能力
カンカンカンカン…
ヒールを折った女の足音が響く。
ザッザッザッザッ…
その横で無機質なコンクリートの上を歩く俺の足音が響いた。
…バーン………
1度の銃声が鳴り響いた。
俺は咄嗟に女に伏せるように女の頭を下に押す。
女はサッと俺の指示に従った。
辺りを見回すも人の気配はない。
遠方からキラリと光るものが一瞬見えた。
ヤバい…
俺はしゃがみながら銃をかまえる。
そして光った方向に1発打ち込んだ。
…ダーン…
キラリと光ったものに当たったかは定かではない。
異様な静寂が辺りを飲み込む。
女は俺に赤い小瓶を1つ差し出した。
最悪の事態を予想したのだろう。
俺はそれを受け取り、ジーンズのポケットに入れた。
その瞬間だった。
ダダダダダダダ…
足元に銃弾がカツンカツンと飛んでくる。
とっさに俺は女をくわえて目立たない路地にはいり、女を下ろした。
誰かが俺たちを殺す目的ではなく、近づけないようにさせているらしい。
狙っているならば既に当たっているはずだ。
俺は路地の隙間から辺りを見回しながら、耳を立てる。
カサッ…
ここからそう遠くはないところからの何かが動く音がした。
俺は即座に路地から離れて女に待っているように手の平を女の方に向けて指示をする。
路地から出て辺りを1周見回す。
斜めの方向から一瞬だけ白い服が見えた。
あそこだ!
俺は銃をかまえながら服が見えた方に歩いていく。
そこにいたのは女と同じ白衣のような服を着た人間だった。
人間は銃をかまえ、こちらに向けている。
俺も銃をかまえつつ、人間の方へ距離をつめていく。
この狭い道では背後に回り込むのは難しいだろう。
このまま距離を詰めていこう。
そう思った時に女の悲鳴が聞こえた。
女「ギャーーー」
俺はこれが罠だった事に気が付き、即座に銃を1発人間に放って女の元に向かった。
後ろでドサリと倒れる音がした。
そこには既に女はいなかった。
残されたのは血痕だけ。
ほんの一瞬だったはずだ。
まだ遠くへは行っていないだろう。
俺は残された血痕の匂いを辿って走った。
ザッザッザッザッザッザッザッザッ…
匂いが強くなってきた。
このままいけば直ぐに見つかるだろう。
路地が拓けて公園のような場所に出た。
小さな森があるような公園で、その奥から女の血の匂いがする。
俺は小さな森を駆けていく。
そして、見つけた…
女は肩の辺りから胸にかけて血を流し、木にぶら下がっていた。
呼吸は浅いが生きているようだ。
傷はどうやら銃などではなく、何かの爪か、鋭いナイスのようなもので切られたようだった。
俺は警戒しながら女の方に近づいていく。
浅い呼吸をしながらも俺に気づいた女は目を見開く。
そして、微かな声でこう言った。
女「うしろ」
俺は後ろを警戒していたはずだ。
後ろに何かあるわけが無い。
そう感じながらも振り返ると空中から俺の背後に何者かの爪が刺さろうとしていた。
俺はとっさに避けて銃を打つ。
…ダーン…
ヒュンッと風を切る音がして上を見上げた。
それはあの時の鳥のような人間だった。
1匹取り逃がしたやつが報復にきたか。
俺はそいつに向かって銃を2発打つ。
…ダンッダンッ…
バサリ…
羽を打たれた鳥のような人間が地面に落下した。
だが、鳥のような人間は笑っていた。
鳥「ククククッハマったな。」
俺はイラ立ちを隠せず鳥のような人間の羽をバキッと折る。
鳥のような人間は顔をしかめながらもこう言った。
鳥「お前たちはもう包囲されてるさ。あばよ。」
俺は辺りを見回した。
そしてすぐ女を木から下ろす。
すると、ガサガサガサガサ…
騒々しく何かがこちらへ近づいてくる。
見た目こそは小さいが、俺たちをぐるりと1周複数のねずみのような生き物が囲んだ。
そして俺たちにいっせいに飛びかかってきた。
ダンッダンッダンッダンッ
銃で応戦するがキリがない。
ナイフを左手に、銃を右手に持ってランダムに飛びかかってくるねずみたちを始末していく。
俺の腕に1匹のねずみが噛み付いた。
その瞬間、身体が熱くなり、妙な寒気がして来た。
これは、、、きっと毒だ。
俺は瞬時に腕のねずみを引き離して投げつける。
女が何やらポケットをゴソゴソしている。
そして俺に一言。
女「私が瓶を投げたら走って。」
俺がうなずくと、女は青い瓶をカチッとあけ、1口だけ飲んだ後にライターで火をつけて放り投げた。
俺は女をくわえて走る。
よくわからないが、引火性の強いものを爆弾代わりに使ったのだろう。
ねずみたちは丸焦げだ。
俺は少し離れたところで女の様子を見る。
すると全身を真っ赤にした女の傷は既にふさがり、治りかけていた。
あんなもん飲んでるんだな…
俺はふと冷静になって尋ねた。
「あの液体の中身はなんなんだ?」
女は何事も無かったかのように俺につぶやくようにいった。
女「あれは私だけが飲めるアルコール度数のすごく高い酒。
ようは中から内蔵傷つけて無理矢理治癒能力を高めるんだ。」
俺は妙に納得した。女が赤くなるのは一気にアルコールを全身に回して毒素を分解する過程で内蔵に負荷をかけているためだったのか。
公園の中で辺りを見回しながら警戒する。
そんな時にドクンッ…
身体が波打つような感覚に襲われた。
さっき毒を回されたのを忘れていた。
俺はガクッと膝を折る。
女は俺の変化に気づいたようで、俺に問う。
女「どうしたの?」
俺はグルグルとめまいのする中で答える。
「さっきのねずみに腕を噛まれた」
女は察したようでネズミの噛み跡を探す。
そして、注射器で自分の血液を抜き取り…俺に刺した。
全身鳥肌が立つ。
注射器の針が入る瞬間に暴れたくてもめまいが酷くて暴れられない。
自分の血液を注入し終えた女はこう言った。
女「嫌だろうけどちょっと我慢して。私の血液はどんなものにも負けない。」
俺は黙ってうなずくことしか出来なかった。
そして、五分くらい経っただろうか。
目眩がやわらいで視界がハッキリしてきた。
どうやら毒の効力が治まったようだ。
俺は辺りを警戒しながら、公園の様子を見る。
女は俺の顔色を見て安心したのか、スクッと立ち上がる。
そして俺にこう言った。
女「助けてくれて、ありがとう。少しは良くなった?」
俺は短く女に答える。
「あぁ。さ、行くぞ。」
俺と女は警戒しながらも公園から出られるように少しずつ進むことにした。