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第三十七話 頼むよ!葉沼君!

最近執筆してると手がしびれる

トイレから出てきた葉沼を待ってました、とばかりに声をかけたのは、先程からこっそりと尾行していたヘラであった。


「なあ、首席。ちょっといいか」

「あ、なんだ、ヘラか。珍しい」


 葉沼はヘラと会えば話の一つや二つこそするものの、仲睦まじい関係というほどではない。あくまでも同じ界隈の仲間、それに雪花のお目付け役として交流する程度の存在である。

 そんな彼女が自主的に葉沼に声をかけてきた。葉沼が驚くのも無理はなかった。


「ご主人はどうしたんだ。鶴喰は」

「いや、まあ、な。お嬢を前ではちょっと頼めない相談があるから、来たんだ」

「相談……どうしたんだね」


 ヘラは周りに誰もいないことを確認すると、葉沼の耳の近くにより、ひそひそ話をはじめる。


「いや、な。先日、飛鳥と映画を観に行ったそうじゃないか」

「ああ、行ったよ。飛鳥から聞いた?」


 尾行していた--とまさか暴露するわけにもいかず、「ああ、楽しそうに話していたよ」と、うまく取り繕う。


「やっぱりか。あのおしゃべりめ……で、それがどうしたんだい」

「いやな、首席も女性嫌いというわけではない、と知ったわけだ」

「うん?」


「……それで、頼みなんだが、うちのお嬢にも、同じように誘ってくれないか?」


 ヘラは少し照れ恥ずかしそうに、手を合わせ拝んでみせた。


「え? なんて?」

「いや、な。雪花お嬢を、飛鳥と同じように誘ってほしいんだ」

「え、え、えええ……」


 困惑したのは葉沼の方である。気になっているとはいえ、男嫌いで知られた雪花と二人でお出かけなど、あまりにもリスクが大きすぎる。親衛隊にバレた日には火炙りにされても文句はいえまい。


「鶴喰、となあ……。そりゃ男として生まれたならさあ、あれだけの美女とお出かけできるってのは、願ってもない事だけど……」


 それを雪花に正直に伝えたら、彼女の暴走はすぐさま止むことであろうが、敢えて云わないのは優しさという名の惨酷である。


「大体、アイツは男嫌いだろ……」


 葉沼は先日の暴走がトラウマになりかけていた。完全に腹の底が読めない鶴喰雪花の暴走の数々。何をやられるか知れたものではない――と警戒するのも無理はなかった。


「……お嬢の男嫌い克服のためだ。頼むよ」

「そういうけどさ……ヘラさぁ……いきなり抱きついてキスねだってきたかと思うと、突然ヒステリックになって、ルイベにしますよ、って罵倒するのどうなの……?」

「いや、それは、でも、あれは、なんか変な気分になって、記憶が殆どないっていたから……魔が差した、というか」

「ま、ま、あれは錯乱と見逃すとしても、他の態度が問題でしょ。それに、雪花には親衛隊がいるだろ……あれが怖いんだよ」

「で、でもさ! な、なにか解決策があるだろ!」


 ヘラは前髪をくるくる弄りながら、妙案をひねり出そうと必死になる。ここでうまく相手を丸め込めればこちらのものである。


「一つくらい……一つくらい……いい案が……」


(ねえ、ヘラ……既成事実ってどう作るべきかな?)

(ヘラぁ!!! あの小動物に首席を取られたよぉ!)

(ヘラ。ディ○ニーランド貸しきれないかな?)


「…………」

「お、おい。大丈夫か。脂汗だらけだぞ……」

(ひ、一つもない……あのお嬢がガチすぎて何も妙案が出てこなくなる……)


 ヘラは雪花の普段の行動を思い出すに連れ、頭を抱えるより他はなかった。どう見積もっても、本気で葉沼を征服する未来しか見出だせなかった。

 しかし、下手にそれをやった日には、葉沼にトラウマを植え付けてしまうのは必定である。

 まずは男女の仲としての第一歩、仲睦まじくなるべきである。

 ヘラは主人が何としても暴走せぬよう、かつ、葉沼に近づけるよう、必死になっていた。悪戯好きの彼女であるが、自らの身の上にも降りかかりそうな話となれば自然と真面目になる。


「首席……お嬢にお出かけを誘ってくれないか」

「えー……でも……」

「そこをなんとか……」

「うーん……ヘラがそこまで言うのなら、鶴喰も本気なんだろうなあ。で、でも、親衛隊は怖いし、つ、鶴喰になにされるかわからないし……」

「じゃ、じゃあ、お嬢の家で鑑賞会とかどうだ。これなら親衛隊に見つかることもなければ変な噂を立てられることもないだろ。もしお嬢が暴走しても拍手をすれば、メイドや執事が助けに来てくれる。ど、どうだ?」

「うーん……」

「鑑賞会でも来てくれるなら、首席が欲しがってたチトセがゆくの限定盤DVDセットやるから」


 ヘラの必死の頼みに、葉沼は遂に折れた。物欲や懐疑心がなくなったとは言い難いが、それでも気になる雪花と出かけられるなら悪い話ではない。ましてや会長と副会長としてこれから二人三脚をせねばならない身の上、いつか腹を割って話す機会がなければならないだろう、と葉沼は自分を納得させた。


「……ヘラがそこまで頼み込むんだ。これで断るのは男として失礼だろう。よし、判った。鶴喰を誘うよ。で、でもどう誘おうか。へ、ヘラから、ってか……?」

「それはやめてくれ……絶対に私がなにか言った、とか言わないで欲しい。あのお嬢はヘタレのくせにプライドだけは一人前だから……。そうだな、面白い映画があるが、俺とお前では目立ってしまうし何言われるか分からない。本当ならば家で鑑賞会をやりたいが、男嫌いのお前を男の部屋に連れ込むのはよくないから、どうだ? 鶴喰の家に遊びに行っていいか? みたいなノリで話しかけてほしい。そしたら、私もうまく助け船を出すから……これでどうだ?」

「あ、ああ……そ、それくらいなら……いいかな。うまく言えるかわからないが……今日は鶴喰帰っちゃったから、明日言えばいいか?」

「ああ。頼んだ。また明日言う前になったらメールかアイコンタクトでもしてくれ。うまく取り持つから……」

「……了解」


 そういうと葉沼は元来た道へ戻っていき、ヘラは中庭へと向かう。彼女が向かった先にあるのは、中庭のウサギ小屋。本来中等部にあったものであるが、ヘラと飛鳥が歓奈に掛け合う形で一部移籍されたのがこの小屋である。


 ヘラはウサギ小屋の掃除をし終えると、ウサギを一羽抱え、「明日はどうしようか」と、気難しそうな顔をして、大好きなウサギの香りを吸い始めるのであった。

端末冷ます方法ないですか

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