始まり
「せんぱーい!わたし、今とっても暇なんですけど〜」
きいは机に突っ伏しながら、こちらをずっと見続ける。俺は今ちょうど書いていたミステリーの今まさに佳境に入ろうかというところで、手を止めてきいの方を向く。
「…お前なぁ、何度も言ってるけど、暇ならこの部活やめて友達と遊んだり、バイトとかすればいいじゃん」
「・・・そ、それはなんとなく違うんですよね〜。
……あ、そうだ!せんぱいだって、わたしという美少女が側にいた方がうれしいんじゃないですかぁ?」
すぐに話を逸らそうとしてくるな。
確かにかわいいから、前あったようにそういう気持ちに全くならないわけではないけど、基本的には仲のいい友達という感覚が強い。
「美少女って自分で言うな自分で!」
「えー!でもわたし結構モテるんですよ?そんな子が一緒に居たいって言ってるのに、せんぱいはなんで適当な態度ばっかとるんですか!バチあたりですよ!」
「…あーもうわかったから。とりあえず今日進めようと思ってる分終わったら相手してやるから待っててくれ」
「はーい!」
きいの満面の笑みに俺は思わず笑ってしまった。
俺と一緒にいてそんなに楽しいのかな?
もっとイケメンとかと一緒に遊んでたほうがよっぽど楽しそうなもんだけど。
そんなことを思いながらもう一度ペンを握りしめる。
外からはカキーンという音やカラスの鳴き声が聞こえてきて、校舎からはボールの弾むような音や誰かが廊下を歩く音などが聞こえてくる。
それらの音がちょうど良く混ざり合って俺を心地よくしてくれる。
よくカフェとかだと、周りから聞こえてくる騒音が思考力をあげるとかいわれているやつだろう。
俺も筆が乗ってくる。
気がつくと俺は今日の予定よりも少々オーバー気味に書いていた。
そのせいか、すっかり日も落ちている。
これで終わりにするかと思い、立ち上がってずっと座っていたせいで固まった体をほぐす。
「お!せんぱい終わったんですね!」
「ああ、今日はよく進んだよ。もう時間だし帰らないか?」
それに対し、きいが眉をひそめる。
「なんですぐ帰ろうとするんですか!終わったらわたしの相手をする約束忘れました?」
(なんのなめにわたしが待ったと思ってるんだか!
わたしがせんぱいとい、イチャイチャするためなのに//…
そ、それを全くわからないなんて、なんて鈍いんですかこの人は。………あーなんでこの人のこと好きになっちゃったんだろう///!!)
「だってもうこんな時間だし…」
「そ、それでも・・」
突然部屋の扉が開く。
俺ときいはびっくりしてそちらへ振り返る。
すると、そこにはなぜか普段絶対に来ないであろうひまりがいた。
「と、とおるくん・・いっしょに帰ろう?」
「なんでひまりがここにいるんだ?いつもならもう家にいる時間だろ?」
「……委員会が長引いたから」
そういえば今日は委員会の集まりがあるとかいってたっけ?もしかしたらこれは説得するいいチャンスかもしれない。
「ひまりもこう言ってるし、帰らないか?きい」
全く納得してないどころか、ひまりが来てから余計に険しい表情になってる。
うーん、どうすればいいのか。
「…わたしとは何もしてくれないくせに、ひまり先輩とは一緒に帰るんですね。…………ずるいです……………彼女じゃないってやっぱり……………」
最後の方なんて言ったかよく聞こえなかったな。
「別にきいといるのが嫌とかじゃなくて、今日は一旦帰らないか?ってことだ」
「え〜、そんなぁ…」
きいを説得するのに気をとられていると、ツンツンと俺の服の袖が引っ張られる。
その先には、ひまりが不安そうにじっと俺を見つめていた。
「…う、浮気はだめ……」
「浮気ってお前、、、うわ!」
ひまりは俺の腕に抱きついてきた。
「あ!な、なななにしてるんですか!う、うらや・・・じゃなかった。よくないですよ、抱きつくなんて…」
きいは、ひまりに対してそう言うと、目でバチバチと音が鳴ってそうなくらいに睨み合っていた。
やっぱりこの二人相性がよくないんだろうと心の中で確信した。
「せんぱ〜い!ひまり先輩がいいなら、わたしだってだ、抱きついてもいいですよね?///…」
もう今日は疲れてるから早く帰りたい…という俺の気持ちとは裏腹に、どんどん面倒くさいことになっていく。もう早く帰れればなんでもいいや!と俺はやけくそになりきいの申し出を承諾した。
ひまりが、え?という顔をする。
「ま、まじすか?!………え、えーい!!」
空いているもう片方の腕にきいが掴まる。
(えへへ///…いい匂い…)
結果的には両腕を塞がれてしまう形になりながら、学校を出ることになってしまった。
まだ他の生徒が残っていたので、これを見られたら美少女二人をはべらせやがって!とか思われてしまいそうだなーと少し心配したりもした。
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