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魔女は墜落しない  作者: わたぼう
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一九四〇年

▼一九四〇年



 初夏の薫りをふんだんに含んだ風は爽やかで、いつまでも飛んでいたい気分だった。

 本日は晴天。空気は澄んでいて、肺に取り込むと体が活性化していくのを感じる。心地よい陽気に、疲れも任務も忘れそうになる。

 しかし視線を地上に落とすと、油のにおいがここまで漂ってきそうな光景が広がっている。

 視界いっぱいに広がる緑一色の耕作地の隙間を縫うように、機械の塊が延々と連なっている。畑の真ん中の一本道を、地平線の果てまで陸軍の車列が続いている。

 物資輸送車、兵員輸送車、戦車に単車。陸軍のありとあらゆる車両が一匹のミミズのようにうねっている。無数の兵士がその周りをのろのろと歩き続けている。

 私たちは彼らのはるか高くを飛び越えていく。私を先頭に、小隊のみんなが三角形の二辺をなぞるような形に編隊を組んでいる。

 下の隊列も私たちも、西へ向かっていた。フランス領内を東から西へ突っ切ろうとしている最中だ。国境線を越えてからすでに四時間が経っている。ここに来て速度を緩め、真昼の太陽を頭上に仰ぎながらゆっくりと進む。

 国境を越えてからも、侵攻はとても穏やかだった。敵兵の姿はまったくなく、鳥も虫もどこかに行ってしまったように静かだった。軍靴が土を踏む音、車のエンジン音、戦車のキャタピラの唸りだけが聞こえている。

 正午を過ぎていた。振り返り見ると、隊のみんなに疲れの色は見えなかった。どちらかと言えば、陽気な雰囲気を保っている。こんな形とはいえ、生まれて初めてドイツの外に出ることができた喜びをみんな少なからず感じているようだった。それは私も例外ではない。


 33小隊にフランスへの出撃命令が下ったのは昨日の朝、六月十五日のことだった。哨戒飛行の任を一時的に解かれて、フランスへの侵攻部隊に組み込まれることになった。

 国境の要塞地帯マジノ線を越えて一路パリへ向かう。パリ郊外の作戦本部に到着次第、現地の指揮官に会って指示を仰ぐ。以後は現地指揮官の指示に従って行動する。それだけが副司令から伝えられた。妙な作戦だとは思ったが、副司令に質問をする気にはなれなかった。

 シュランベルク基地からは私たちだけがこの作戦に参加していた。他の基地からも余剰戦力をかき集めてパリで合流させるということだったので、もしかしたら他の魔女部隊がいるかもしれないと期待していた。

 同じドイツ国内とはいえ、他の魔女に出会うことはまずめったにない。魔女部隊は教導部隊を除けば、国内にわずか十二部隊しか存在していない。

 まだ朝もやが辺りに立ち込めているなか、私たち十二人は基地を出発した。

 編隊を組んで要塞の上、国境地帯を越えるとき。当り前だが眼下に伸びる黒い帯の上には、煙草を吹かしてくつろぐ兵士たちの姿はなかった。

 開戦後も、ドイツとフランスの国境守備兵たちが互いに煙草や菓子といった嗜好品を持ち寄って交換する光景がよく見られた。末端の兵士に敵国兵への憎しみというものは、個人的な事情でもなければほとんどないに等しい。理由がないからだ。

 私は哨戒飛行のときにそれを空から見下ろしていた。するとフランスの軍服を着た、私とそう歳が変わらないであろう若い兵士が、私たちを見つけるなりまぶしそうに手を振ったのをはっきりと覚えている。

 私が彼らを最後に見たのは五月の十日。日差しの強い日だった。

「隊長、楽しみですね!」

 エミリアがわざわざそばまで近づいて来て言った。編隊は彼女が抜けた部分だけぽっかりと空いている。

「遠足じゃないのよ」

 私は手を振って彼女を追い払おうとしたが、彼女はめげずにそばに留まる。

「私、フランスに行くのはじめてですよ!」

「みんなそうよ」

「私の、おばあちゃんのおばあちゃんの……おばあちゃんくらいまではフランスにいたんですって! それって、なんだかすごいことじゃないですか!?」

 エミリアは気持ちが高ぶりすぎておかしな話し方になっている。とにかく何か言わないと落ち着かないようで、口をぽっかりと開けて目も見開いている。

「エミリア、落ち着いて。まだ何時間もかかるから、いまからそんなんじゃもたないわよ」

「はい! でも、なんだか、すごく胸が、ドキドキして!」

 エミリアはひたすらにしゃべり続ける。落ち着かせることは諦めた。仕方なく私は、左後方のいちばん後ろを飛んでいるクリスティーヌに合図して、編隊を一人分詰めさせた。

 実際、物見遊山気分だった部分もある。生まれた国からはじめて外に出るのだ。否が応にも舞い上がってしまう。

 現地指揮官の指示に従うこと以外、作戦について教えられていなかった。偵察隊の私たちにどんな仕事が待っているのだろう。

 私たちの特徴は、隠密性と機動性、それと燃費の良さくらいだ。

 それを生かした作戦って、なんだろう。

 まさか郵便配達ではあるまい。



 さらに二時間をかけて私たちが都市上空に着いたとき、すでにパリ市街にフランス軍の姿はなかった。

 低空のまま、私たちはパリの上空に入った。慣れた高さからは街並みがよく見渡せた。いつも遮る物のない空を飛んでいるので、遠くのものを見るのには慣れていた。

 バロック様式の美しい建築物は健在だったが、凱旋門に掲げられた第三帝国の国旗、アーチの下をくぐるⅣ号戦車、フランス女性をナンパするドイツ陸軍軍人。どこを見てもドイツドイツドイツ! これでは、ベルリンに行くのと変わらない。

 唖然とするしかなかった。

 ざっと見る限り、街の建物にはほとんど破壊された形跡がなかった。フランス軍は早々に撤退したのだろう。

 まさかドイツがフランスに勝つなんてことは、想像すらしていなかった。

 パリに来たいまでさえ、実感は湧いてこない。街は日常の面影を残し過ぎている。

 心配事が頭に浮かんで、私は振り返った。

 33小隊に純粋なドイツ人はいない。フランス系の隊員は五人いる。真珠のような色艶の長い髪をしたクリスティーヌ・ペリエ伍長、いつももごもごと聞きとりにくい声で話す、湿り気のある短い黒髪のシルヴィ・ベタンクール上等兵、勝気で男勝りな吊り目のシャンタル・ル・フレム一等兵にその好敵手でいつもやり合っているハツカネズミのようにすばしっこいリリアーヌ・ポーラ・マルモル一等兵。それと、女神のようなエミリア・ベルジェ一等兵。

 フランスは彼女たちにとって第二の故郷だ。つい百数十年前までここには彼女たちの祖先が暮らしていた。陸続きなのに、これまで帰れなかった地。忌避すべき戦争のおかげで、ここに来ることができた……。なんと皮肉なことだろう。

