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第二十七話 KISS?!

タイトルの通りです。

『……お、泣き始めた。よしよし……ここから負の感情を……』


 八尺様は自分が暴れたおかげで雪花が泣き始めた――と錯覚している。


「しゅ、首席……私は寂しいです……! 私は……本当は……」


 そこまで言うと雪花はワンワン泣き始めた。これまで涙を見せないのは胸のうちにずっと溜め込んで、噛み殺してきたからである。雪花のようなお嬢様でも、悲しい事苦しい事、自分ではどうしようもできないことは、沢山ある。


「よしよし……」


 葉沼は一瞬豆鉄砲を受けた小鳩のように目を丸くしたが、すぐさま彼女を受け入れて、慰め始めた。


(本当は……何なんだろ? まあ、いいや)


 葉沼は一瞬疑問を口にしかけたが、子供のように泣きじゃくる雪花をあやすのに手一杯で、そんな疑問は忘却の彼方へと放ってしまった。


『あ、おお? ど、どうなっているじゃ!』


 八尺様は地団駄を踏み、まな板の鯉顔負けのローリングをかましてみせるが、雪花が変わる様子は一切ない。

 それどころか、泣き止んだ雪花は葉沼に抱きついてイチャイチャし始めている。


「首席……」

「よしよし……」

「……おねがいがあります」

「ん、なんだい」


 すると、雪花はとろんと瞳と噎せ返るような艶姿を見せたかと思うと、葉沼の首に手をかけた。


「首席……、き、キスしてください……」

「え?」


 これには葉沼も飛び上がり、玉座から転がり落ちそうになった。


「キスです……私……首席のことが……」

「え、ちょ、待った。鶴喰、お、男嫌いでしょ?」

「首席ならいいんです!」

「え、」


 雪花は涙が残る円らな瞳で、葉沼に迫る。葉沼は混乱するばかりであったが、目を閉じて口を窄める彼女の姿を目の当たりにして、男度胸を決めねばならない、と腹の中で覚悟を決めた。


「し、仕方ない。鶴喰……い、いや雪花……」


 葉沼も雪花の首元にそっと手を回すと、ゆっくりと彼女の体を自分の方へと引き寄せる。玉座に深くもたれかかり、彼女を抱きかかえるようにうまく姿勢をとった。

 そして、キス待ちをしている雪花の顔をまじまじ見つめながら、自分も――――


 その刹那、八尺様の怒りが爆発した。


『ええい、埒のあかぬ……こんな恋に溺れるようなバカ女に付き合う暇はないわ!』


 そう毒づいたかと思うと、八尺様は雪花の身体から離脱し、どこかへ飛び去ってしまった。


「…………!」

「……雪花?」

「……………」

「……………」

「……………?!」

「…………?」

「え、あ、し、首席?!」

「な、なんでそんな驚くの?!」

 今にも口づけをしようとした刹――ー八尺様の憑依が落ちて、元の雪花に戻った。

 素直な感情が落ちた後にやってくるのは雪花特有の照れ隠しである。雪花は葉沼の体から転げ落ちると、


「な、なんで雪花、ってよぶんですか! し、しかも、口まで近づけて! こ、この獣! スケベ! 女ったらし! ジゴロ! イケメン! る、ルイベにしますよ!」


 相変わらずツンっとした態度を取る。心の中ではパニックが起こっているが、身体だけは相変わらずのようである。


「そんな理不尽な! 鶴喰が、名前で呼んでくれ、き、キスしてくれ、ってせがむから……」

「……え?」

「ほ、本当だから……」


 葉沼は申し訳なさそうにグッとうつむいた。


「またお可愛いことを……そうやって男は嘘を……」


 雪花はいつものような軽蔑した目で葉沼を睨みつけようとした瞬間、にわかにフラッシュバックしたのは、あろうことか、八尺様に操られて本能丸出しだった時の記憶であった。


(大丈夫ですよ?)

(ただ……首席がこんなに近いのが嬉しくて……。)

(首席好き〜。)

(雪花って呼んでください。)

(「つ、鶴喰は、お、俺のことが好きなの?」「? 当然じゃないですか?」)


 自分が口した言葉が心の中で、反芻され、谺をする。

「…………!」

「お、俺は何もしてないからね……」

「あ、あ、あ…………」

「し、信じてくれ……」

「わ、私……!」


 雪花の顔が、耳の先が、髪の毛まで真っ赤になる。

 そして、恥ずかしさと喜びのあまり、クラクラと目を回したかと思うと、身体中から火を吹いて、その場に倒れてこんでしまった。


「つ、鶴喰! だ、大丈夫か! そ、そうだ! ヘラ、ヘラー! ヘラの電話は……」


 突然の暴走と昏倒に葉沼はただただ狼狽するばかり、この後、連絡を受けて飛んできたヘラが雪花を背負って帰ったため、事なきを得たが、目を覚ますまで、実に幸せそうな顔をしながら、「首席ぃ……」と呟いていた。

八尺様の悪事は、これだけではとどまらない。

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