第1話~あれから10年~
宮城県石巻市、あれから10年の月日がたった。
しかし、10年は経てば経つほど、記憶も薄れていったり、経験したことのない子たちも増えていく。辛いことだがそれが現実だ。
しかし、この女性は違った。名前は小野山里香、彼女は海を見ながら、とある男性の写真を見つめていた。思わず少しの笑顔で
「光一さん」
2021年3月10日。彼女は宮城県仙台市にある広告大企業「サンシャインプロジェクト」の広報部長として働いていた。
しかし、彼女は冷静かつ真面目であまり笑わない。そのため他の社員からはあまり好かれてはいない。
小野山は広い室内の奥にあるデスクで、真面目にパソコンを打ち仕事をしていた。すると小野山は
「前田さん」
近くにいた若い女性社員を呼び、その社員がデスク前まで来る。
「はい。なんでしょうか?」
「このCM企画案。とってもいいんだけど、まだちょっと足りないわね。キャスティングも今どきじゃなくて、もっとベテラン俳優さんを起用した方が良いわ」
若い社員は笑顔で
「分かりました。もう一度考えてみます」
そのまま社員はその場を後にした。しかし昼。たまたま小野山が休憩室を通りがかったとき、明らかに先ほどの社員の声で
「ねぇね。マジムカつくんだけど」
他の女性社員の声も聞こえ
「何がムカつくの?」
「だってさ。もっとベテランを起用しろとか。これは化粧品でしょ。ベテランの人を起用したって人気堕ちる一方だし、あの人何にも考えてないんだから」
「ただの馬鹿じゃないの。真面目すぎるんだよ」
二人の社員が笑っている。しかし小野山にとってこれは日常茶飯事だ。どれだけの人に恨まれ憎まれ口を叩かれたか、慣れっこだった。
しばらく歩いていると、親友で今は営業部長である篠原琴美が小野山の後ろから
「里香――」
後ろを振り返る小野山。久しぶりに会ったため笑顔で
「琴美!」
お互い近くに来て、篠原が明るい口調で
「元気してた?」
小野山が笑顔で頷く。
「ねぇね?コーヒー飲む?」
「うん。丁度行こうかなって思っていたところ」
「ラッキー。行こう行こう」
篠原は昔からこの性格だ。入社当時から凄く明るくてとても頼もしい存在である。自分は何度恋愛相談や人間関係の相談をしただろうか。そう思いながら二人は社員カフェに向かい、コーヒーを飲んでいた。
「ねぇね。明日で10年だよね」
篠原が重い口調で言い始める。小野山は少し微笑み
「そうだね。早いわね。あれから1年・2年と月日が重なり、ついには10年とはね」
「そうね。あのさ、こんなこと聞くのもあれなんだけど、まだ忘れられないの?」
「え?」
篠原が少し動揺しながら
「光一さん」
小野山は少し暗めの顔になりながら、頷いた。篠原は少し暗めだが、微笑み
「そっかぁ」
すると隣で
「あの小野山部長」
声のする方向に振り向くと、そこには先ほどの若い社員ともう一人友人だろうか、他の女性社員がいた。
少し小野山は顔色を変えて
「どうしたの?」
「やっぱり、さっきの案を受け入れることは出来ません。化粧品は若い俳優じゃないと効果は出ません」
篠原は少し戸惑いながら様子を見ていた。小野山は一切顔色を変えないで
「それの根拠は?」
すると二人の社員は笑い始めた。そして付いてきた友人だと思う社員が
「あの、私広報課にいる佐々木ですけど、世の中を見てないからそんな考えが出るんです」
「は?」
「まぁそれはそうでしょうね。長年結婚しないで彼氏もいない人が、化粧品の事とか分からなくても当然か」
二人の社員は笑い始める。篠原は怒り口調に
「あなた達、いい加減にしなさいよ。里香がどんだけの思いしてきたか」
「いいの」
小野山が冷静に篠原の怒りを鎮めようとした。
「でも里香」
すると小野山が二人の社員の方を向いて
「前田さんと佐々木さん。そこの席に座って」
小野山と篠原の座っている席の他にも丁度二つ椅子が残っており、そこに座る社員二人。すると小野山が重い口を開いた。
「私はね。決して恋をしてこなかったわけじゃないの。結婚も考えた、そんな人がいたの。でも10年前、東日本大震災の大津波で亡くなったの」
驚いた顔をする二人の社員。すると篠原が
「でも里香。その話は」
「封印しようと思ったわ。でも明日で丁度10年の節目の年だし、前田さんと佐々木さんだけには話すわ」
覚悟を決めたような顔をして話始める小野山。
第1話終わり