 私にとってのあの島国と同じ。きっと彼女たちにも思うところがあるはずだ。

 ドイツ軍の機甲部隊によって占領されているパリ。東から行軍してきた兵隊が続々と入城して、タイルの上に靴の泥を落としていく。

 彼女たちの心境を思えば、素直に喜ぶことはできなかった。遠足気分はそれで吹き飛んでしまった。実際、次々にその数を増やすドイツ軍に埋め尽くされていく街を見るのは愉快なことではなかった。

 まずエミリアを見た。彼女はしばらく前に編隊の元の位置に戻っていた。

 彼女は意外と平気そうな顔をして眼下の都市を眺めていた。別に変わった様子はない、いつも通りだ。ふいに彼女が顔を上げて、目が合った。

 エミリア・ベルジェは、笑った。いつもと同じように。花のようにやさしいほほ笑み。

 ゾッとした。

 どうしてそんな風に笑えるのかがわからなかった。あんなにここに来ることを楽しみにしていたのに、いま真下に広がる光景を見てなんとも思わないのだろうか。

 私が同じ境遇になったらどうだろう……。たぶん、悲しかったり、悔しかったりするだろうが、いまは、わからない。いまはまだ、そういう状況にはなっていないから。

 私が何も言わないのを見て、エミリアは小さく首を倒した。純粋に、疑問を感じている表情だった。

 思い返してみると、エミリアの泣き顔が浮かばなかった。彼女が涙を流しているところを見たことがなかった。彼女が入隊してからの約二年の間に一度も。

 その間、私は何度泣いただろう。まるでホームシックにかかった子どものように、布団にくるまってしくしくと。叔父の家にいた頃もそうだったが、寂しさはいつ現れるのか予測できないから困る。予測できないので、対処のしようもない。

 エミリアもそうやって泣くことがあったのだろうか。さめざめと泣きはらすようなことが――いや、きっとそんなことはないだろう。彼女は私よりもずっと強い。強いからこの状況でも笑っていられるのだろう。

 だが、本当に強いだけなのだろうか? エミリアはいつでも、笑っている。いつも、どうして笑っているのか、考えたことがなかった。

 エミリアのことが、突然に怖くなった。いままで彼女の笑顔が羨ましいことはあっても、そんな風に思ったことはなかったのに。

 私は耐えきれず彼女から目をそらした。それから何か言い訳でもするみたいに他の四人の反応をたしかめた。

 四人とも、眼下に広がる街を見つめていた。クリスティーヌだけは比較的落ち着いているようだった。彼女はニコラと同い年で、フランス系隊員たちの実質的なリーダーだ。あとの三人は首を小鳥のように細かく動かしている。動揺しているのは明らかだった。

 彼女たちのそんな形容できない感情の表れも、クリスティーヌの模範的な冷静さも、エミリアの奇妙な笑みも、私を不安にさせる。

 胸がざわついている。ここにこれ以上いたくない。

 私は何も言わず、速度も緩めず、編隊を維持して西への飛行を続けた。それが私たちに与えられた任務だったし、率直に言って下には降りたくなかった。

 詳しいことは何も知らされていなかったので、とにかく野営地に行って指揮官に会わないといけない。

 中心街を通り過ぎると、すぐに目につくような建物はほとんどなくなった。茶色い道とそれを挟むように並び立っている木々。それと牧草地。のどかな景色が広がっていた。

 それからすぐに、道の真ん中で大きく両手を振り上げる兵士の姿を認めた。私はニコラにみんなをまかせ、一人で降下した。地面に降り立つと兵士が近づいてきた。私が箒に跨って空から降りてきたのを見ても驚いた様子はない。見たところ陸軍の兵士のようだった。芝生のような緑色の野戦服に身を包み、鉄兜を被った中年の男で鼻と口の間に黒い髭を生やしている。小銃を革ひもで肩に引っ掛けていた。

「どこから来た?」

 男は開口一番にそう訊いた。肩章を見ると伍長だった。

「シュランベルクから」

「全部で何人いる?」

「私を含めて十二人」

 伍長は手に持った紙に目を落とすと、

「第33飛行小隊だな?」

 と言ったので私はうなずいた。

「よし。この道を真っすぐ行ったらすぐ野営地が見えてくる。そこにいる中隊長のところに行ってくれ」

 伍長は西の方角を指差してそれだけ言うと、もう興味を失ったように市街地の方へ歩き出そうとした。私は呼び止めた。

「何があるんですか?」

「仕事だよ。あんたらにしかできないことがある」

 伍長はそれだけ言うとさっさと歩いて行ってしまった。終始何かを探すように、空を見ながら歩いている。

 とにかく野営地に行かなければいけない。ニコラに身振りで合図をして、みんなを地上に下ろさせた。飛んで行くのは目立つし、伍長は真っすぐ行けばすぐだと言っていたので、歩くことにした。

「野営地がすぐそこにあるみたい。近いそうだから、歩いて行きましょう」

「……ねえ、シャーロット。この作戦、なんだか変じゃない?」

 ニコラの顔は不安げに曇っている。

「ニコラもそう思う?」

 ニコラは小さくうなずいた。私は少し歩を速めて、ニコラ以外のみんなと距離を取った。

「そもそも、内容を知らされずにこんなところまで来させられるなんて、それだけでおかしいわよ。それに、私たちを作戦に組み込もうだなんて、ふつうじゃありえない」

 だって、魔女よ。ニコラは言外にそう言っていた。

「よっぽど人手が足らないんじゃないかしら」

 私が言うと、ニコラは首をかしげた。

「それだけかな……」

 たしかに妙だった。ふだんなら、正規軍が魔女の手を借りようとはしないだろう。わざわざ私たちを呼びつけるには何か理由があるはずだ。

 しかしいくら考えたところで答えは出ない。ここまで来て引き返すような明確な理由もない。

「ともかく指揮官に会えばわかるでしょう」

 振り返ると、みんなを包む雰囲気はいくらか明るくなっているようだった。エミリアはさっき見た街の様子について、クリスティーヌやシャンタルたちと話している。

 何があっても、彼女たちに嫌な思いはさせない。私が預かる十一人の魔女には。それだけが私にできることで、私たちは十二人で基地に帰らないといけない。

 街道を徒歩でしばらく進んでいると、兵士をのせたトラックが横を通り過ぎた。荷台にのっていた若い兵士たちがからかうように声を上げて遠ざかっていった。私は無視を決め込んだが、ニコラは苦笑しながら手を振っていた。

 やがて道の両脇に広がっていた草地は姿を消し、広い場所に出た。開けた空間に白い天幕がいくつも寄り添うように並んでいる。

 パリ市街からそれほど離れていないが、ごく最近、おそらくはパリ入城に前後してつくられた野営地のようだった。入り口近くには車輌が数台止まっていて、さっき追い越していったトラックもあった。

 野営地に入り手近な兵士に声をかけて、中隊長のテントに案内してもらった。みんなをテントの外に残して一人で中に入る。デスクの奥にいる中隊長は面長の初老の男で、髪には白いものが混じっている。書類から目を上げて私の姿を認めると、入口のそばの机で書類に向かっていた補佐官を追い出して、座ったまま私と向かい合った。

