰めると……
「霧咲くん。ガムテープ解いてくれない?」
「なぜ? 俺にメリットがない」
「えっ……!? でも助けに来てくれて……」
「助けに来た? 思い違いをするな。俺は仕事でこいつを殺しにきただけだ。本当はお前も殺したかった」
早苗は恐怖し、後悔した。煌星に味方しなかったことを。
もし、味方になっていれば、彼の殺意はなかったはずだと。
「俺は帰る。今回は助けてやるが、俺が生きていたことは絶対に言うな、わかったか?」
「約束します。そして、ごめんなさい! 見捨ててしまって」
煌星は冷たく言い放つ。
「今更悔やむな。謝っても俺は許さないからな」
煌星の初仕事は成功に終わった。
「ただいま帰りました」
「おっ、煌星じゃないか! 成功したか?」
「はい! この箱に肉を詰めてあります!」
「入浴したら、俺が寝かせた部屋で休むといい。あそこはもう君の部屋だ」
「ありがとうございます。ナイフの切れ味、強すぎでした。力を入れてないのに、鍛えられた脚をあっさり……」
「筋肉があるからって切れないと人肉調理器具とは呼べないからな」
煌星は納得して、風呂に入り、十五分経ち、上がったときに『寝る服どうしよう』と悩んだ。
「あのー! 着替えって……」
「最初に会ったときの服は洗い終わってるから、それを着るといい」
煌星は着替えを済ませ、ドライヤーで髪を乾かし、鏡を見た。
「俺、こうしてみると女に見えるなぁ…」
長い髪、華奢な体格、今着ている簡易的な服、元々中性的だと言われていた顔立ち。
女に見える要素が揃っている。
「まぁいいや。とにかく、眠いから寝よう!」
彼の視界に愛犬の遺骨箱が入り、名前を付けていないことを思い出した。
「死後に名付けるのってありなのか……?」
彼はベッドの上で考え込み、そのまま寝てしまった。
気がつくと、彼は例の小屋にいた。
「あれ? 俺、誰かに助けられていたはず……。まさか夢だったのか?」
否。こちらが夢である。
「いいや。モフモフしよ」
彼は愛犬と戯れ、『名前を付けよう』と、頭に浮かび、悩んだ。
「茶色、可愛い、モフモフ、可愛い、犬、可愛い……。よし! 今日から君は愛里だ! 愛里ちゃん! 好き!」
彼が愛犬、愛里へのスキンシップを行っている最中に、夢は覚めた。
「あ、愛里? ああ……、そうか。愛里はもう……」
この世にいないんだ。
しかし、名前を付けることができた。死後だけど。
俺は、叶夢からある書類を渡された。
そう、俺は正式に人肉調理師の資格を手に入れたのだ。
「おめでとう。これで君は人肉調理師として認められ、虚虐教の『四琴』候補だ」
「ありがとうございます。叶夢さんのおかげです!」
「はて? 俺は君を輝かせる環境にしただけだが?」
彼が惚けても、俺は知っている。
全てこの人。林 叶夢のおかげだということを。