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後編

こちらは冷酷な女帝と彼女に敗れた心優しい国王の話。


カツ、カツ、カツ…


地下へ続く階段を私は侍女を連れて歩いている。


目的は唯一つ。


地下牢にいる彼に会う為だ。




我が帝国が攻め滅ぼした国の王だった者。


数日前に姉姫が目を覚ましたと弟から聞いている。


因みにこっそり様子を伺いに行ったのだけれど、タイミング悪く彼女は寝ていた。



ベッドの傍らの椅子に腰掛けている弟が扉に背を向けて座っていた。背中から花が飛び出さんばかりの幸せオーラを出していたわ。めっちゃ引いた。





地下牢の一番奥、王族や高位の貴族なんかを捕らえている部屋。


その扉をノックすると「はい」、と男性にしては少し高めの声が聞こえた。


ゆっくりとその扉を開けると、部屋の中央にある椅子に座っている黒髪の男性。


…少年、といった方がしっくり来る、若い彼。

その頬は少し痩けている。

看守からあまり食事を摂っていないと聞いていたけれど…。


その緑の瞳にはまだ生気が溢れていた。


「これは、皇帝自らどうされたのですか?…ああ、私の処刑の日が決まったのですか?」

言葉だけを切り取れば自暴自棄な発言に受け取られるが、目の前の彼の表情は優しく穏やかだった。


否定の言葉を紡ぐよりも早く彼は

「最期に、姉がどうなったのかを知りたかったですが…」

と、言って目を伏せる。その頬を一筋の涙が零れ落ちる。





ゴッ!!!!



「?!」


「失礼、気にしないで頂戴」


「え、で、でも今壁に勢いよく頭突きしましたよね?!」

「錯覚よ」

私は困惑する彼に素早くそう切り返す。

すると彼はそれ以上追求はしなかった。

因みに後ろに控えている侍女は微動だにしない。慣れているので。


私は平静を保ちながら彼に向き直る。

「貴方の姉姫は無事です。ただ傷が深いのでまだ起き上がることはできませんが」

そう告げると彼はジッと私を見つめる。



…グッ…!我慢よ、私!


「本当に…?」


「私、嘘は嫌いだわ。それに、貴方も処刑なんてしません」

すると彼は大きな瞳をこれでもかと見開く。そして先程よりも涙を流す。


「良かった…!いえ、私の事ではなく、姉様が、無事で…っ!ありがとうございます、姉様を助けてくれて!」


泣きながらこちらに笑顔を向けた彼に。私は表情を崩さず頷く。









ああああああああああああっ!!限界!無理!





がわいい((可愛い))ぃぃぃぃっ!!


何なの何なの!?何であんなに可愛いのよ!?

あんなに涙の綺麗な男の人見たことない!

さっきのはらはらと儚く泣く姿も最高だけど今の涙に濡れた笑顔も堪らないわっ!!

ああだけど男の人の泣く姿に興奮するなんて私ったら加虐趣味があるのかしら?



「あ、あの本当にどこか強く打ってはいませんか?」

涙を拭きながら躊躇いがちにそう彼が尋ねる。

あ、今の片目を瞑るの控えめに言って至高の域。

「大丈夫だと言っているわ」

「でも鼻から血が…」





…………何てこと。

すかさず侍女がハンカチを私の鼻に当てる。ありがとう。


……貴方の姿に萌えて興奮して鼻血が出ました。なんて言えない。

彼は先程萌えを抑える為に壁に強打した私の事を心配してくれているのに。


「話を元に戻すわ。私は貴方の国を滅ぼしたけれど、貴方方の命を奪うつもりはないわ。このまま死にたい、と言うなら別ですが」


「………我が国の民はどうなりますか…?」

「我が帝国の民として等しく扱うわ。現に貴方方が生きていると報じたら、皆こちらに従順の意を示したわ」

但し両御方を自由の身にする事。あと色々と条件を付けられたけどこちらに不利益ではなかったから了承した。


……ホッとした表情をしないで頂戴。

元はといえばこちらの……、いえ、これは正式な場で落ち着いたら言いましょう。今はまだどちらも内情は複雑ですし。


「今より貴方は自由の身です。どこで生きるも自由。…ああ、でも暫くは姉姫様の側にいてあげてください。



…それで時折……」



私とお茶を……。



そう告げようと震える手を握りしめて………



その手に大きな手が重なる。


見た目よりも骨ばった男の人、の。




「陛下、ありがとうございます」


彼は穏やかで優しい表情で私に御礼を言った。





好!き!



また鼻血が出そうになるので私は彼から顔を背けた。


「御礼を言われるような事ではないわ。……話は以上よ。失礼するわ」


お茶に誘えなかったけれど、これ以上居たら鼻血どころじゃ済まないわ。


私が退出しようと彼に背を向ける。


「あ!陛下、最後に一つだけ!」

「え?」




振り返ろうとした私の横に彼の腕が伸びてきたかと思うと壁と彼の間に私は挟まれていた。




彼は片方の手で私の顎を軽く上に向ける。





「次に会う時は、ちゃんと()を口説き落としてくださいね?可愛いひと」



そう言ってクスリと妖艶に笑うこの人は、だ、れ……



















「うわっ!どうしたんだアンタら!…って陛下!?なんで顔面血塗れなのに笑顔で失神してる?!侍女のアンタも腰砕けてるじゃないか!!地下で一体何が…」

「………う…」

「へっ?」

「被弾した…。羊の皮を被った狼系男子、最高……がふっ」

「って親指立てて気絶したあぁ〜〜?!」

読んでいただきありがとうございました!

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