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希望~津波から生き延びた私~  作者: 柿崎零華
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最終回~絶望からの決意~

自衛官の岸部が小野山に話しかけた。表情は重い顔だ。


「あの。この写真を見つけまして。住所がここになっていたので、来たら丁度あなたがいたので」


岸部が写真を渡す。その写真は岡森と去年の年末に京都で撮った写真だった。とっさに篠原が岸部に


「この写真。どこにあったんですか?」


その言葉を聞いた岸部は、さらに重い顔をしながら


「実は、そちらの男性の方の。遺体が見つかりまして。遺体があった車の中からその写真が出てきて」


篠原は驚いた顔をする。そのまま小野山の顔を見る。小野山は動揺していたのか体が震えながら、何も言えずにいた。

篠原は少し動揺しながら


「あ、あの。どこに車があったのですか?」


「そうですね。海岸近くの家の瓦礫にありました」


すると小野山が小言で


「嘘よ…」


「え?」


思わず聞き返す篠原。すると大きな声で


「そんなの嘘よ!だって今日結婚する予定だったんだよ。勝手に死ぬわけないじゃない。ねぇなんでそんな嘘つくの。本当は自衛隊の人が保護してるんでしょ。答えてよ!」


思わず小野山は立ち上がって、岸部に言った。彼は何も言えずに下を俯いていた。

篠原が慌てて


「里香。落ち着いて」


小野山はそのまま崩れ落ちて泣き始めた。本当は覚悟をしていたが、やはり信じられない。その思いが強く、ただ泣くしかなかった。

岸部と篠原は、ただ泣いている小野山を黙って見つめるしかなかった。

しばらくして、小野山は少し一人にしてほしいと言うことで、岸部と篠原が近くで歩きながら話していた。


「あの。岸部さんはいつから宮城に」


「1週間前からです」


篠原が笑顔になり


「そうなんですね。でも本当は写真を届けに来ただけが要件じゃないんですよね」


「え?」


岸部が少し驚いた顔をした。


「だって。さっきこっちに来るときに誰かと無線通信してましたよね。恐らく上司。写真を届けるだけではそんな無線はしません」


岸部が少し微笑みながら


「あなたは探偵ですか」


「少し目指してたことあるので」


二人が笑いだす。岸部は少し真顔に戻し


「実はそうなんです」


実は岸部は遺体確認のために小野山の元へ行ったのだ。岸部は篠原にそれを話し、小野山にも説得をして、3人で近くの遺体安置所であるとある体育館に行くことになった。

そこにはたくさんの棺桶や大勢の自衛隊員の姿があった。

中に入るとすぐに岸部が、上司であろう男性自衛隊員に話し始めて、その男性がこちらに近づいてきた。


「初めまして。自衛隊員の藤岡です」


憔悴している小野山の代わりに篠原が


「あっこの子が小野山里香です。私はこの子の親友の篠原琴美です」


藤岡は小野山が憔悴していることがすぐにわかり、少し気を使い。


「こんな時に申し訳ないですが。一応やらなければならないことなので、遺体のご確認をお願いします」


篠原が小野山に優しく誘導をして、遺体の場所まで来た。他の自衛官が棺桶を開けると、そこには岡森の遺体があった。

すると岡森の遺体を見た小野山が、棺桶の前でしゃがみ込み


「ねぇ。覚えてる?今日婚姻届を出す日って。私たち夫婦になれるんだよ。人生で一番嬉しい日なんだよ」


次第に小野山の目には涙であふれていた。それを見た篠原が慰めようとするが岸部に、今はそこじゃないと止められた。篠原も涙であふれていた。


そして藤岡が小野山に近づき


「これは、車の中で見つかった者です。恐らく小野山さんに届けるはずだったんでしょう」


藤岡から渡された一つのラッピングされた袋。小野山が開けると、その中には結婚指輪と手紙が入っていた。そこには一言


“結婚してくれてありがとう里香”


その瞬間涙があふれて止まらなくなり、大声で泣き叫んだ。

夜が更けた時間。小野山が一人、岡森の棺桶の前で憔悴していると。そこに一人のご老人の男性が近づいてきて


「あなたは、ご家族を亡くされたんですか?」


小野山が顔を少しずつ上げる。そして頷いた。するとご老人の方は


「私は、孫と息子を亡くしました」


目を見開きながらそのご老人をみる小野山。ご老人が続けて


「私には、3人の孫がいます。2人は息子の嫁さんと一緒に東京に遊びに行っていて、もう1人の孫は具合が悪いと言って、息子と宮城に残りました。しかし地震の津波に飲み込まれて亡くなりました」


小野山はなんて声をかけていいか分からずに、ただ一言


「それは、お辛かったでしょう」


ご老人は少し涙目になりながらも


「えぇ、私は偶然買い物に行っていて。近くが高台だったもので助かりましたが。息子と孫は車で避難している途中に、そのまま津波に巻き込まれて」


ご老人は泣きながらもそう言った。小野山は少し声を細めながらも


「私も、大切な婚約者を津波で亡くしました。今日結婚する予定だったんです。でも車で避難している途中に津波に巻き込まれて」


しばらくして泣いている小野山に、ご老人が肩を叩きながら


「でも、めげちゃだめだよ。あなたは生き残った。でも亡くなった人の想いや愛・そして生きたかったという勇気を胸に生きなきゃだめだよ。そうしないと亡くなった人も戸惑っちゃうよ」


その言葉に少し楽になったのか。涙目になりながらご老人を見つめていた。少し笑顔で。

篠原も遠くからその光景を見ていて、涙目になっていた。


時代は変わり2021年3月10日。その話聞いた前田と佐々木は涙目になっていた。それに小野山は加えて


「それでね。学んだことがあるの。たとえ愛する人や仲間の誰かが亡くなったとしても、すぐに立ち直ること。後悔などしちゃだめ。それは亡くなった人に失礼だし、もし安らかに眠ってほしいという考えがあるのなら。自分がその人の分を心強く生きること。それを今回の震災で学び、そして決心したこと。あっそれに結婚指輪はね、家に飾ってあるの。あまりむやみに使おうとは思わなくて」


その後、小野山と篠原は廊下を歩いていた。すると篠原が


「大丈夫なの、あの子たちに話して」


すると小野山が笑顔で


「次第にね。この震災や津波のことを分からない人たちが増えていく。でも私たちが語り部となり、世に引き継いでいくのが。仕事だと思ってるの」


篠原も笑顔でその廊下を後にする。


そして翌日、2021年3月11日午後2時46分。東北だけではなく日本中が黙とうの意を表した。

そして小野山も地元石巻の海岸で黙とうをしながら


(光一さん。私初めて語り部をした。でもこれでいいよね。光一さんのこと忘れてないよ)


その時に初めて結婚指輪を付けながら言った小野山であった。




~最終回終わり~

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