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三十八話 ファイト!!!!

小説書けねえ

 次の日、復活を遂げた雪花が登校して車から降りると同時、待ってましたと言わんばかりに、後輩の女子たちに囲まれていた。


「雪花様、昨日、お倒れになられたそうですが……」

「何卒、ご無理なさらずに!」


 男嫌いの噂は学園中の評判と見えて、顔に自信のありげな男子たちも、流石の雪花には近づき難いと見えて、遠くの物陰や柱の影から物欲しそうに見つめるばかりである。


 雪花親衛隊の構成は、男性陣と女性陣に別れているが、雪花に近づいても何も言われないのは女性陣だけである。この親衛隊に限って言えば、絶対的なる女尊男卑である。女子たちは尊敬する雪花の絶対的で不可侵領域を死守せんと躍起になり、雪花様にどこか惚れている男子たちは雪花と距離を置きながら、彼女の領域を侵さんとする不埒な輩が来ないように警戒を続けるーー国王軍顔負けのフットワークである。


「ありがとう。貴方達も無理のないように、ね?」

 

 雪花は軽くウィンクをして、体面ばかりは彼女たちを労ってみせる。


「キャー!!!!」

 

 雪花のウィンクを目の当たりにした後輩たちは、推しのアイドルを目の当たりにしたドルオタのごとく、黄色い声を上げてバタバタと倒れる。「尊い」のは斯くの如しであろう。

 うまく後輩たちを巻いた雪花は、足早に高等部校舎へと入っていく。


「……お嬢、大丈夫ですか?」


 ヘラはなるべく人にぶつからないルートを計算しながら、雪花にそう耳打ちをする。雪花は愛想の良いお嬢様のような評価を受けがちであるが、それは社交辞令の仮面があっての事である。

 本心は、寂しがり屋でちょっと面倒くさがり屋な恋する乙女であることは、ヘラと響子と千歳ばかりが知っている。


「大丈夫よ。あれくらいでボロが出せますか。でも、ああやって取り巻かれるのも良し悪しだと思います」


 その口調はあくまでも淡々と、人目につかないものであったが、その言葉遣いもまた言葉尻を捉えられないように生み出された社交辞令的なそれである。


(あれを見てると葉沼首席が嫌がるのも無理はないな。首席とお嬢が二人で歩いている姿を街で目撃された日には、学園内で革命が起こるかもしれない……)


 ヘラは適当に相槌を打つと、今日の予定と倶楽部集会の時刻を簡潔に説明して、そそくさと教室へと消えていった。従者のヘラも、親衛隊からはあまり良い評価はなされていなかった。彼女が攻撃されないのは、雪花の威厳と風格あっての事である。弱いメダカほどよくむれる、とは平林たい子女史の教えなり。


 授業中も休み時間も雪花は孤高の女王のイメージを崩す事はなく、凛然としている。親衛隊公認の親友、響子を除いて、彼女に話相手はいない。もし話しかけたとしても連絡や軽い相談ばかりである。河童懲罰倶楽部の面子を除くと、「雪花に声をかけるのは畏れ多い。親衛隊に何されるかわからない」と、警戒しているのが兎に角大きかった。触らぬ神に祟り無しとやら、倶楽部では会話をしても教室内では周りの目を憚って話しかけないのは、葉沼も千歳も同じであった。

 

 そんな彼女の絶対領域に裸足で入り込んでくるのは、東海林飛鳥と高砂衛介ばかりである。彼ら二人は親衛隊からの評価は悪いが、前者は天才ゆえの奇行、校舎は野蛮人としてお目溢しを受けている。

 

 学園を代表する才女の肩書と仮面を被り続けながら、雪花は一日の大半を過ごす。そんな彼女がホッと一息つける瞬間が、河童懲罰倶楽部の面子と共に過ごす放課後である。

 

 ここなら気心の知れた仲間たちと腹を割って話せると同時、大好きな葉沼をジロジロ見つめても他の生徒に怪しまれる事はない。邪魔な目線もある事にはあるが、一応気心の知れた仲でそれを口外する事はない――とは、雪花視点の話で、葉沼を除いた他の面子たちは「ストーカーするならさっさと告れよ」と心のなかで強くツッコんでおり、アホらしくて介入していないだけの話である。


(はあ……首席は今日もお麗しい……)


 雪花は隣で必要書類をさばく葉沼の横顔を見つめながら、恍惚の笑みを浮かべる。その顔は他の生徒の前では絶対に見せられないメスの顔である。


(おい、千歳)

(なに)

(おい、見ろよ。鶴喰がアホ面してるぜ)

(アホ面って……あんた。でもあんな顔をするんだよねえ。あーあ、あんなに目を輝かせちゃって)


 ここに、空気を読まない飛鳥がいれば「あー!!!雪花ちゃんがメスの顔をしているー!!」とか放言して、一悶着を起こすところであるが、今日の倶楽部には葉沼、雪花、ヘラと衛介、千歳の五人しか来ていない。


(……全く、あんなに顔を緩ませちゃってバレてないとでも思ってるのかなあ。雪花は……大体、葉沼も葉沼だね。あんな生野暮薄鈍情はありゃしないよ)

(まったくだ。恋は指南の外ってか。ケッケッケ)

(……それ、あんたがいう?)


 千歳は不機嫌そうに目を細めると、気ままに笑う衛介を睨み付けた。


(……衛介、帰るよ)

(あ? なんで帰るんだよ。まだ晩飯まで時間があるだろ?)

(……あんたね、こういう時は察するもんなんだよ。花開く前の蕾の上におじゃま虫が座っていたら困るでしょうよ)

(……は?)

(ほら、いいから帰るよ。ほら。帰りにパピコ買ってあげるから)

(おい、押すなよ! わかった、わかったから!)


 葉沼と雪花が気が付かぬうち、千歳は衛介を引きずるようにして、「また明日」と帰ってしまった。


 広い部屋に乗り残された三人。


 そう、今、この部屋の中には、問題の葉沼と雪花、ヘラだけが、いる。


 雪花が目を離したスキに、ヘラが葉沼のフードをそっと引っ張る。


(お嬢を頼んだ)

(あ、ああ……)


 葉沼は椅子から降りると、プロジェクトを遂行する。

 葉沼の行動を飲み込んだヘラは、雪花に近づいて、


(お嬢。首席が何か言いたそうですから、見栄を張らずに答えてくださいよ)


 と、釘を刺す。


 恋心超鈍感フラグ折名人八段葉沼太郎VS本心を出さない溺愛メロメロ雪花お嬢様

 

 今、勝負の火蓋が切って落とされる。


近々ご長寿早押しクイズネタやります

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