第15話 グルメ
第15話 砂漠のグルメ
「ふぅ、やっと出られた。地下はこんなになってんのか。花みたいなこれに喰われた時は流石に終わりかと思ったが、どうにか生きてたな」
「それにしても急に食われてびっくりした。所でアニキはどこですかねぇー」
「お前ら、お願いだから早く俺の上から退いてくれないか?」
小さい呻く様な声が聞こえてくるのだが、弱々しい声でどうも耳に入ってこない。今にも消えてなくなりそうなほど弱々しい声が聞こえてくる。
「下だよ。下」
恐る恐るゆっくりと視線を下に落としていく。
ブーツの下には鱗の花弁の残骸とその下で何かが蠢いている。
上に乗っている二人が顔を見合わせると急いで砂の上に乗っている物を手でどかしていくのだが、しばらくすると砂の中から見覚えのあるものが発見された。
気まずそうに二人が顔を見合わせるや否やシュロウがどかした砂をもう一度砂の中に埋めようと砂を掛けようとする。
「ちょっと待て!シュロウ!俺を殺す気なのか?」
「うわぁ!生き返りやがった。嫌だなー、ちょっとしたブラックジョークじゃないですかい?」
「その割にはうわぁとか嫌そうな声を発していたな!」
鼻の穴や口の中に入り込んだ砂を掻き出し、耳に入った砂も抜いていく。ザラザラとした砂漠の砂が穴という穴から抜け出していた。
「ところで落ちてきたのはお前たち二人だけか?上を見た時は三つ分膨らんでいたんだけどな...」
「さぁ?俺たちは暗闇の中にいたんで周りのことは分かりませんね」
「まぁ、正論だなセシン。で、俺たちはさっきの女の子に料理を振る舞うことになったが、一体何を作る?」
「うーん、そうですね。俺たち三人は料理とは無縁ですもんね」
「別に料理じゃなくても良いんじゃ無いんですかい?ここの砂漠なら素材を渡しただけでも良い様な気がしやすけどね」
素材すら乏しい砂漠では食材など外部から持ってきた物しか口にできない。
砂漠に住んでいる者であれば外から持ってきた素材でも十分喜ぶと考えたのだ。
だが、それはあくまでも普通の砂漠に住んでいる者の話。
「でも、あいつはホーネットを食べる牙を持っている。って事は普通の者が食べられないような隠れグルメを食べている可能性がある。そんな子に普通の食材を渡して喜ぶかな?ってか、ホーネットっておいしいんですかね?」
「実はその話については私からお話ししておきたい話がありやす」
今までに無いぐらい真剣な顔つきでシュロウが口を開く。
「話してみてもらえるか?」
」旅の商人から聞いた話なんでやすが、ホーネットの体内では様々な種類の毒が生成されているそうなんです。神経毒から食中毒に近い症状をもたらす毒まで自由自在。でも、そんな毒を保持してるホーネットの体の仕組みがどうなっているか知ってやす?」
「考えたこともないな。生まれつき毒に強い体なんじゃないの?」
「いや、アニキ。そんな生優しい話じゃないですよ!この話!」
「え?」
「セシンは気がつきやしたか」
「何々?俺にも分かるように説明してくれない?」
一人だけわかっていないのに子分二人が納得しているところが解せない。自分だけバカである事は分かっていても、言葉にできないような疎外感があるのだ。
頭の中ではどういう事なのかを整理しようとしてもイマイチ纏まらず、子分にどうしても催促してしまう。
「ホーネットは様々な生き物を襲ってその血液で毒を作り、その毒は自身の身体を蝕む程危険です。だから、それ以上の神経毒で感覚を麻痺させているんです。そんな奴の肉を食べて無事でいられるはずは無い。食べた本人はおっ死んでいて俺たちは、あのリザードマンの女に面白がてらここに捨てられたんじゃ無いですかい?」
「え? 嘘? 助けられたんじゃなくて、俺たちはあの女の死ぬ前の奇行でこ子にいるってわけ? まさか、そんな事はないよな? 無いと信じたいんだが?」
全く予期していなかったシュロウの言葉を聞いて唖然となる。
全く聞くに耐えない話だ。誰も来ない砂漠の地下に幽閉された事と同じであり、ここからどう動けばいいのかなんて想像もできない。
魔物に襲われた時に、死んでおいた方が楽だったのではないかという不吉な考えが3名の間で共有されつつある。
「でも、なんのメリットも無しに俺たちを助けるなんてあり得ないでしょ?ホーネットの毒で死ぬ前に俺たちをからかったって言うなら辻褄が合うような気もする」
「いや、メリットならあるだろ?うまい飯が食えるってメリットが」
「じゃあ、なんで俺達しかここに居ないんでさぁ?俺たちが振る舞う料理が食べたいならいの一番に...」
「はーい、そこまてだ。あんまり女性を詮索しない方がモテるぞ!まぁ、強いて言えば忘れ物を取りに行ってるって事かな?」
グダグダと文句を垂れるシュロウの花を思いっきり摘み、上をみあげると丁度そこからホーネットの頭が突き出してきた。
地上の砂漠から追って来たのかと一瞬身構えもするのだが、それがもう既に死んでいるホーネットだとわかると胸を撫で下ろす。




