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第三十四話 タピオカミルクティー

クラウドファンディング終わりました。それしか話題がない。

 葉沼と飛鳥は噂のタピオカミルクティー屋の前に辿り着いた。評判とだけあってか、行列を成していたが、回転率は早いと見えて、あっという間に買うことができた。


「これがタピオカミルクティーってやつか……」

「あの店もヤーさんが経営してるの?」

「シッ! そんなこと言うもんじゃありません!」


 葉沼は時事問題だけにはやたらに詳しい飛鳥を嗜める。語彙力は子供のくせして、どうでもいい話題までよく知っているのは彼女の天才性、というところか。


「ふーん、こんな味か。ま、女子高生向きかな。アッスどう?」

「んー。これなら普通に紅茶飲んだほうがいいかなぁ?」


 葉沼も飛鳥もタピオカミルクティーはお気に召さないと見えて、飲むスピードもあまり早くはない。そんな二人を影から見守っているのは――雪花一行である。


「ヘラ、早く早く。ちゃんと買ってきた?」

「買ってきましたよ……ってなんで私達まで飲む必要があるんですか?」

 

 ヘラは変装しているのと女子高生が多く居るのを幸いに、葉沼たちの注文を盗み聞き、同じ品を買って来るように雪花から命じられていた。そして、その通りに買ってきた次第である。


「ヘラ。相手を知るには相手の嗜好を掴まなきゃ駄目よ?」

「……さっき、手を洗うふりして二人の話を近くで聞いていたら、タピオカミルクティー微妙言うてましたよ」

「で、でも! げ、現代的なものを知らなきゃ駄目でしょ?」


 なぜここでも意地を張るのか――とヘラは主人の頑固ぶりに狼狽するばかりである。素直に飲みたいといえばいいものを、何かに付けて勝負勝負である。


「鶴喰さん、タピオカは何から出来てるか知ってますか?」

「……キャッサバじゃないの?」

「それは原材料です。本当はジャングルの奥地にいるカエルに食べさせて、お腹の中で発酵させたあとに、そのブツをですねえ……」

「お前ぇー! 待てー!」


 当然、ヘラの横槍が入る。これ以上言ったらジャコウネコと珈琲の話になりかねない。


「タピオカ見る度に思い出すのは……ふふ、さっきの触手ですねぇ……産卵プレイ……」

「……ねえ、アンタさ。本当に一度頭の水を抜いてもらったらどう?」


 ヘラの胃は限界を迎えつつあった。


「あー、ごちそうさまー。全部飲んだよー」

 

そうこうしている内に葉沼も飛鳥もタピオカミルクティーを飲み干し、席を立とうとしていた。


「この後どうする?」

「迎えが来るまでの間、ちょっとぶらついてよう!」


 葉沼は飛鳥の口周りを拭いてあげると、ゆるゆる人波をかき分けながら奥の専門店街へと向かっていく。


「お嬢、葉沼が……って、まだそれしか飲んでないんですか?!」


 雪花のミルクティは三分の二以上余っている。


「……カエルとか聞いたら飲みたくなくなった……」


 こう見えて雪花は案外繊細で不気味なものは苦手な質である。想像力が豊かなせいもあるのはいうまでもない。


「いや、タピオカは普通にキャッサバのデンプンから作りますからね? ジャングルの奥地にいるカエルとか嘘ですからね?」


 因みに残りのタピオカは、歓奈が実に手慣れたテクニックで一粒残らず飲み干した。


 一方お気楽極楽なお出かけを続ける葉沼と飛鳥は東海林家の迎えが来るまでの間、おもちゃコーナーを覗いたり、文具コーナーでノートを見たり、とデートとも買い物ともつかぬ平穏な時間を過ごしていた。

 男女関係を気にしないで仲良くしている所を見るとさながら兄妹のようである。


「お、葉沼じゃねえか、おめえ」

「飛鳥」


 二人が仲良く文房具を見ていると、後ろから身に覚えのある二つの声が聞こえてきた。


「高砂」

「あー、チーちゃんだ」


 バンガラ風の男に、ギャル風の女――アンバランスのようでピタリとハマった高砂衛介と住吉千歳である。


「どうしたんだ、おめえ、こんな所で。飛鳥なんざ連れて」


 衛介は龍虎の激突が描かれたドカジャンを身に着けている。派手といえば派手、場違いといえば場違いだが、それが不思議と似合うのはいかつい顔と壮健な肉体のおかげであろう。


