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獣肉が禁止になったなら人肉を食べればいい  作者: 翠水晶
特章 過去編 (煌星)
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怨嗟の刃誕生 Second

「何を言ってんだ。てめぇ」

「聞こえなかったか? 調理しにきたと言っている」


 青年の言葉に山賊は笑い出した。


「調理ってことは、俺らを殺して食うってことか? 笑わせるな! てめぇみたいな町の輩に負けるわけが……」


 青年が立ち寝をしているのを見て、山賊は愕然とした。


「は? バカにしてるのかこいつ。俺を前にして寝ただと? ってか立って寝れるのすげーなオイ」


 青年は弓に矢を3本用意し、放った。1つ目は山賊の槍を、2つ目は煌星が捕えられている小屋を、最後の矢は山賊の脳に突き刺さった。


「視えてるんだよ。この先のことはほとんどな」


 青年は小屋の方向に向かった。



「矢……? なんでこんなところに刺さってやがる」


 矢? あの血飛沫を起こした人の物か? もしかして俺も殺そうと……


「あの……、逃げませんか? 流石に勝ち目がないかと……」


 監視役の山賊は、煌星を威圧し


「あ? 奴隷ごときの言うことなんか聞くかよ! 奴隷には町の輩の言う『人権』なんてねぇんだよ! それに勝ってやるさ!」


「なるほど。お前は俺を負かしてくれるのか? 実に楽しみだな」


 青年は小屋の前まで来ていた。

 煌星の頭の中は恐怖と微かな希望が渦巻く状態になった。


「てめぇが、村のみんなを……!」

「君らが町や畑に被害を与えたんだからどっこいどっこいだろう? それに、その子を奴隷にしてるじゃないか。それを見る限り、他にも奴隷にして酷いことをしたんじゃないのか?」


 図星を突かれた山賊は斧を振り回しながら青年に襲い掛かるがーー


「低威力の単純攻撃。視るまでもないな」


 青年は矢をナイフのように山賊の腹部に突き刺した。


「さて……、後は君のことなんだけど……」


 煌星は『殺される』と思った。

 だが、青年は木格子を壊し、彼を縛っている縄を切り


「俺について来ないかい?」

「えっ? 殺さないんですか?」

「なぜ殺さなければならない?」

「でも……。俺は失敗作だし、なんの取り柄もないし……」

「それは環境が悪い。どんなに綺麗で大きな花でも、砂漠に植えたら雑草よりも酷い有様になる。君の本当の良さはこれから見つければいい」


 青年の言葉に、煌星の目は光を戻した。


「……わかりました。すこし待っていてください。大切な家族を連れてきます」


 彼が愛犬の遺体を持ってくると、青年は悲しそうな顔を浮かべ、合掌した。

 煌星は不思議に思った。


「なんでこの子のために……」

「君の大切な家族なんだろう? それが山賊共に惨殺されて……。この犬は、まだ若い」

「……あなたは何者なんですか?」

「人肉調理師と言ったら?」

「……! 俺を食べに来たんですか?」

「違う違う。いくらなんでも無差別にそんなことはしない。この世には、いじめ、虐待、パワハラ、極悪犯罪など、自殺者や不必要な犠牲者が増える要素がいっぱいある。俺たちはその加害者達を殺して肉にしているんだ」

「よく反対されませんでしたね」

「最初はされたさ。だけど、動物愛護団体が突然、おかしなことを言い始めたんだ。『動物の肉を食べるな! 虐待よりも残酷だ!』って、次第に賛成派が増えて、獣肉が禁止になって、食糧難になったんだ。それで思いたいんだんだ。『被害者を増やさないためにも、人々を守るためにも、人肉文化を普及させよう』って」

「つまり、国公認の殺し屋とボランティアみたいな感じですか?」

「大体はそうだが、ほとんどの調理師は調理はできても、仕留めるのが上手くない、あるいは仕留められないんだ。となると、格差が生まれてきてしまうんだが、俺は『虚虐教』という団体を作ったんだ。宗教っぽい名前だが、宗教じゃないんだ。この団体だと、俺とか、仕留めるのが上手い人が肉を狩ると、彼らも平等に調理ができるってわけだ」


 その後、煌星は『立ち話もあれだから』とい 言われ、愛犬の遺体を布で包み、青年の車に乗って、彼の家へーー



 煌星が目覚めると、そこは知らない家の寝室だった。

 

「ここは……? そうだ! あの人に連れて来られて、いつの間にか寝て……」


 部屋を見渡すと丁寧に包装された木箱があった。そこには愛犬の遺骨が入っていた。


「良かった……。一緒に来られて!」


 彼が寝室を出ると、助けてくれた青年と、歳下くらいの金髪に銀色が混ざった、別の青年がいた。


「あっ、起きたか。君に話があるんだ」

「話? なんでしょうか?」


 青年が1本のサバイバルナイフを手渡す。


「人肉調理器具。通称、『レイジ・クトー』。高い攻撃力を誇っている上に、持ち主本人以外が扱うと、威力が激減する代物だ。」

「持ち主ということは、俺に持たせるのはなぜでしょう?」

「実は、君の血を少し入れたんだ。だから、持ち主は君だ。」

「……なるほど、そういう持ち主ですか……」

「……? 寝ている間に血を抜かれたのに、平常でいられるのか」

「はい。多分、疑問が恐怖を上回っているせいだと思います。まず、なんでそんなものを渡すんですか?」

「君を、『虚虐教』の一員、且つ人肉調理師にしたいと思っている」


 もう1人の青年が立ち上がり

「叶夢! 正気か!? 拾ったばかりのガキが、賛成するはずが……」


 なるほど、この恩人は叶夢っていう名前なんだ。


「蒼羅。俺は言ったはずだ。『俺たちを含めて4人程度の強い調理師を作ろう』と、君も同意していただろう」

「だけど……、いきなり強い調理師になれるはずが…」

「ないだろうね。だが、どのみちみんな俺たちより弱いことには変わらないし、そんな考え方だと、人数が揃わないぞ」


 蒼羅は黙り込んだ。


「わかりました。やらせてください」

「いいね、それを期待していた。俺は林 叶夢。」

「ったく、最近のガキは無理しすぎなんだよ! 俺は千歳 蒼羅だ」

「霧咲 煌星です。よろしくお願いします」

「んーとね。敬語はいいよ。君は俺たちと同じ階級の役職にする予定だから」


 その後、煌星は調理師になるための推薦を受け、実戦のためのトレーニングも施された。


「ずっとその服だと、少し不安だろう。着替え用意したぞ」

「ありがとう。叶夢さん」

「あとは依頼仕事1つ達成できれば、調理師資格認定だからな。頑張ってくれ」


 煌星は返事をし、叶夢が部屋を出た後。用意された服に着替えた。

 灰色のパーカーと黒のズボン。

 煌星は『灰色の布を服にしていたからかな』と思った。



 それから2週間が経ち。


「煌星! 君宛に依頼仕事だ!」


 煌星の本当の人生はまだ、始まったばかりである。

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