「貴様、所属はどこだ?」

 開口一番に中隊長が言った。言葉にはあの嫌な感じが含まれていた。

「シュランベルク航空基地の第33飛行小隊です、大尉殿」

 私は事務的な口調を意識して言った。

「魔女だな」

 中隊長は私の持つ箒を見て言った。

「一個小隊か? 何人だ?」

「十二名です」

「充分だ。貴様らに仕事を与える」

 そう言うと中隊長はその場で何か一筆書き記した一枚の書類を差し出した。受け取って見ると命令書だった。

「仕事、ですか?」

「そうだ。おい!」

 中隊長が呼ぶと、先ほど出ていった補佐官がテントに入ってきた。

「こいつを武器保管部に案内しろ。小銃を十二丁、ZF39(四倍率スコープ)を装着して渡してやれ」

 補佐官はうなずいたが、私はうなずけなかった。

「小銃ですって?」

 驚いて思わずそう聞き返した私を中隊長が睨む。

「そうだ。何か問題でもあるか、曹長?」

「問題です、大尉殿。大問題です。我々は小銃の使用は許可されておりません」

「ほう? どういうことだ」

 中隊長が背もたれに体を預けて目を見張った。

「我々は偵察隊です。拳銃は自衛のために所持していますが、小銃は扱えません。軍規にもそう記されているはずです」

「非常時だ」

 中隊長はそれだけ言うとまた手元の書類に目を落としたが、すぐに顔を上げた。

「まさか、撃ち方を知らないとは言うまいな?」

「入隊したときの訓練で撃っただけです」

「それで充分だ。必要ならそこらで練習していけばいい。戦場で銃を持たずにどうする」

「しかし――」

「くどいぞ!」

 中隊長は声を荒げ、落ち着かない仕草で煙草に火をつけた。忙しなく煙を吐き出す。

「貴様らが本国でどんな仕事をしていたかは知らんが、ここは戦場だ。わざわざ所属基地を離れてこんなところまで来て、それでどうするつもりだったんだ? 市内を観光して日が暮れたら帰るつもりだったのか? まったく作戦をなんだと思っているんだ、だれのおかげでメシが食えてると思っている!」

 ひどい悲しみが私を支配しようとしていた。国を出た途端、私たちを守ってくれるものは何もない。

 そう、忘れていた。司令が特別おかしいだけで、本来はこれが私たちに対する正しい反応だった。

「しかし、私たちには、小銃を扱う権利がありません。規則に書かれているはずで……」

 中隊長は私の言葉を無視して早口にまくし立てる。

「なんて言われてここに来たんだ、現場で指示を受けろと言われたんだろう。私がここの責任者だ。私の命令を受けるのが筋というものだろう。ちがうか?」

「それはそうですが、私たちにもできることとできないことがあります」

 中隊長の表情がにわかに歪んだ。と思うと、すっと顔から怒気が失われた。

「できることさ。貴様らに適任の仕事だ」

 中隊長の声音はさっきよりいくぶん高くなった。机に頬杖をつくと意地の悪い表情のまま続ける。

「魔女の分際で……。貴様らもドイツの軍服を着ているなら帝国軍人としての自覚を持て。国のために貢献しようとは思わないのか」

 国のため。それが魔法の言葉にならないことはよく知っている。そんなのは後付けでしかない。そんな理由で戦って命を落とせる魔女はいない。それに見合うだけの扱いを国がしてくれたことがない。

 私が黙っていると、沈黙をどう捉えたのか中隊長は嘲るような笑みを浮かべた。

「フランス軍と戦っている陸軍本隊にくらべればどれだけかんたんな仕事か貴様らには想像もつくまい。陸軍の勇猛果敢な兵士たちはいまもなお進撃を続け卑俗なフランス、さらに憶病者のイギリス軍と昼も夜もなく戦っているんだぞ。空軍のパイロットたちも全力だ、幸いに我が軍の練度は高いからな、連中を大陸から追い出すのも時間の問題だ。余っているのは貴様らのような小娘だけだ。兵の慰安もできないくせに」

 もうなんの言い訳をするつもりもなかった。この人に何を言っても無駄だと私は悟った。

 わざわざ挑発に乗る必要はない。言わせておけばいい。そのうち勝手に飽きて解放される。

 大声を出せば女が、魔女が従うと思っているような人に、何を言っても意味がない。

「だれも貴様らの偵察など必要としてはおらんのだ。いくらでも偵察機はあるのだからな。それをわざわざ使ってやっているのだからありがたいと思え。それとも何か、フランス人は仲間だからダメだとでも言うのか。やはり魔女は裏切り者の集まりか――」

「――どうぞ!」

 叫んでしまったことに気づいたのは、もう手遅れになってからだった。目まいがして、視界が白くかすんでぼやけていたので、大声を出してからようやく中隊長のしたり顔が目に入った。

「……なんだ。何がどうぞなんだ、曹長殿?」

 適当な言い訳を考えたが、すぐに思いつくはずもなく、私は素直に言うしかなかった。

「…………どうぞ、おっしゃってください。私たちが何をすればいいのか、何をすれば貢献できるのかを、言ってください」

 私は一切の期待を込めずに、機械になったつもりで言った。

 自分の失態を恥じた。黙っていればそれで良かったのに。

 ニコラなら、きっともっと上手くやっただろうに。

「我々が裏切り者でないことを証明する方法を」

 最後にそう付け加えると、中隊長はにやりと笑う。

「はじめからそう言えばいいんだ、私を無駄に怒らせるな。……いいか、これを見ろ」

 中隊長は立ち上がると、背後の壁に貼られた地図を指し示した。

「ここから南西百二十キロほど行くとオルレアンの森がある。三万五千ヘクタールに及ぶ広大な森だ。ここにフランス軍の残党が潜んでいるという情報が入っている。これを排除するのが貴様らの仕事だ」

「……残党ですか」

 わざわざそのために私たちを呼んだのだろうか。

「貴様らの同類だ」

「同類?」

「魔女だ。数はわからんが、箒に乗っていたそうだ。撤退の際に見捨てられたんだろう。当然と言えば当然だな」

 ――魔女。フランスにも、魔女?

 打ちのめされたような気分だった。だが冷静に考えれば何もおかしなことではない。私の祖先も最初に渡ったのはフランスだったし、エミリアたちはフランス系だ。フランスに根付いてそこで生活している魔女がいたとしても何もおかしくない。

 だけど、まさか軍にいるとは思わなかった。ドイツは大戦争後の軍備縮小と財政困窮でやむを得ず魔女を雇い入れたが、フランスでも同じような事情があったのだろうか。

 この作戦に、はじめて希望のようなものを感じた。もしかしたら、何百年か前には同じ場所で暮らしていたかもしれない彼女らに会えば、何かが変わるかもしれない。どうしようもないこの現実が。

 しかし――敵が魔女だというなら。私はかつて仲間だった者たちを撃つ?

 ――仲間、なのだろうか……。魔女というだけで、みんながみんな仲間になるだろうか……。

 面識はなくとも、いまや絶滅に向かっている、数少ない同族を撃つ? それが私にできる?

