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第3話


 学校に行く仕度をしようとして、鏡を見る。

 ……そういえば、昔から陽菜に余計なことはしないように、といわれていたな。

 俺が一度だけ、学校の友人と美容室に行ったとき滅茶苦茶キレられたんだよな。


 『一真は美容室とか行ったらだめよ! そのまま伸ばしていればいいのよ! 顔が見えないくらいにしなさい!』、とかなんとか言っていたな。

 ……まあ、最低限には切っていたが、手入れなどはまったくしていなかった。


 中学の頃に友人と一緒に購入したワックスがあった。

 ……陽菜への反抗という意味も込めて、久しぶりに整えるか。

 中学の時はトイレで友人と一緒に弄っていたものだ。


 軽く整えたあと、俺は部屋を出た。

 俺の部屋は二階にある。一階に下りると、リビングから朝食の良い香りが届いていた。

 リビングに行くが、陽菜の姿はない。


 普段、陽菜はうちで朝食を食べていく。だが、さすがにあれだけ冷たくあしらわれたのだがら、ここで食事をするというのも気まずいだろう。

 

 リビングでは、母さんがいた。席に座っていた母さんは、どうにも険しい表情だった。


「……ちょっと! あなた、陽菜ちゃんに何かしたの!?」

「……何かって、なんだ?」

「朝食食べずに、帰っちゃったわよ!? 何かしたんでしょ!?」

「あー、まあ、そうだな」


 俺は小さく息を吐き、それからリビングに向かう。

 母さんが近づいてきたので、俺は席に座り、トーストを口に運びながら答える。


「俺たちはただの幼馴染だ。それを伝えただけだ」


 俺と陽菜の間には、それ以上の関係はない。

 ただ、母は不満そうだったようだ。


「……あんたねぇ。前にも言ったでしょ? 陽菜ちゃんには優しくしてあげてって」

「もういい加減いいだろ?」


 母さんにそう返しながら、俺は朝食を食べていく。

 母さんが強い目で睨んでくる。

 ……母さんがこう言うのには理由がある。


 陽菜は小学一年生のときに父親を亡くしている。

 だから、周りの大人たちは陽菜と一番仲が良かった俺に対してこういうのだ。


 『可哀想だから、優しくしてあげてね』。

 大人の言葉は絶対なんだと思っていた幼い頃の俺は、その言葉を信じていた。

 だから、陽菜のどんなわがままにも付き合ってきた。


 ……仮に、怪我するようなことをさせられても……俺は陽菜は可哀想だから、優しくしてやらないといけないんだと思っていた。

 

 だが、もういいだろう。あれから何年経ったと思っているんだ。

 俺は陽菜のせいで、周りから変な誤解をされる。


 友達はいないと思われたり、陽菜と付き合っているとか……。

 そういうのがもううんざりだった。

 陽菜の親もそうだが、俺の両親も陽菜に対して甘すぎる。


「もう……陽菜ちゃんを泣かせるようなら、ごはん作らないからね」

「それなら、自分で作るから別にいいし」

「……はぁ、まったく」


 母さんは呆れたようにため息をついた。

 母さんは一時的なものだと思っているようで、それ以上は言ってこなかった。


 ああ、そう思ってくれていればいい。

 その間に、俺と陽菜の関係が終わるだけだ。

 朝食を食べた俺は、そのまますぐに学校へと向かう。


 家を出た時だった。スマホが震えた。

 ……友人だろうか? そう思ったが、違った。

 スマホに表示されたのは、有坂ありさか利理りりだ。


 陽菜の母親である。

 ……まさかの相手だった。陽菜の母はそこそこの規模の会社の社長であり、いつも忙しいそうだ。

 そんな彼女から、朝一に電話がかかってくるなんて……異常だ。


 陽菜が、利理さんに何か言ったのかもしれない。

 この際、はっきりと言ってやろうか。

 俺はスマホの通話を押した。


「もしもし」

『あっ、よかった繋がって。覚えているかしら?』

「ええ、覚えていますよ。何かあったんですか?」

『さっき、陽菜から電話が来てね……』

「俺とのことでも話したんですか?」

『やっぱり、何かあったの? 陽菜は何も言わずに、ただ、ちょっと声が聞きたかったとだけ電話してきたんだけど……』

「……ええ、まあ」


 なるほどな。陽菜のやつ、親には黙っていたらしいな。


「俺は、陽菜と幼馴染以外の関係を断ったんです」

『……どういうこと?』


 そう問いかけてくるのは分かっていた。

 だから、俺は用意していた言葉を利理さんにぶつけた。




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