夢の中から異世界へ
目覚めたら森にいた。何を言っているか分からないだろうし、俺自身分かりたくもない。服は簡素なものの上にレザーのジャケットを羽織っている。ジャケットと言ってもオシャレな感じでは無くどちらかというとRPGなんかで出てくる防具の様な感じである。しかし、それ以上に異質なのは腰にぶら下がっている一振りの剣であり、遠目にチラチラと見える子鬼である。剣は確かな重みを持ち少なくともプラスチックや木製のオモチャなんかじゃ無いし子鬼も特殊メイクの様な感じもしない。その事が十全に先程の事が夢ではなく現実であると知らしめていた。
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「いきなりの事で済まないが少年よ、お主には別の世界へ行って貰う」
「へ?」
気がついたら一面真っ白な空間に俺は浮いていた。そしてRPGの導入みたいな事を女神様的な人から言われた。ゲームとかは良くやるけど実際体験したいとは思って居なかったが、案外自分でも気付いていなかったが俺には変身願望なんかがあったりするのだろうか?
「別の世界?に行くのは良いけど何しに行けばいいんですか?」
「特にこれと言ってする必要は無い。あの世界に一石を投じる必要があったから、お主があちらで過ごすだけで良い。何をするも好きにすると良い」
「魔王を倒すとかはしなくていいんですか?」
「倒す倒さぬ以前にお主の考える様な魔王はおらん。魔物はおるから倒したいのならそちらだな」
「ふぅん魔物は居るんだ。って事は魔法とか剣とかそんな物もあるんですか?」
魔法の存在を考えると僅かながらに興奮してしまうのは俺が厨二病なのでは無く極々一般的な反応だと思う。やはり空を飛んだり火の玉を出したりとかはしてみたい。
「剣はあるが、魔法はない。しかし全員何かしら特殊な力を宿しておる。空を飛んだり水を出したりする事も出来るが魔法とは違う。もちろんあちらへ行けばお主も何かしら特殊な力に目覚める」
「特殊な力ねぇ。どうせなら炎を飛ばしたりとか雷を落としたりとか派手なのがいいですね」
「残念ながら力の根源はその者の魂に依る所が大きい故私には選ぶ事はできぬ」
「そうですか。まぁなんでも良いですよ。多分」
そろそろ飽きてきたためか少し投げやりに答える。女神様的な人頷き少し間を置いて再び口を開いた。
「ではそろそろお主をあちら側に送る。多少の路銀と武器は持たせるが、どこかで職を見つける事をオススメする」
「就活か……夢の中でも就活しろと言われるのか」
最後の言葉に項垂れるとふと眠気が来て気がつけば意識は暗転していた。
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「夢なら良かったのになぁ、剣はあるけど振った事ないし、と言うか触った事も無いし。これであれに勝てるのか?武器は無さそうだけど……。とりあえず逃げて襲って来たら応戦かな?」
子鬼よく言うゴブリンから視線を逸らさない様後退りながら距離をとる。街まではそこまで距離は無い。走って10分程だから逃げに徹すれば問題ない。そこまで考えてふと首を傾げる。
「なんで俺この辺の地理知ってんだ?いや、なんかぼやぼや〜といろんな事が分かるな。サービスかな?とりあえず感謝しとこ」
あるはずの無い知識を先程の夢の女神様のサービスと解釈して考えを切り替える。相手の様子を伺いながら隙を見て反転し知識に従い街のある方へ走った。
「あー、そうそう。そうだわ。俺は早く動ける特殊な力だったわ。地味過ぎね?」
走りながら予想以上のスピードに戸惑いながら自分の力をごった返す頭の中から見つけ出す。早く動けるだけって……と思いつつも逃げる事に関しては非常に有用であったのは言うまでもなく、追いつかれる事もなく無事街に到着したのだった。「」