「武装はしているが、せいぜい一個か二個小隊程度だろう。オルレアン制圧時に取り逃がした連中だ。歩兵もいる可能性があるがそっちは陸軍に任せろ。まずはオルレアンの町の指揮官に会え。命令書を見せればわかる」

 中隊長の言葉は壁を隔てた向こう側から聞こえるように聞きとりづらい。

 中隊長はそう言うと、もう私に対する興味を失ったように椅子に座り、机の上の書類に目を落とした。私は緩慢な動作で敬礼してテントを出た。

「何も考えるな。連中は敵だ。貴様らはドイツの軍服を着て、連中はフランスの軍服を着ている。この意味を考えろ」

 中隊長が顔を上げずに言った。その声は私の耳にひどく無味乾燥なものに聞こえた。

 テントの外に出ると、まぶしさに目がくらんだ。

 遠くでエミリアたちが朗らかに笑っているのが見える。

 私は、神様を信じていない。ドイツ国民はナチ党員を除けばほとんど新教徒だけど、魔女はかつて神の名の元で炎に焼かれたことがある。神様とは元々相いれないのだ。

 しかしこのときばかりは神様にいてほしかった。神様を恨みたかった。私自身や祖先へ向ける、このどうしようもない感情を神様に責任転嫁したかった。

 彼女たちの笑顔を守るために、私にできることは、ねえ、神様。



 武器庫で私たちに渡されたのは狙撃仕様の小銃だった。Kar98(カラビーナー)の銃身上にスコープを装着している。銃身六百ミリ、重量四キロ超の陸軍正式採用の小銃と弾丸を渡された私たちは、すぐにオルレアンに向けて南西に飛び立った。

 みんなには何も伝えなかった。なんて伝えればいいかわからなかった。問題を先延ばしにした。とにかく作戦が与えられたことと、またここから百二十キロ移動することだけを伝えてはぐらかした。幸いなことに彼女たちは何も訊いてこなかったので、オルレアンまでの道のりを私は黙ってひとりで過ごすことができた。エミリアがときおりこちらを見ていることにも、ニコラがうかがうような視線を向けていたことにも気がついていたけど無視した。

 野営地を出発して二時間半ほどでオルレアンの街に到着した。街はパリほどではないがそれなりに大きく、同様にきれいな街並みを保っていた。この辺りでも大きな戦闘は起こらなかったようだ。

 街の北側に修道院があり、その周辺地区に部隊が密集していたのが見えたのでそこに降り立って現場指揮官に会った。降下すると辺りにいた兵士が口笛を吹いた。私はそれを無視した。

「ここから南に行ったところにオルレアンの森がある。森の中をいくつか道が通っているが、周りを高い木で囲まれていて視界はあまり良くない。俺たちがここに来たときにはフランス軍の連中は影すらなかったが、念のために森に偵察に出した部隊が壊滅した。何人か戻ってきたが、箒に乗った女にやられたと言っている」

 私よりひとまわりくらい年上だろうか、無精ひげを生やした指揮官がはきはきと言った。彼は箒に跨って降下してきた私たちを見ても驚かなかった。

「それで私たちの出番というわけですか」

「パリの本隊に救援を頼んだら、あんたらが来てくれたんで感謝してるよ。まさか魔女だとは思わなかったがね」

 指揮官はさも愉快そうに笑った。運命にめぐり会ったみたいな嬉しがり方だった。

 それが少し意外だった。私たちに会った軍人連中、それも士官は、たいがい害虫でも見つけたように顔を歪めるのが当たり前なのに。

 彼の笑顔に少し温かい気持ちになったが、途端に中隊長に言われたことを思い出して気分が滅入った。

 私は魔女を撃つためにここに来たのだ。

「ここから南下するためには森は避けて通れないが、俺たちだけじゃ空を飛ぶやつらに対処しきれない。協力してくれ」

 私はうなずいた。そんな言い方をされては断れないし、どちらにしろこの仕事を終わらせない限りは基地には帰れないのだ。

「歩兵一個小隊をつける。あんたらのサポートにつかってくれ」

「……あの」

「まだ何か?」

 背を向けた指揮官を私は呼び止めていた。ためらいながらも、呪詛のように心に重たくのしかかっていた疑問を吐き出した。

「何人、死にましたか」

 質問の意味がわからないのか、指揮官は小首をかしげた。

「なんのことだ?」

「敵の魔女に、何人かやられたって聞いたから」

「部下が三人死んで五人負傷したよ。それが何か?」

「……ごめんなさい」

「どうしてあんたが謝る?」

 指揮官は意外そうに言った。

 私はどう言うべきかわからずに黙っていた。

 魔女にやられたと聞いて、まるで隊のだれかがやったことのように感じている部分があった。修道院の中にはベッドがいくつも置かれていて、負傷した兵士が横たわっている。建物の脇には布にくるまれた死体が積み重ねられている。それを見て感じたことを、どう言葉にすればいいのかわからない。

 私がそれらを見ていることに気づくと、指揮官はひとつため息を吐いた。

「もしあんたが、敵の魔女と同じ能力を持っているってだけでそんなことを言ったのなら、とんだお門違いだ。俺の部下はフランス軍にやられたんだ、あんたらじゃない。あんたらは俺たちの味方だろ? あんたらがあいつらをかばうってんなら別だがな」

 それだけ言うと指揮官はひらひらと手を振って去っていった。その言葉にほんの少しだけ救われたような気がした。

 それでも、みんなの元に帰る足取りは依然として重かった。体の真ん中に鉄球が入っているみたいに、足元から全身を引っ張られる感覚。

 彼女たちは修道院の横手の壁にもたれかかっていた。

「シャーロット」

 私を見つけると、ニコラは隊のみんなから離れて私に近づいてきた。彼女の顔の表面にはやさしさが貼りついている。いつもならありがたいその心遣いが、いまに限っては迷惑だと思ってしまう。

 私に、やさしくしないで。

「どうしたの? ひどい顔色だけど、何かあったの? あの男に何か言われたの? それとも中隊長の方? パリを出てからずっと変だよ。こんなところまで来て私たちは何をするの?」

 すべて言ってしまいたかった。

 私たちはこれから、魔女を殺すのよ。

 背中に背負ったこの銃で撃ち抜くの。

 命令なの。命令だから仕方ないの。

 ねえニコラ。私、どうすればいいと思う?

