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第三十九話 お尻もみもみモンダ〇ン

タイトル発狂倶楽部

先に話しかけたのは、葉沼の方であった。恋心にはとんと疎く、雪花の猛烈な視線など一切感じていない野郎であるが、美形の雪花を前にすると少しだけ恥じらいを見せるのは、男としての本能であった。


「な、なあ。鶴喰」


 葉沼は辺りに親衛隊がいないか、確認すると、雪花の目の前に立った。


「あら、首席。私になにか御用ですか?」

「いや、ちょっとな、提案があって」

「提案……? 面白いですね。なんですか?」

「いや、誰でもない。鶴喰、お前に関すること何だが……」


 葉沼は、なるべく雪花の目を見ないようにしながら、訥々と言葉をすすめる。雪花の零れ落ちんばかりに輝く瞳を見つめていると、自分が飲み込まれそうな気がして、気が気でなかった。

 もっとも、雪花の瞳の奥にあるのは、葉沼に対する情熱と恍惚だけであり、葉沼を飲み込もうなんていう心など一つもなかった。


(し、し、首席が、わ、私に話しかけてくれる!!)


 当の本人は、クールな仮面でカモフラージュこそしているものの、心のなかではすっかりメロメロに魅了されている。その惚れっぷりや、少し気を抜いたらたちまち恋するメスの顔になりかねないほどである。


(よし、よし……首席、いい感じですよ)


 一方、二人の仲のとりもちをしているヘラは、内心ビクビクしながら成り行きを見守っていたが、とりあえず葉沼も雪花も馬鹿な様子を見せることもなく、淡々と相手に提案を始めた事に、ほっと胸を撫で下ろした。


「……それで、提案とは?」

「いや、な。前に飛鳥と出かけたじゃない」

「ええ存じております。お似合いじゃありませんか。ええ。あなたとよく似合ってますよ」


 雪花はムスッ、と顔をしかめてツンっと唇を尖らせる。完全に妬いているわけであるが、葉沼は相手をしくじったと思いこんでおり、


「怒るな、怒るな……飛鳥とは別に何もないんだからさあ」


 と、明後日の方向を向いた詫び言を口にする。


「皮肉を言わないでくれ……それでな、飛鳥にも勧められたんだが、こういう楽しみは他の人にもあったほうが良い。雪花を誘ったらどうだ、と言われたんだが……」


 どう考えても見え透いた嘘であるが、鈍感葉沼からすれば、これが精一杯の理由付けであった。


「ええい、率直に言ってしまおう……鶴喰。交流を兼ねてだ。どこかに出かけないか?」


「……え?」


 雪花は、前日ヘラに「首席から話があるかもしれない」とは言われていたものの、その中身までは知らない。いわば、サプライズである。


「……嫌でなけりゃ、どこかに、行かないかって」

「……え、貴方とですか? 貴方は馬鹿ですか?」


 しかし、その口から出てきたのは喜びの承諾ではなく、冷笑と罵倒であった。


 雪花は仮面をかぶると、本心とは裏腹の事を言うクセがある。それが彼女なりの処世術であるのは言うまでもないが、そのせいで雪花は冷たい、可愛げのない、皮肉っぽい女、と陰口を叩かれる事もあった。


 これが自分にとって取るに足りない、歯牙をかける必要もない人間ならば、いくら陰口を叩かれようとも、勝手な話であるが、相手は自分が心のなかで一番愛している人である。

 その人に誤解と捉えかねられない馬鹿発言をしてしまった。


「大体、私はあなたの事を首席だとは……」


 一度憎まれ口を叩き始めると止まらない彼女は第二の罵倒をし始めようとした刹那ーーそれを食い止めるが如くに、雪花の尻に大きな衝撃が走った。後ろを振り向くと、呆れ顔のヘラが雪花の尻を掴んでいた。


(な、何するの?!)

(アホですか!!! アホですよ!!)


 ヘラは雪花の尻を揉みながら、小声で叱りつける。


(店に入ってきた客に『待たせたな!』っていう店主がいますか! 応対よくしろ、って!! 言ってるじゃないですか!! 『待たせたな!』が許されるのはコント赤信号だけですよ!)

(や、あん、や、やめて!)

(首席のこと嫌いなんですか?!)

(や、や、好きだから! 大好きだから! やめて……よぉ!)

(じゃあ少しは素直に応対してくださいよ!)

(わか、わかったから!! あぁん!)


 使用人が主人の尻をもみまくる姿など、完全な事案であるが、そこは鈍感な葉沼のこと。「ああ、仲がいいな」程度でおさまるのだから、ヘラにとってはいい相手である。


「こ、コホン……言葉を取り消します。ごめんなさい。そうですね。首席は一応学校代表するもの。そんじょそこらの馬の骨ではありませんし……それで、首席、なんですか?」

「馬の骨って……なあ、俺と二人で、どこか、で、出かけないか? 懇親を兼ねて、さあ」

「首席、あなたという人は全く……」


 雪花はまた心にもない空虚な悪態を付きそうになったが、ヘラに尻を抓られ、はっと自分を取り戻す。

 雪花からしてみれば、これほど都合のいい話はない。なんせ大好きな葉沼からお誘いを受けているのである。据え膳食わぬが男の恥なら、ここで愛情を食わせないのは女の恥である。


「お、お出かけですか?」

「そ、そうだ。お前は男嫌いだというが、その嫌いもいずれ克服せねばならないだろう……お節介かもしれないが、前にも克服したい、と言っていたから……協力したいなあ……って」

「……」

「だ、駄目ならいいんだぞ……?」


 葉沼は恥ずかしそうに俯くと、ウルッとした瞳で上目遣いをしてみせる。

 これを見た雪花は、歓喜のあまりその場に卒倒しそうになった。


(おかわわわわ!!!)

 

 渾身の一撃を受けた雪花のクールな仮面は、殆ど壊れかけていた。これが壊れた後に出てくるのは、葉沼が好きで好きでたまらない恋する一人の乙女である。

 然し、強情な彼女は、こんな女々しい姿を愛する人に見られたくない、と言わんばかりに冷静を装い続ける。


「そ、そうですか。どこその馬の骨ならご遠慮しますが、首席の命とあらばお受け致しましょう。首席の顔に泥を塗るわけにもいけませんし、私もいつまでも男嫌いと噂されるのは嫌ですからね」


 男嫌いという噂は半分本当であるが、もはや彼女は半分心を許し始めている。葉沼という存在がなければ、彼女の心の氷はここまで溶けなかったであろう。但し、その好意に、葉沼が気がつく様子は、ない。

小説よりも絶対論文書いてる方が楽です(あるまじき発言)

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