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「人外歓迎!異世界宿屋  作者: deke
第二章 リザードマン
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第11話 新たな種族

第11話 新たな種族 


「言い方!そんな訳ないでしょ?1日で顔が変わるなんて...あ、でも脱皮したからかな?」


「脱皮!?」


「そう脱皮。これなんだけど、見てみる?裸がそのまま写し取られてる感じだから恥ずいんだけどね」


 そう言って足元に置いておいた籠から自分の皮を取り出そうとする。


「いや、ちょっと自分の裸をこんなところで出しちゃまずいですよ!他のお客さんもいるし!」


「何で目を隠してるの?そんなにグロく無いよ?」


「ん?」


 互いに話が噛み合わない。すぐさま目を覆っていた手を退ける。


「ギャァァァぁぁぁぁぁぁぁぁあア!」


 これでもかってほど口を開いて叫びを上げる。


 目の前にはムンクの叫びの様な世紀末のでもこんな豊かな表情にならないだろうと言う苦しみに悶える顔がそのまま写し取られていた。


「あんまり見ないで恥ずかしいから...」


「思ってた恥ずかしいって言うのとは方向性が違ったー!」


「雛野何してるの?朝からうるさいよー」


「いや、だって、急に目の前にこれ出されたら誰でも驚かない?」


 シルの手から皮を受け取り、上の階から降りてきた雛菊に見せる。


「シル、またやってるの?」


「またやっちゃった」


「え?何?どう言う事?」


 雛菊とシルが何やら通じ合っている事に不信感を抱き、キョロキョロと二人を見つめ合う。


「またやってるんですかー?」


 台所の奥からゆっくりとした口調でリンが出てくる。


「またってどう言う事?」


「シルさんは炎の扱いが上手いことを悪用して、自分の抜け殻の皮を焼き潰して驚かせるのが好きなんですよ。実際は脱殻も綺麗なんですよ」


 リンが雛野から脱殻を受け取ると淡く緑色の光を発する手をかざす。


 すると、どんどんその殻が元の美しい形になっていく。


「よし、戻りました。抱き枕にします?」


「ちょっと!リン!何そのポーズ!」


「雛野さんを困らせた罪って事で、絶対にしないであろう悩殺ポーズにしてあげました」


 最後の一言を言うリンの顔には笑っているのだが逆に怖く見える表情を浮かべていた。


「さぁ〜、脱皮してあいつも来る事だろうし用意しようかなー」


 セクシーな自分の脱殻を受け取りその場から逃げようとする。


「あいつ?」


「そういえば、雛野は初めてよね?丁度来たみたいだから挨拶して来なさいな」


 雛菊が指を指す先。宿の入り口に繋がる小道を指しているのだが、影は見えない。


 しかし、一直線に空まで伸びる積み重なったパックパックが目に入る。


 しかも、それは塔のように聳え立っており徐々にそれが近づいて来ていたのだ。



 風と共に砂嵐が吹き荒れ地面を静かに抉り

取っては姿を変える砂漠に小さな3つの外套のフードを被った一団がいた。


「この砂嵐普通じゃない!引き返すか?」


「引き返すって言ったってこの荷物じゃ上手く動けない。積荷を全て捨てよう!」


 背中には巨大なパックパックが背負われ踏み出す足は一歩進むごとに砂に足がめり込んでいた。


「馬鹿野郎!危険を犯して手に入れた物だぞ!おいそれと捨てるわけにはいかないだろ?」


 一番背の高い無精髭を生やした中年の男性が口を酸っぱくして二人を叱責する。


「だけど、アニキ!砂人の案内もなしにこれ以上進むのは無理ですぜ?」


「根性でどうにかするんだよ!それに、盗賊を名乗る以上砂人の案内を付けることはできない。進むぞ!荷物を貸せ!」


 アニキ格の男が二人分の荷物を勢いよく背負い、どんどんと砂嵐の中を突き進む。


「確かこの先にオアシスが有りました。そこで休みませんか?」


「良い判断だ!腹も減った。飯もそこで食べよう」


 そんな事を話す余裕はまだこの時点ではあった。


「二人が前を歩いてくれ。この砂嵐で荷物を背負いながら目的地に着くのは俺たちの体格じゃ難しい」


「「分かりました!」」


 自ら進んで前に二人が出る。


 前の二人はコンパスを見ながら道を進んでいく。


 ハァハァハァハァハァハァ!


 3人とも小さな体を動かし、満身創痍で一歩間違えれば皆命を落とす。


「お前らホーネットに気を付けろよ。親指程のデカさだが、奴らに刺されたら体が動かなくなるからな」


「はい!」


 二人は正面をぼんやりと見つめながら歩き続け、アニキ格の男は地面を見つめてどんどんと先に進んでいく。


「ん?どうした?着いたのか?」


 不意に前を歩いていた二人の動きが止まり辺りを見回す。


 しかし、そこには一面砂漠しか広がっていない。


「おい!これはどう言う事だ!?砂しかねーぞ!」


 二人の肩を掴み振り返させる。


 すると二人の腹には腕と同じぐらい太い針が正面から刺さっていた。


「にげ...てくだ...さい..」


「は...やく...」


 そう言ったのを最後に二人は足に絡まっていた甲殻に包まれた尻尾に引っ張られて砂嵐の中に消えていく。


 二人の足は砂の中に埋れていて尻尾の発見が遅れた。


 二人が歩いた後は足跡ではなく脚が引き摺られたような電車道が残っていた。


「何がどうなってる!?ホーネットか?嫌でも...あのバカデカすぎる尻尾は?」


 色々を思惑を巡らせていると二人が消えた方向から石混じりの粉塵が飛んでぐる。


 バックパックを投げ捨て身を屈めてそれを交わす。


 それでは飽き足らず、風邪の合間を縫うように二人の腹に刺さった針と同じぐらい太い物が飛んで来る。


「何だ?一体どうなってる?」


 不平を溢しながら背中に携えていた太刀を振り回して全てを叩き落とすのだが、そこで一つの違和感に気がつく。


 何も無いはずの砂嵐の中から見られている様な気がするのだ。


「暗視スキル」


 そう短く呟くと視界に補正がかかり砂嵐の中でも物がはっきり見える。


 そこに映ったのは眼を疑うような光景だった。


 全長数十メートルは余裕でありそうな大蠍の尻尾が無数に枝分かれし、毒で体の自由を奪われた二人を縛り上げる。


 腹部からは血が滲み出し茶色っぽい外套を赤く染める。


 それだけであればどんなに良かったものか。


 先程親指程の大きさしかないと言った筈のホーネットが優に3メートルは越す巨大で蠍の周りを飛び回っているのだから悪夢としか形容できない。

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