第三十二話 チトセがゆく
ドドドドドドドドドスランプです。何も書けねえ。氏ぬしかねえ
場面は仕事人チトセが酒場で、名君と呼ばれたキョーコが最近豹変して恐怖政治を敷くようになった事、その背景には悪霊のハッシャクさまがいるのではないかーーという巷説を耳にする所からはじまる。
情報収集を終え、隠れ家で一服しているところへ、腐れ縁で最大のパトロンのタカサゴがやってくる。
『おい、チトセ。仕事だ。最近恐怖政治を敷き始めたキョーコを始末してほしいそうだ』
『……報酬は?』
『まず前金で100万巾だそうだ』
『……いいだろう。で、ターゲットは?』
『お前も街の噂で聞いているだろう。キョーコ・サクライは名君と知られた女王だ。しかし、ここ最近突如として暴君に成り代わり、「女性だけの楽園を作ります!」として、男たちや自分の好みに合わない女性を虐げているようだ。国民達はその豹変ぶりにただただ狼狽している有様だ』
『……なるほど。そりゃ、ただ事じゃないね。して、あんたのお見立ては?』
『……モノノケに取り憑かれたかも知れねえな。しかも相当の大玉によ』
『……なるほど。キョーコとやらは、どうする?』
『……手がつけられない場合は致し方ないが、如何せん取り憑かれる前までは国民の母とまで形容された聖女だ。なまじ殺すのも、惜しい気がするな』
『善処するよ』
『……手馴れとはいえ、一筋縄では行かないだろう。気をつけろよ』
チトセはススキノ王国にやってくる。嘗ては聖人君子のいる国として栄えていたが、今ではすっかりと見る影もなく、陰鬱たる国と変貌をしている。
『何休んでいるのだ! この下劣な男め!』
『かような扱いを受ける事のが嫌なら働け! せいぜい男に生まれた事に後悔すべきだな!』
一番の違いは女憲兵というような存在が、男を家畜のように扱っている所である。彼女が敷いたという『女尊男卑令』は本当であったか――とチトセは国をめぐり、現状を探りながら、相手方の動向を探る。
(……なかなかよくできた映画だな。しかし、お嬢なんかはこういうアニメ映画は……って、ガッツリ見ているゥゥゥゥ?!?!)
(…………ワクワク)
(ああ……チトセのアニメーションは官能的ですねえ。ムラムラしてきます……)
映画の面白さに取り憑かれ、ガッツリ画面に釘付けとなっている雪花と歓奈の姿を、他の生徒が見たらどんな反応をするだろうか。少なくとも人違いではないか、と疑われるのが山だろう。
映画も中盤に差し掛かり、チトセが遂に動き出す場面へと突入している。チトセは多くの調査や痕跡から、奸臣の一味が悪霊や魔族を召喚し、キョーコを乗っ取った事を悟り、すぐさま城へと向かった。敵を蹴散らし、見事なアクションで相手を封殺していた――はずであるが、いつまで立っても敵の親玉の姿は見えず、城の中を彷徨うばかりであった。
『……おかしい。こんな空間はさっきまでなかったはずだが……? や、もしや!』
チトセが宙を見上げた刹那、上から黒煙を吐き出す不気味な粘液が降り注いでくる。
『ぐっ、う、動けない!』
『かかった! チトセ! そいつは品種改良と魔改造を施したサキュバススライムだ! 快楽と絶望の渦に塗れて死ぬがいい!』
悪の親玉である女臣は隠し窓からチトセの醜態を見ると、高らかに笑い声を上げた。
『くっ……この野郎! お前のせいで国が滅ぼうとしているんだぞ!』
『ふん、知ったものか。あのキョーコさえ始末すればこの国はワラワのもの。これまでキョーコに近づいてきたのは、この大望を果たすためさ。さあ、スライムよ。やっておしまい!』
スライムは黒煙と共に咆哮すると、チトセの身体に絡みつき、まぐわり始めた。
『くっ……! や、やめろ!』
『ウォォォォン!!!!』
『ん……! そ、そこは……! き、着物を、は、剥がすな!』
お馴染みのサービスシーンである。この後チトセは何時間も渡ってスライムに弄られ、快楽と苦悶の淵に立たされる羽目になる。とにかくスライムのネチャネチャに衣服を溶かされ、女の弱点という弱点を貪られる彼女の姿は、猥雑そのものである。流石の葉沼も股間を抑え、小さくため息をついた。
「がんばえー! チトセ!」
隣では飛鳥が無邪気にチトセを応援している。官能も猥雑も知らない彼女からすれば、スライムと戦うチトセの姿は、プリキュアやアンパンマンのそれと変わらないようである。