 ニコラはきっと、素晴らしい答えを与えてくれる。彼女の明晰な頭脳はいつだって正しい。

 でも勇気は出ず、私は何も伝えられない。

 隊長は私だ。小隊の全責任は私が背負っている。私が決めないといけない。そう自分に言い聞かせた。

 彼女の問いかけに答えるかわりに、足を踏み出して前に出る。ニコラの横を通り過ぎて、みんなに向かってせいいっぱい明るく叫んだ。

「みんな聞いて。仕事よ」

 二十の瞳が正面から私を見据える。きっとニコラも私を見ている。目をそらしたくなるのをこらえて、ニコラ以外の全員の顔をしっかりと見た。特にエミリアたちを。

「私たちに任務が与えられたわ。これから陸軍と共同で、森に逃げ込んだ敵の残党狩りを行います。そのために隊を三つに分ける。一班は私が班長、メンバーはエリー、ジェシカ、ケイト。二班はニコラが班長で、ナタリー、コリーンが入って。三班はクリスティーヌが班長。以下シルヴィ、エミリア、シャンタル、リリアーヌ。この編成で出撃します。作戦開始は十五分後よ」

「ちょっと待ってシャーリー。残党ってのはなんのこと? フランス軍相手に私たちが戦うの?」

 ニコラが慌てて私とみんなの間に割って入った。彼女を見て毅然とした態度を保つのには多大な労力を必要とした。

「そうよ」

「そのためにこんなものを持たされたの」

 小銃を掲げながら彼女は言う。片手で持つには重いが、彼女はそれを苦にする素振りもない。

「……そうよ」

「軍規違反でしょ」

「ここは戦場で、これは自衛のために必要なものよ」

 それが言い訳だということはわかっている。

「それはこの際かまわない。どうせ拒否権はないんでしょう。だけど教えて。敵ってなに?」

 ニコラの目にさっきまでのやさしさはない。かわって深い困惑の色が浮かんでいる。私に対する懐疑がたっぷりと。私はそれを受け止めきれず目をそらす。

「……歩兵よ。一個か二個小隊が潜伏してる」

「本当に?」

 ニコラ・ベイカー。私が信用している、大切な人。彼女が私を見つめている。

「本当にただの歩兵?」

「本当よ」

 私の口をついて出る言葉はすべて嘘偽り。

 どうかニコラ。私を信じないで。私はあなたに嘘をついている。本当のことを言って拒絶されるのが怖いから。

 私はたまらず目をそらし、ニコラは私を見つめ続けた。

「…………わかった。信じるよ、シャーリー」

 しばらく黙りこんだあとで、彼女はそう言った。緊張を解いたおだやかな笑みを浮かべて。

 私は彼女をまっすぐ見返すことができなかった。



 出発前に、指揮官に会いに行った。彼の部下を預かるためだったが、それ以外にも理由があった。

「なんだって?」

 指揮官が口にくわえた煙草から灰が落ちた。灰は太もものズボンの上に落ち、彼は慌ててそれを払い落す。それから私に向き直って、

「あんた、正気か?」

「もちろんです、少尉」

 指揮官は困ったように頭を掻くと、真面目な顔つきになって私をまっすぐに見た。

「こう言っちゃなんだが……。あんたがやろうとしてることは、どう考えても無茶だ。人としての筋を通したいんだろうが、軍人としてだとそいつは無理だ」

 諦めろ、と言われていた。だから私は言う。

「もちろん、そんなことはわかっています、少尉。ですからこうやって頼んでいるんです。いえ、確認している、と言った方が正しいでしょうか」

「あんた、実戦の経験は?」

 指揮官が煙を吐きながら言った。私は首を振る。

「実戦は、あんたが想像しているよりも厳しいし、惨い。別に、あんたを責めているんじゃない。新人ならだれにだって言っていることだ。訓練でできていたことはほとんどできないし、役に立たない」

 指揮官はそこで言葉を切ると、胸ポケットから煙草の箱を取り出して私に差し出した。私はそれを断って、指揮官の目を見た。

「それでも、私は賭けたいんです。中隊長は残党を排除しろ、と言いました。つまりは森から残党がいなくなればそれでいいはずです。であれば、殺す必要はない、とも考えられませんか」

 この作戦でそれだけが、私に残された唯一の希望だった。指揮官は鷹揚にうなずいて言った。

「そうだな……。そいつがきっと、いちばん良い方法なんだろうな。痛みが少なくて良い」

「それなら――」

「だが、賢くはないな。そんなことを考えるのは、あんたが実戦を知らないからだ。俺たちは、何も敵が憎くて殺してるわけじゃない。ただ、そいつがいちばんかんたんで確実な方法だから殺してるんだ。死人は何も言わないし、撃ってくることもないからな」

 指揮官はそう言うと短くなった煙草を軍靴で踏みつぶして、二本目に火をつけた。

「それでもあんたが、敵の命も守りたいって言うんなら、俺は止めない。現場に出るのはあんただ。俺の仕事はここにいてこうやってサボりながらあれこれと指示を出すことだからな」

「ありがとうございます」

 そう、彼の言っていることが正しい。私がやろうとしていることは、ただの理想に過ぎない。

 ただそれでも、やってみる価値はあるはずだ。私も、みんなも、彼女たちも。だれも傷つかない可能性がわずかでもあるのなら、それに縋ってみたい。

「私は、私の命を賭けます。それ以外には何も、賭けません」

「命とか、軽々しく言わない方がいいと俺は思うけどね」

 指揮官はそう言うと悲しそうに笑った。それからすぐに笑みを引っ込めて、真剣な顔つきになって言う。

「もし成功したら、あんたはすげえよ。だがもし、失敗しそうになったときは、自分と、仲間を守ることを最優先にするんだ。その判断を誤ったら、取り返しのつかないことになるぞ」



 オルレアンの街を出発したのは午後三時を過ぎた頃だった。陽が落ちるまでにどうにか作戦を終わらせたかった。

 夜に飛ぶと、闇に飲まれてしまいそうで不安になる。それに、夜闇の中では飛んでいる魔女を見つけることは容易ではない。

 なるべく早く終わらせて、シュランベルクに帰りたい。遠足気分はどこかに消え去って、不安だけが胸に立ち込めていた。

 陸軍の歩兵一個小隊が、徒歩で森の中心部を通っている最も大きな道を南進する。私たちがその上を飛んで敵を探す。

 私が率いる第一班は森の南側、出口の方へ先回りをして敵を待ち伏せする。ニコラの第二班は陸軍の真上、道の両脇に並んだ樹木よりもやや高い位置を保ちながら飛び、三班はそれよりも後ろで高々度を飛びながら森を俯瞰して敵の発見に努める。地上の歩兵隊と第二班は、いわば敵をおびき出すためのおとりだった。ニコラはそれを了承してくれた。

 潜伏している部隊は好戦的になっていると現場指揮官は言っていた。その気持ちがわかる気がする。彼ら――彼女ら――は絶望的に孤立している。すでにフランス軍の主力部隊は大西洋に面した沿岸部まで撤退していて、ドイツの陸空軍がそれを追撃している。内陸部に残っている部隊は多くはないはずだ。彼らと落ち合うのも、撤退のために本隊へ合流することもかなわない。

 森の中で一生暮らしていけるわけもない。救援は望み薄だろう。彼女らが捕虜になる覚悟を決めて、おとなしく投降してくれればこちらとしても助かる。

 なるべくなら、戦いたくはない。

 死を覚悟した兵士と戦う勇気は、はっきり言って持ち合わせていない。ましてや魔女だ。

 けれどそれが甘い考えだということもわかっている。

 奇跡はめったにないから奇跡なのだ。必ずだれかが死ぬのが戦争だ。そんなことは、八歳の子どもでもいまどき知っている。

 事前に打ち合わせて、午後五時に作戦開始だと決めていた。時間になればニコラたちがゆっくりと前進をはじめる。

 私を含めた第一班は先行して、広大なオルレアンの森を、太陽を背に西回りに大きく迂回し、森の終点近くで待機していた。眼下には沈み始めた陽を浴びて黒々と輝く森。背後には夏草が生い茂る青い平野が広がっている。平野はさえぎるものもなく見通しが良い。木々の間に身を隠しているであろう敵兵をいぶり出し、ここで仕留めようという算段だった。

