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悪質な歯医者に気を付けて

 子供の頃、僕は歯医者が嫌いだった。

 そう言ったなら「普通、子供は歯医者が嫌いなもんだろ」と、そうツッコミを入れられそうだけど、それはそういうのともまたちょっと違った話なんだ。

 僕は虫歯の治療が嫌で歯医者を嫌っていた訳じゃない(まぁ、それも嫌だったけど)。僕は通っていたその歯医者のにやけたような妙な表情が嫌いだったんだ。だから、正しくは“特定の歯医者が嫌いだった”というべきかもしれない。

 子供だった僕を安心させる為なのかなんなのか、明らかにつくったその笑顔は僕に気持ちの悪さを感じさせた。

 どうして、僕がそのような事を書くのかというと、つい最近も歯医者の同じ様な表情を見たからだ。

 銀歯が取れてしまったので、その歯科医院に通院したのだけど、銀歯を被せてくれさえすれば良かったのに、歯磨きのブラッシングのレッスンを勝手にやって料金を取ったり、少しも痛くない歯を虫歯だから治療するとか言い始めたり、歯全体を矯正するのを目的に治療を進めるとか勝手に決めたり、とにかく色々とおかしかったんだ。

 それで怪しく感じた僕は、軽くネットで調べてみることにしたのだ。

 子供の頃はまったく知らなかったけど、今は流石に色々と知っている。歯科医院は都市部では供給過剰で、数少ない患者を奪い合っているような状況らしい。しかも、設備投資にかけた金を回収しなくちゃならないという経営的に非常に厳しい立場に立たされている所も少なくない。

 ならば、当然、本来なら治療する必要のない歯を治療して金を取るような悪質な歯医者だっているはずだろう……

 

 子供の頃、学校で行われた歯科検診で痛くもないのに「虫歯だ」と診断を受け、実際に歯医者に行くと、それ以外の歯も治療されてしまったという経験がある。

 子供心に腑に落ちなかったのだけど、それを言ったら“痛いのが嫌だから、言っているんだ”と思われそうで、親には言えなかった。それに当時は偉いお医者さんを疑うなんて考えは毛頭なく、「多分、疑問に思っている自分の方が間違っているんだろう」と、思ってしまっていた。

 ただ、やっぱり、そのにやけた表情は嫌だったのだけど…… 何か酷く不吉なものを見ているような気がしていた。

 もしかしたら、僕の歯のうちの何本かは、治療する必要のない歯だったのかもしれない。

 

 ネットで調べてみると、歯医者に不適切な歯の治療をされてしまったという体験談が山のように出て来た。しかも、副作用に苦しんでいるなんてケースすらも。

 因みに、その歯医者が治療すると言った歯は確かに少し欠けていた。ただ、欠けたのは5年以上も前の話で、しかもその間、一度も痛くなった事はない。

 ――やっぱり信用できない。

 それで僕は、電話で歯の治療を断ったのだった。

 

 「そりゃ、君、よくないぜ。医者の言う事は信じなきゃ」

 

 ところが、ある日、僕は知り合いの一人からそう言われてしまったのだった。

 確かに医者に疑念を持って、信頼関係を築くことを拒絶してしまうのもそれはそれで問題だろう。

 医者との信頼関係は重要だ。

 だから、その彼の言う事には一理あるような気がしないでもない。

 ただ僕は、その彼の忠告を素直に聞く事ができなかった。

 ……何故なら彼は、生活保護を受給しているからだ。生活保護受給者は、医療費が免除されている。つまり、無料だ。その代金は国が払ってくれる(……国に税金を納めているのは国民だから、それは、ま、国民が払っているという事なのだけど)。

