第34話
体育祭当日となった。
校長先生のありがたくも長い開会のあいさつの後、体育祭実行委員長、生徒会長の言葉を頂くことになる。
皆、事前に用意しておいた着飾ったこの場にふさわしい言葉とともにそれらの挨拶を終えると、いよいよ早速体育祭が始まった。
今日は普段と違って全生徒が体操着に身を包んでいる。
中々、こういった日はないだろう。
体育の授業は二クラス合同で行われるのだが、逆に言えば、その二クラス以外の体操着姿をお目にかかれることはめったにないのだ。
そのためか、一部の生徒たちは普段見られない姿の異性を見て、どこか興奮した様子であった。
ジャージ姿、というのは一部の人には刺さるフェチなようだ。
そんなことを冷静に分析していたときだった。
100メートル走に参加するメンバーが集められた。
各クラスから4名程度がこの競技に参加するため、結構な人数となる。
といっても、100メートル走は事前に
一度に走る人数は6人だ。一直線の100メートルをいかに走りきるか、ということだ。
走ったあとに、足元の砂を整えるということはないため、走るレーンによっては結構足場の状況が悪い場所もある。
俺が走る予定のレーンは……ひとまず大丈夫そうだな。
クラスメートたちはやる気に溢れているからな。
今だって、競技に参加しない生徒たちが応援に駆け付けている。
というわけで、なんとしても最下位は阻止しなければならなかった。
……恥ずかしい姿は絶対に見せられないな。
次で、俺の番か。ちらと、隣を走る人たちを見てみる。
どうなんだろうな? それなりに運動はできそうだが。
周囲の分析をしつつ、俺は自分が来るまでの間時間を潰していた。
その時だった。声が聞こえた。
「おい……次走る奴ら運動部のエースたちばっかりじゃねぇか!」
……そうなんだな?
それならまあ、負けてしまっても文句はでないだろう。
「一真、頼むぞ! 一位とれよー!」
「おまえが一位とらなかったら誰がとるんだ! 頼んだぞ!」
「お願いよ、一真くーん!」
……えぇ。
さすがにここで一位を狙えというのは残酷ではないか?
周り運動部のエースたちなんだろ? そんな奴ら相手に勝てって。
……ただ、陸上部はいないようだった。
走るだけ、あるいはスタートダッシュだけなら、俺のほうが勝っている部分もあるだろう。
俺の番になった。
軽く深呼吸をしながら、スターターをちらと見ながら、俺は自分の体を落ち着け――。
ピストルの音が響いた瞬間、大地を蹴った。
……久しぶりだな。こういう場所で走るのは。
周囲の怒号のような応援の声をかきわけるように、足と手を動かす。
風が心地良い。走る人にとって、前を誰も走っていないという、それが一番の喜びだ。
そのまま俺はゴールテープに体が触れる。
小さく息を吐きながら、背後を見ると、何歩か遅れて皆がゴールしていた。
……結構ぎりぎり、だったな。
走り終えたあと、それまで感じなかった疲労が一気に襲ってくる。
軽く額をぬぐっていたときだった。歓声がいくつも聞こえてくる中、俺はクラスメートたちがいる方へと歩いていく。
その時だった。脇から一人の少女がやってきた。
俺の進行を妨げるようにして立ちふさがったのは喜多だ。
普段通りの綺麗な顔とともに、彼女は少し恥ずかしそうに頬を赤らめ、微笑んだ。
「先輩、一位おめでとうございます」
喜多がニコニコと微笑みながらやってきた。タオルを差し出してくる。
ちょっとだけ、彼女の笑顔が怖かった。
そう思いながらも、俺は彼女のタオルを受け取った。……喜多の香りだろうか? 慣れない香りが鼻をくすぐる。
「ありがとな。次は女子の番だろ? 頑張れよ?」
「はい、もちろんです」
……まあ、喜多もここ一週間でかなり仕上げたみたいだからな。
相手次第だろうが、負けることは少ないんじゃないだろうか?
クラスメートたちがいたところにいると、男子たちにもみくちゃにされた。
「一真! おまえ、本当に走るのはえな! びっくりしたぞ!」
「おまけに、周りの奴ら運動部だぞ!? あそこでまさか勝てるだなんて思ってなかったぞ!」
「たまたま、スタートダッシュがうまくいっただけだ」
……実際、あそこで走ったメンバーの走力にほとんど差はないようだったからな。
だからこそ、スタートダッシュから逃げきれた俺の陸上部としての経験が活きた結果だった。
「凄いなぁ……一真くん」
「けど、さっき後輩の子にもタオル渡されてたよね?」
「やっぱり人気だなぁ……」
女子たちの良く分からない評価に、苦笑する。
……人気、とは違うだろうな。
喜多の場合は、明確な考えがあって俺に接してきている。
そんなことを考えていると、次は女性の100メートル走になった。
喜多の番はすぐに回ってきた。
彼女を応援する声はいくつもあり、どこか本気の試合に臨むような顔つきだった。
そうして、スターターのピストルが鳴り響き、喜多が走り出す。
ぐんぐんと加速していく。誰よりも早く、そして美しく駆け抜けた彼女はあっさりと一位をとってみせた。
嬉しそうに笑った喜多の笑顔がこちらに向いた。俺も苦笑を返しておいた。
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