 冷たい汗が額からひとすじ流れ落ちた。不安がさっきから悪性の腫瘍のように、下腹部で急速に肥大し続けている。

 両手で抱えるように持つ小銃がずっしりと重く、肩の筋肉がこわばっている。スリングが左肩に擦れてじりじりと痛む。小銃から手を離して、髪を後ろで一本にまとめると、首が顕わになって、汗ばんだ肌を風が撫でた。

 全身の感覚が鋭敏になっている。気持ちを置いてきぼりにして、体は戦いに備えようとしている。

 夕闇が迫っていた。遠く彼方に、オルレアンの街が斜光を浴びて浮かび上がっている。風は無風に近く、初夏の割にいやに冷たく、背筋を震わせる。

 私がはじめて空を飛んだのも、こんな夕暮れ時だった。母親が死んだ次の日のことだった。

 襲いかかる喪失感と、だれもいない家の静けさに耐えきれずに、箒を持って家を飛び出した。

 父さんと母さんは、こんな私を見てなんと言うだろうか。褒めてはくれないだろう。怒るだろうか。悲しむだろうか。

 はたと気づく。頭の中から、父さんと母さんの顔がほとんど消えかかっていることに。時の流れに飲み込まれて、二人が手の届かないところまで流されてしまっている。

 あれから早十一年が過ぎた。両親は他界し、軍人になった私はフランスにいる。

 ドイツの軍服を着て、フランスの魔女を狩るために。

 なんという巡り合わせだろう。

 指揮官が言ったように、復讐されないためにも、彼女たちをここでひとり残らず殺してしまわなければならないのだろうか。

 私は、それを否定したい。でなければずっと、私たちはこのままだ。



「隊長!」

 その声に振り返ると、ジェシカが片腕をまっすぐに伸ばして森の一角を指差している。道からずいぶんと離れた西側の一角だった。

「あそこで何か、何かが動きました! 何かが木にぶつかったみたいに……」

 ジェシカの指し示す辺りに目をこらすが、特に変わったところはない。木々が風にそよぎ、ずっと先まで森が続いているだけだ。

 風が強くなってきている。北から吹く闇を運ぶ風。向い風だ。ジャケットがばたばたと風にはためく。静止姿勢を維持できず、体が箒ごとゆらゆらと揺れる。

 箒には両足で柄を挟むように跨っていた。哨戒で飛ぶのと同じ姿勢だ。安定はしないが、すぐに行動に移れる体勢。

「見間違いではないの? 風じゃなくて?」

「間違いありません! たしかに何かが動いたんです!」

 ジェシカの声は緊張している。かすかに冷静さを失っている。それはエリーもケイトも同じだ。みんなひどく緊張している。顔が青い。唇も紫色で、額に汗がにじんでいる。体がこわばっている。

 そろそろ覚悟を決めないといけないんだろう。このまま何事もなく、なんてことはありえない。必ず戦闘は起きる。直感がそう告げている。もし私が残党部隊の隊長なら、おとなしく森に引きこもってはいられない。

 空気が刻々と張り詰めていくのが肌に感じられる。

 彼女たちの緊張を解きほぐすために、わざと大きな音をたてて小銃のボルトを引いた。銃弾が薬室に送り込まれて、銃はいつでも撃てるようになる。

 準備は整った。あとは覚悟だけ。

「全員、戦闘準備!」

 大声で叫ぶと、ガチャガチャとぎこちなくボルトを引く音が背後から聞こえる。

 音がやんでから振り返って、それぞれの顔をまじまじと見た。

「私がいいと言うまで撃たないで。いいわね?」

 三人がうなずいたのを確認して前に向き直る。

 目をこらして木々の群れを睨む。ざわめきは風によるものか、その下にだれかがいるからなのか。判断がつかない。森は広大過ぎる。辺りは刻々と暗くなってきている。

 手首に巻いた腕時計を見ると、作戦開始の時間はとっくに過ぎていた。もういつニコラたちが現れてもおかしくない。

 山の向こうへ、赤々とした太陽が沈みはじめている。

 体は疲れているのに精神は高ぶっている。視野が広くなって、どこまでも見通せる気さえする。電流が肌の上を休みなく走っているような妙な感覚がある。どうあっても、心と体は足並みを揃えてくれない。

 基地を出発してまだ一日も経っていないのに、宿舎の部屋から見る夕暮れが懐かしく思えた。

 シュランベルクが懐かしい。こんなときに考えることではないかもしれない。軍に入ってからもたびたび訪れていた寂しさの大波がまたもやって来た。ホームシックはいくつになっても、ときどき胸の扉を叩いて顔をのぞかせる。そいつに抗う術を私は持たない。どうしようもならなくなる。


 脳裏によみがえるのは、父と母と、三人で暮らしていた頃。貧乏でもそれなりに幸福だった日々。

 父は厳しかったけれどその声、その手のぬくもりはやさしさを秘めていた。母は無口だったけれど、いつも笑みを絶やさない人だった。

 しかしもう、父も母も、その顔をはっきりと思い出すことができないほど過去の存在になりつつある。写真の一枚さえも残っていない。

 ふたりが、私の中からほとんど消えかかっている。

 夕焼けは過去を刺激する。

 涙が自然と溢れ、頬を伝う。

 流れた涙をぬぐって、前を見た。ホームシックの波は遠のいていく。

 本能が何かエネルギーのようなものを察知して、ひときわ大きな電流が全身を駆け巡る。

 来る。

 どこかはわからない。けれどたしかに、こちらに向かってくるものがある。

 木々がいっそう激しく揺れる。風の流れは一定でなくなり、森全体が大きく脈動しているようだ。

 大きな蛇が青葉の下でのたうちまわっているような、気味の悪いざわめきがそこら中で起きていた。

 跳ねた。魚が川面に勢いよく現れるように。黒いものが木々の間から勢いよく飛び出した。

 ジェシカが指差した場所よりもずっと近く。直線距離で一〇〇〇もない……。

 箒にしがみつくように跨った魔女が一人、砲弾のように撃ち出された。

 魔女は大きく上昇すると、にわかに進路を変えて猛然と私の方へ向かってくる。少し遅れて、同じような格好の魔女が数人飛び出して同じような軌道をとる。

 敵だ。

 ニコラたちはまだ影も形も見えない。

 私は呆然と敵の一小隊が拡大するのを見ていた。

 先頭の女と目が合った。まだ距離がある。それなのに女の顔ははっきりと視認できる。風に流れる赤い髪、額ににじむ汗、黒ずんだ白い肌も、茶色い瞳も、すべて一瞬のうちに見えた。

