安定ばかりじゃ儲からない
ゴブリンからの逃走より一週間、言語が通じ無いなんて事もなく普通に街に入って宿で生活をする。女神様から貰った路銀は10万ゼニ。まぁ、日本円とほぼ同価値なので十万円程。この一週間で知識も定着して頭の中が混雑する事も無くなった。そしてなんと、触ったことの無かった剣を試しに振ってみると案外しっかり振れた。人間離れした物ではないが軸がぶれたりする事も無く振り切れば風切音も聞こえる。これもサービスだろうか?そんな事を考えながら冒険者ギルドへ向かう。そして俺は安定とはかけ離れてはいるが冒険者に就職した。剣を振れることを知ったのも実はここの実技試験の時である。
「おはようございます、この前受けていた薬草の納品に来ました」
「あぁ、ハヤテさんおはようございます。そしたら確認しますので少しお待ち下さいね」
袋詰めされた薬草を一つ一つ確かめながらメモをサラサラととっていく。今回持ち込んだ23房の薬草を確認し終えるとそれらをトレーにメモと一緒に載せて脇へ寄せる。
「お待たせしました。マダラ草23房確認しました。こちら6900ゼニになります。よろしいですか?」
「はい。ありがとうございます」
お金を受け取りそのまま依頼の貼り出された掲示板を見る。正直マダラ草23房集めるのに3日掛かった。次はもう少し手早く出来るだろうが日給で2300ゼニじゃ宿代すら払えない。
「ふむ、魔物狩り以外で見るとこの辺りが高いか……。どれも聞いたことの無い物の採取とかだし下調べからするには時間が掛かる」
リスクとリターンそして半分程になったお金の事を考え長らく頭を悩ませる。
「いっその事こと魔物の討伐依頼でも受けるか?戦闘経験は無いけどゴブリン位なら大丈夫って試験の時言われたし…。でも一匹あたり1200ゼニって高いの?安いの?」
独り言をぶつぶつ言いながら掲示板の周りをウロウロする。悩んだ末ゴブリンの間引き依頼を受ける事に決めたのだった。
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初めてここに来た時身につけていた革のジャケットを身に纏い剣を腰から吊す。万が一の為買ってきた逃走用の匂い袋を反対側の腰に引っ掛け森に出る。
マダラ草などの薬草を採りに外に出た事はあったが森の中まではあまり入った事がない為少し緊張する。
「ま、いざとなったらダッシュで逃げればいいし気楽に行くか」
剣を両手で握りながら不安な気持ちを押し除けて自分に言いかけるように呟く。
気配を感じとる事なんて出来ないが出来るだけ後ろを気にかけて森の中を進む。
「いた!武器は持って無さそうだけど二匹か。初めては一対一でやりたいけど……駄目なら逃げれば良いか」
剣を強く握り二匹のゴブリンを見据える。2度大きく深呼吸をして一気に駆け出す。突然の奇襲であった為か咄嗟に交わす事も出来ず肩から袈裟懸けに切り裂かれる。しかし見た目よりダメージは少ないようでふらつきながらもゴブリンは倒れる事は無い。
さらに切り裂かれたゴブリンを守るようにもう一匹が前に出る。
「二匹同時に捌けるはずも無いし、取り敢えず各個撃破が基本だよな?」
二匹のゴブリンを大きく回り込むように駆け抜け負傷したゴブリンにさらに斬りかかる。先程より大きく踏み込めた為か確かな手応えを感じる。素早く距離を取り再び剣を構え直す。先程の一撃の為か一匹は倒れておりもう一匹はこちらに飛び掛かってきた。
「うお!やっぱり怖いわ。怖いけどどうにかなるな」
飛び掛かるゴブリンを横に避け着地したところを頭目掛けて剣を振り下ろす。確かな手応えと崩れ落ちるゴブリンに安堵のため息を漏らす。
「ふぅ……。案外動けるもんだな。取り敢えず右耳そぎ落とさなきゃ」
たった今切り殺したゴブリンの討伐証明部位である右耳を切り取る。
「これで2,400ゼニか命の危険がある分効率は良いけど心臓に悪いな。少人数の塊を奇襲すれば割となんとかなりそうだし、もう少し頑張ってみるか」
二つの右耳を皮袋に入れて、いつでも匂い袋を投げられるよう心構えを持ち、ゴブリンを探しに再び歩き始めるのだった。