「がんばえー!」
「お嬢?!」
「待ってました、たっぷり! 松茸の土瓶蒸し!」
歓奈に至っては塩がれ声で大向うなどをかけている。
「おい、恥ずかしいからやめてくれ!」
物語は終盤に突入し、キョーコが悪魔のいけにえとして、その身を食われそうになる。
『くっ……信じておりましたのに……神官。私が御神託を持って政を司るのを逆手に……私を幽閉して国家を混乱に追い込むとは……』
『姫様は余りにも初心で疑う事を知らないようですね。ふふふ、これで貴方様を悪魔のいけにえに捧げれば、私の野望は実現する!』
『……そういくかな?』
危機一髪――という時に、さらし姿のチトセが華々しく現れる。手には仕込み刀を持ち、鋭い眼光と見得をとって、カメラワークもバッチリである。
『き、貴様! サキュバススライムの中に埋めたはずでは?』
『……ふん、アタシの修羅場を舐めてかかられては、沽券に関わる。あれくらいの快楽で死ぬ、アタシじゃない……』
『た、大変です! サキュバススライムが!』
『どうした?!』
『こ、殺されました! ち、チトセにやられた模様です! そ、それに男たちもクーデターを起こしました! 夫や子供を取られた女達も混じってます!』
『な、なんだと?!』
チトセは旅するふりをして、アチラコチラで風評を流し、ある者には行動を促し、国家転覆計画の内堀をじわりじわりと埋めていたのであった。
『天に代わりて不義を討つ。遺言はあの世でいいな――』
そういうと、チトセは仕込み刀を抜くと、神官一派の背後を取る。壮大にトンボを切り、攻撃を交わしたと同時、刀に秘められた鋭い閃光を迸らせ、相手の首を、跳ねる。そして、召喚され始めた悪魔さえも一刀両断にして、悪魔の壺を真っ二つにするのであった。
『……ああ、刀が泣いているなぁ』
チトセはキョーコを救い出すと、漢奸一味の首を持って、お城のバルコニーに立った。
『諸君! キョーコ姫は操られていた。見よ。この首と壺を。この漢奸は、キョーコ姫の純真さを狙い、悪魔を呼び寄せ、国家転覆を図ろうとしたのだ!』
チトセはキョーコに害が及ばぬよう大演説をはじめ、民衆を説得し始めた。
――結句、キョーコは復権を遂げ、国の混乱はおさまる。キョーコはチトセに国の守護者になってほしい、と懇願し、涙を浮かべるが、チトセはそれを振り払い、
『アタシのような他国の蝉に泣くような女になってはいけませんよ。未練は断ち切ってくださいな。』
と、キョーコを説得すると、そのまま当てもなく、風と共に去ってゆくのであったーー
合計二時間の映画を見終わった二人は満足そうに頷きながら顔を見合わせた。
「どうだった。飛鳥」
「楽しかったー!」
「なら、よかった」
葉沼は後ろのバカ三人には気が付かなかった様子である。二人は会場内が明るくなった事を確認すると、周囲を見渡すことも無く、そそくさと出ていった。
「あ、お嬢。葉沼が移動しますよ!」
ヘラは立ち上がり、俯いている雪花に声をかけた。疲れて寝てしまったか――と思ったが、そんな期待はすぐさま裏切られる事となる。
「ヘラ! ヘラ! もう一回観ましょ!」
「は?」
雪花は完全に作品の世界に魅了されている。ヘラは当初の目的を忘れている主人を目の当たりにして、ため息をつくより他はなかった。
「そして、ほら、歓奈さん。ああたもなにか言ってくださいな。監視しに来たんでしょう」
と言って、歓奈の方に振り向くと、こちらはこちらで雪花よりも大胆で卑猥な雌の顔を浮かべていた。漫画次第では黒塗りにされるやばい顔である。
「ああ、官能的で美しくてエロくて素晴らしかったですわあ。上原芽郁さんの演技、あのあえぎ声といい、最後のセリフといい、クールながらもどことなく陰媚で女々しいキャラクター造形をきちんと描き出していて……それにキョーコ姫の声優のⅦさん。本当に薄幸の姫という趣があって、耳が幸せです……」
「……」
「触手プレイもいいですわァ……今度そういう本をメ○ブで買おうかしら?」
「……お前は!! 風紀委員!! やめろ!!」
興奮している雪花に、発情している歓奈。しつこくまとわりつく二人をいなしながら、ヘラは葉沼と飛鳥を見失わぬように目を凝らし続けた。
それでもしつこい二人のため、雪花にはパンフレットを、歓奈にはグーパンを加えたのは内緒の話である。
次回更新は未定です。申し訳ない。