 彼女の隅々まで確認することができた。ローブをまとった魔女は手負いの獣のような形相で、躊躇することなく突進してくる。

 その目にひるむ。雲のように透きとおる白に囲まれて、絶望を煮詰めたように澱んだ黒目があった。それは死に慣れた貧民街の人間の目に似ていた。

 それでわかってしまった。彼女と話し合おうだなんて、はじめから無理な考えだった。彼女はもう、命の瀬戸際にいるんだ。生きるためならなんだってできる。

「――構え!」

 自分自身を鼓舞するために叫ぶ。

 小銃を顔の高さまで持ち上げる。

 銃口を女に向けてスコープを覗くと、丸く限定された世界の中に女が現れる。狭まった視界のなかで倍加したその姿は、実物よりもずっと大きく見える。視界が彼女だけで埋まっていく。

 全身の筋肉、特に肩から手首までが極度に硬くなっているのがわかる。まるでそこだけ石像になってしまったみたいに。銃の重さのせいだけではない。

 一〇〇〇メートルなんて本気の魔女にはあっという間だ。しかしそれでも、引き金を引くには充分すぎる時間がある。銃口はたしかに魔女を捉えている。あとはこの指に力を込めるだけ。

 引き金を引くだけ、かんたんなこと。

 仲間を守るためには仕方のないこと。

 でも、だめ。

 頭ではわかっていても、

 うまく、体が動かない。言うことを聞いてくれない。

 銃を下ろす。視界は一気に広くなる。すると、黒のローブのはるか後方高くに、何人か浮いているのが見えた。数は……五人。観察のために配置した三班だ。

 私はぼんやりと敵に目を戻した。彼女たち――フランスの魔女たち――のなかには、ヘルメットや、あまつさえ軍帽を被っていないものがいた。上下こそ揃いの軍服を着ているが、その上からコートやローブを羽織っているのもいたし、魔女帽子をかぶっている者もいた。てんでんばらばらの出で立ちをしたフランスの魔女。

 真っ黒の鍔が夕焼けを浴びて輝いている。

 それだけだ。ただそれだけ。別にたいしたことじゃない。

 彼女たちは軍人だ、兵士だ。私たちと何も変わりない、不自由で、命令には逆らえない存在。かわいそうな女たち。

 そんな風に考えようとした。彼女たちに同情する必要はない。状況は完全に戦闘中だ。撃つことにためらいがあってはならない。

 撃つ理由なんて、ただ敵だからというだけでいいじゃない。

 自分に言い聞かせる。

 守るために殺すのは仕方のないこと。

 だけど体はいっこうに言うことを聞こうとはしない。引き金にかけた指は微動だにしない。

 両の瞳だけが事の成り行きを冷静に捉え続けている。

 クリスティーヌを先頭にした三班が、高度を保ちながら状況を観測している。夕日に染まる影の中に、エミリアの姿もある。二班はまだ見えない。

 ちらりと見下ろす。陸軍兵士たちの姿はどこにも見当たらなかった。たとえいたとしても、彼らにできることは何もない。作戦はすでに魔女の領域に入っていた。飛べない人間が関われることではない。

 いまここで敵を撃てば、エミリアたちはどんな顔をするだろう。やっぱり泣きはしないのかな。

 ほとんど無意識で、ふたたびスコープを覗く。すでに先頭の魔女は極大だった。撃てば必ず当たるような距離まで迫っている。引き金にかけた指はびくともしない。

 怖い。

 これまで人なんて撃ったことがない。動物だって傷つけたことはない。嫌だから、避けてきた。

 でもそんなのは、運が良かったに過ぎないと気づく。不幸中の幸いというやつだ。

 だって、いままさに不幸だ。

 いままさに、そういう選択を迫られている。命の選択を。

 どちらも救う、なんてことはできない。そんなわがままは通らない。

 世界はそんなに、私にやさしい風にはできていない。

 私は直感した。自分が何も知らない子どもであったことを。

 これまでの十九年において、私は大きな選択を避けてきた。唯一そのようなものをしたというならば、それは私が十六歳のとき。学校を卒業して、生きていくために軍人になると決めたときだけだった。それにしたって、ひどく後ろ向きな選択だった。

 他に未来について考えつかなかったから、選んだだけ。

 おばあさんがいなくなった叔父夫婦の家で、私は限りなく邪魔なものでしかなかったし、私は彼らに愛されるようにかわいくは振舞えなかった。所詮は他人だった。

 運が良いのか悪いのか、私に与えられた唯一の能力は、空を飛ぶこと。どのみちこうするしかなかったのだ。

 いつかはこうなるに決まっていたんだ。みんなだれかを殺しながら生きている。

 もし、私が軍人になっていなかったらどうなっていただろう。魔女を働かせてくれる親切なところはかんたんには見つからない。路上で体を売る選択だってありえないことじゃない。表向き存在しないことになっていても、路地裏なんかで体を売ってお金を稼ぐ女の子が街にはたしかに存在していた。

 私だってそこにいたかもしれない。そうなれば、きっと私はもう飛べなくなっただろう。

 信じることが、魔法においていちばん大切。

 私という器に注ぎ込まれる魔力は、世界からの預かりもの。

 世界を、その一部の自分を信じないと魔法は使えない。

 ああ、だから、魔法は消えてしまおうとしているんだ。

 世界に希望なんて、ないもの。

 暗い路地裏や街頭でお客を待つ女の子たちは、ときどき制服を着た大人にどこかに連れて行かれる。行き先は一つだけだ。

 忌まわしい強制収容所。そこで何が待ち受けているのか。考えたくもない。

 かわいそうな子どもたち。救いの手が差し伸べられることはない。

 私だって、差し伸べられない。


 敵はもうすぐそこまで来ていた。

 見送れ。だれかが耳元でささやいた。

 彼女たちを撃って私になんの得があるっていうの。

 スコープには魔女しか映らない。

 彼女の後ろの風景は見えない。

 仲間の姿は知らない女たちに隠れている。

 引き金に力を込める。

 瞬間、視界が開けた。腕から力が抜けて、橙色に染まった空が目の前に広がる。

 パノラマ。

 突風とともに、魔女がすぐそばを飛び去っていった。一瞬だけ目が合う。

 驚き、あるいは同情。

 さらに数人がそばを高速で通り過ぎていく。私は動けない。

 よくやった、それでいい。逃がしたっていいじゃない、彼女たちは数少ない同族なんだから。

 私が私にささやきかける。

 そう、これでいい。クソったれの命令なんかより、名も知らぬ彼女たちとの友情の方が大切だ。

 何より、手を汚さずに済む――。

 遠くに、三つ、浮いているものが見えた。見間違うはずもない。ニコラたちだ。

 ねえニコラ、私を誉めて。私、彼女たちを救ったの。仲間を、救ったの。

 敵とか味方じゃないもんね。

 私たち、この世に残された数少ない――。

 私はどうにか笑おうとして、銃を持つ手を下ろした――。

「撃て!」

 叫び声。続いて、叫び声。

「なにをしているのシャーロット! 自分が何(、)を(、)して(、、)いる(、、)か(、)わかってる(、、、、、)の(、)!?」

 ニコラが、必死の形相で叫んでいた。目は見開かれている。彼女たちの肌を痛々しい赤い線がいくつも彩っている。

「敵よ! あれは敵なのよ!」

 私はようやく、自分がしてしまったことに気がついた。

 敵を見逃すってことは、つまり、味方を裏切るってこと。

 私を信じてくれたみんなの気持ちを、台無しにするってこと。

 呪縛が解けて体の自由が戻る。すぐさまその場で反転して、銃を構える。

 体は驚くほどなめらかに動く。

 スコープの向こうの背中は、さっきよりもずいぶんと小さくなっていて、さらに刻一刻と遠ざかる。引き金に指をかけると、まるで稼働域がそこまでしかない人形のように、またしても指は固まってしまった。