 病院側から見れば、生活保護受給者は取りっぱぐれがない優良客という事になる。その為、病院が生活保護受給者達を厚遇するというケースがあるらしいのだ。

 僕はそれを単なる噂だと思っていたのだけど、その生活保護を受けている彼で事実だと知った。

 彼は昼夜逆転で酒を飲みまくるという生活を繰り返した挙句、体調を壊して病院に入院していたのだけど、その時にそれはもう大変に優しくされたらしい。だから、医者や病院を信頼しているのだ。そして彼には医療資源を無駄遣いする事にも抵抗がない。退院した時には、「もう一度、入院しようかな」なんてふざけた台詞まで吐いたほどだ。

 生活保護受給者の医療費無料はいくら何でも優遇され過ぎだ。千円…… いや、一回、百円でも良いから払ってくれれば、随分と医療資源の無駄遣いを予防できるだろう。

 きっとそうならないのは、病院にとっても生活保護達が良い収入源になっているからじゃないのかと僕は疑っている。

 医療団体の政治的圧力ってやつ。

 恐らくは、中には本来は必要のない治療を生活保護受給者達に施す悪質な病院だってあるのだろう。

 

 「実は今度、俺も歯の治療を受けるんだけどさ」

 

 その時、彼はそうも言った。

 「ふーん」と僕は答えた。

 因みに生活保護受給者は、歯の治療費も一部を除いて無料らしい。

 

 ある日、また銀歯が取れてしまった。

 ただし、まったく少しも痛くない。ネットで調べてみると、さっさと歯医者に行けといったような事が書かれてあった。

 確かに普通に考えればそうだろう。

 ただ、僕は少し考えてみて歯医者に行くのを止めた。

 実験をしてみようと思ったからだ。

 銀歯が取れた時、本当に歯医者に頼らなければいけないのか。状況によっては、必ずしもそうとは言えないのじゃないか。

 これに成功したら、歯を削られないのだから、充分なメリットと言える。

 ただ、もちろん、放置する訳じゃない。治療と言えるかどうかは分からないけど、自分なりに工夫はしてみた。

 まず、歯磨きを念入りにするようにし、それだけじゃなく、機会がある度に口を水でゆすいだ。少しでも歯を清潔に保つ為だ。更に僕は一日に一欠片黒にんにくを食べているのだけど、その時、銀歯が抜けた後に黒にんにくを詰めるようにしてみた。

 黒にんにくは発酵食品で、乳酸菌が大量に含まれている。虫歯というのが菌によって引き起こされるというのは有名な話だけど、他の菌によって有害な菌の繁殖を抑えるというのは、よくある手段の一つなのだ。

 歯には実はわずかながら再生能力がある。唾液によってエナメル質が修復されるらしい。だから、菌による攻撃が抑えられるのなら、長い時間をかければ治療できるのではないかと考えたのだ。

 結果は見事に成功した。

 半年ほどが過ぎたら、銀歯が取れた歯で氷を噛み砕いてもまったく痛まなくなった。

 因みに、試しに乳酸菌の虫歯予防効果を検索してみたら、証明されているらしいという情報が出て来た。乳酸菌を利用した虫歯予防の商品まで販売されている。

 もちろん、こういうのには個人差があるから、どんな人にも効果がある訳じゃないのだろうけど。

 

 ある日、僕はまた例の生活保護受給者の彼に会った。

 「よぉ」と、挨拶をする。

 それから僕は自分の成功体験を彼に語って聞かせようとしたのだけど、それを言おうとして固まってしまった。

 「久しぶりだな」

 そう言って笑い、大きく開いた彼の口の中が、見事に銀歯だらけになっていたのを見てしまったからだ。

 

 ……どうやら彼は、歯医者の言われるままに治療を受けてしまったらしい。

 

 青ざめる僕を見て、彼は不思議そうな表情を浮かべていた。

作中で書いた治療(?)を、僕は実際に試しています。

今のところは成功していますが、今後、どうなるかは分かりません。

チャレンジしてみるかどうかは各自の判断でお願いします。


乳酸菌に虫歯の予防効果があるという話があるのも本当です。

これもどこまで確かな話かは分かりません。

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