「いや、アッスが映画見に行きたいいうからね。来たんよ」

「見てー! 欲しいクリアファイル当たった!」


 飛鳥は来場者プレゼントのクリアファイルを衛介に見せびらかす。


「……デートか?」

「コラ、デリカシーない事は言わない。飛鳥。よかったね。葉沼によくお礼を言うんだよ」

「うん。チーちゃんたちはどうしてここに?」

「ま、買い物だね。ほら、あたし達は一緒に暮らしてるからさ、何かと物がなくなるのが早いんよ。それでね」


 千歳はパンパンに膨らんだ買い物袋を前に出すと、静かに笑ってみせた。


「……どうした? 葉沼おめー、ニコニコして」

「いやあね、なんか、若夫婦みたいでいいなあって」

「?!」


 微笑みを浮かべながら、葉沼は爆弾発言を口にする。肝っ玉の座った二人も「夫婦」という言葉には動揺したと見えて、双方同じタイミングで顔を赤くする。


「な、な……」

「お、こ、この野郎! だ、誰が夫婦だ!」

「千歳とお前だよ」

「な?! ど、どこが夫婦なんだよ?! こんなガサツで大食らいで目つきの悪い、風呂が長くて寝相の悪い女と一緒にしてほしくないぞ、俺は」

「あたしだってね、こんな目が大きくてデリカシーのない、味覚がやたらに爺むさくてどこへ行くにもドカジャンを着ていくような、貧相な男なんてごめんだよ」


 当人たちは罵倒と卑下のつもりのようであるが、完全に逆効果である。葉沼はなおニコニコとしながら、

「羨ましいねえ、それだけ相手を貶せるのは」

 二人のペースを乱していく。これもまた葉沼の強さであり、鈍感力でも、ある。


「こ、この……!」

「………」


「……これは意外でしたね。お嬢。こんな所に千歳がいるとは」


 四人の茶番を柱の陰で見ていたヘラは雪花にもう少し様子を見てから動こう――と注進しようとしたが、当の雪花は夫婦という甘いワードに惑わされたとみえて、


「夫婦……夫婦……私と首席が夫婦になったら……」


 と、またもや上の空である。今日は灰になったり、妄想の世界に引きずり込まれたりと忙しい。


「鶴喰さん。夫婦になったらまず裸エプロンで『ごはん? お風呂? それとも私?』ってやるんですよ?」


 歓奈は完全に悪ノリをして有る事無い事、彼女の耳元に吹き込んでいく。


「え、え、そ、そんなことをやるの?!」

「お嬢……騙されないでくださいよ。んなの、漫画の世界だけですよ。ガチでやったら引かれますからね……」

 こちらもこちらで大変であるのはいうまでもない。


「……全く、お前と喋ってたら変な気分になったよ。まだ買い物もあるしな、御暇するとしよう。ほら、行くぞ」


 しばらく顔を赤くしていた衛介も仕切り直し、と見えて、ドカジャンをバサッと大袈裟に振るうと千歳の手を握り、踵を返した。


「まったく……じゃ、二人共。また学校でね。飛鳥、葉沼に迷惑かけるんじゃないよ」

「わかった! バイバーイ!」


 そういうと二人は食料品売り場へと向かうエスカレーターの波に消えていった。


「あ、メール。ちょっと待って」


 二人を見送ったと同時、飛鳥のスマートフォンが更新された。


「あー、迎えが来たって。駐車場で待ってます、って」

「そうか。じゃあそろそろアッスの家にお邪魔することにしようか」


「お嬢。もう帰りましょうか」

「なんで?! 尾行しなきゃ!」

「東海林の家までついていったらそれこそ案件ですよ……大体アイツの家に入るのは無理でしょう。セキュリティ完備の高級マンションですよ。我々が入れるわけがない」

「でも、そこから無理に入るのが青年漫画の醍醐味なんですよねー?」

「あのさ……アンタ、本当に邪魔だわ……。家帰ってエロ本でも読んでてくれ……」

「で、でも、ヘラ。私の権力を使えばセキュリティくらいは?!」

「あの……いや、まあ。できないこともないでしょうけど、葉沼にドン引きされますよ。ストーカーかよって」

「それでも、首席が気になるんだもん!」

「いや、あの……」

「首席ー!! 飛鳥の泥棒猫ー!!」

(そもそも告白もしてなきゃカップルでもないでしょう……お嬢……)


 駄々をこねる雪花をなんとか説き伏せたヘラは、ブツブツ文句をいう二人を抑えながら、葉沼たちが車に乗り込むまで見届ける事に決めた。


 外に出ると日は西に傾きて、一抹の哀愁を帯びた夕焼けが、地平線の隅でヌラヌラと輝いていた。

ネタがないよ

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