「撃つのよシャーロット! 撃って!」

 叩きつけるようなニコラの怒声を背中に浴びて、指先が息を吹き返す。なんて単純な、私。

「シャーリー!」

 人差し指が曲がる。

 引き金を引いた。

 祈った。

 どうか、私たちのために、死んで。

 なんて、身勝手。

 引き金は固く、破裂音が耳に響いた。衝撃で銃口が跳ね上がり、両手が肩までびりびりと痺れる。無自覚に目をつぶってしまっていた。開くと、まだそこに背中があって、一瞬間だけ振り返った。すぐにまた逃げていく。

 ボルトを引いてふたたびスコープを覗き込んで、第二射を放った。

 風はやみ、陽は沈んだ。

 スコープの真ん中にいた背中がびくんと痙攣したかと思うと、ふらふらと森のなかに落ちていった。

 当たった。

 当たった。

 なんの感触もない。ただ腕が少し痺れているだけ。

 ただこれだけのこと。なんて、かんたん。

 とってもかんたんなことじゃない。まるで、魔法みたい。


 もうなんのためらいもない。ただひたすらに撃ち続ける。一班のみんな――エリーとジェシカとケイト――も、私に続くように引き金を引いた。ニコラたちも合流して、斉射。

 逃げていく背中に照準を合わせ、息を止めて、撃つ。合わせて、止めて、撃つ。撃つ、撃つ、撃つ。くり返し、くり返し。

 弾がなくなれば装填して、また撃つ。小さくなる背中を狙ってドン、ドン、ドン。

 かわいた射撃音だけが響く。それ以外には何も耳に届かない。

 何発撃ったか覚えていない。空薬莢が夜空に瞬く星のようにきらきらと地面に落ちていく。

 何も感じなかった。ただ機械のようにボルトを引いて、構えて覗いて引き金を引く。あれだけ恐れていたことが、陽が沈むようにどこかに消えてしまった。

 なんだ、人を殺すのって、とってもかんたんなことだ。

 敵はほとんど落とした。九人いた魔女はことごとく森の中に落下していった。ふらふらと、あるいはどさりと。私は四人落とした。

 もう残っているのはひとりだけだった。あれだけたくさんいた魔女がもうひとりだけ。狙いをつけると、彼女はその瞬間に振り返った。黒いおかっぱ頭の女の子。

 おびえていた。だから、何?

 無感動。

 引き金を引こうとして、もう弾が残っていないことに気がついた。腰のベルトにつけた弾入れを探ったが、空っぽだった。

 あきらめて、彼女が射程外に出ていくのを見送った。

 その頃になってようやく陸軍の彼らがやって来た。下に降りて彼らと合流して、墜落した魔女をいっしょに探した。落とすよりも探す方が重労働だ。辺りはすっかり暗くなっていて視界はないに等しい。

 ランタンを手に、二人一組になって森に入る。

 先頭を飛んでいたあの赤い髪の魔女はすぐに見つかった。彼女は比較的近い場所で、大きな木の根元に横たわっていた。肩からは血が流れ出していて、暗くなった森の中ではそれが黒いどろどろした得体の知れないものに見えたけど、胸が動いているのを見て少しほっとした。

 赤髪の魔女は肩の銃創の他に右足の骨折と、無数の擦り傷や打撲があったが、意識ははっきりとしていた。私たちの姿を見ると体を起こして後ずさろうとしたが、体は彼女の意志に反して震えるだけでまともに動かない。陸軍の兵士を呼んで彼女を背負って森から運び出してもらった。

 だれかが野営地に知らせて呼び寄せたトラックの幌付きの荷台に運び込まれるまで、彼女はずっと私をきつく睨みつけていた。私はずっと気づかないふりをした。

 鬱蒼とした森をかき分けながら進む。発見地点はだんだんと遠くなっていた。八人目の魔女はなかなか見つからなかったが、草木をかき分けて懸命に探していたエミリアが見つけた。

 最後の魔女は黒いつば付きの魔女帽子をかぶっていた。それが闇の中に溶け込み、こぼれるブロンドの髪がかすかに浮き上がって見えた。森の終わりまであと少しの道のそば、低く湿った草の上に倒れている。

 エミリアが草地でうつぶせに倒れていた魔女をひっくり返すと、彼女は短い悲鳴を上げて腰を抜かした。

 顔立ちは幼く、頭も顔を構成するパーツも小さい。

 半開きの唇からは血がこぼれ、胸から流れ出した血が黒く変色して軍服を染め上げて固まっていた。辺りに血のにおいが立ち込めている。

 生前輝いていたであろう瞳は光を失い、いまでは森に広がる闇のようにくすんでいる。

 いまにもその瞳が動いて私を睨むのではないかと思ったが、それはありえそうになかった。

 担架に乗せた死体を荷台に運び入れると、陸軍の兵士たちも乗り込んだトラックは野営地の方角へ走り去った。詰めれば乗れないことはなかったが、私は彼らを見送った。

 私はしばらくその場で立ち尽くした。トラックが見えなくなり、静寂が戻ってくると、もう気を張る必要もなくなった。

 私が許可すると、みんなその場に座り込んだ。

 私は立ったまま、最後の魔女が倒れていた場所を見た。人ひとり横たえた形に草が折れ曲がり、点々と赤く上塗りされている。

 ニコラが私の頭をやさしく撫でてくれた。何も言わず、ただその意外に大きな手で私の頭をくしゃくしゃと。

 みんな疲れ切っていた。

 私は何をしていたんだろう。

 何をしてしまったんだろう。

 夜の帳はもう完全に下りている。辺りは闇に包まれ、ランタンの明かりだけが弱々しく輝いている。

 長い一日が終わろうとしている。肩にかけた銃のスリングを握る手が固く、自分の手なのにほどくこともできずに、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

 まだシュランベルクを離れて一日も経っていないのに、とても遠い場所に来てしまったように思えた。



 六日後にフランスが降伏したので、私たちはシュランベルクに戻った。毎日残党狩りに駆り出されたので帰りのフライトはきつかった。

 帰る前に指揮官に会って、あなたが正しかった、と言うと、彼はあいまいに笑ってうなずいた。

 基地に戻ると、入れ替わりに中隊の十二機のメッサーシュミットが西へ向けて飛び立った。イギリス攻撃に参加するためだという。

 中隊の分の仕事が私たちに回ってきたので、それまで一日二回だった哨戒飛行が四回に増えた。

 しばらくすると中隊は戻ってきたが、彼らは半分の六機まで減っていた。


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