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第二十五話 憑依

前書き考えるのがつらい。

 次の日、葉沼と雪花の二人は学校の片隅で学術雑誌の取材を受けていた。


「なるほど……なるほど……首席と次席となるとやはり違いますね」

「まあ、そうはいいましたが、自分のペースに合わせてやる事です。勉強が苦手なら、何も頭を良くなってやろうと思わないほうがいいのです。平均を狙えるようにして、自分の心の豊かさを求めた方が余程いいです」

「お、首席いいますねえ」


 相手の記者は始終減らず口をたたきながら、メモを採っている。葉沼はどこか気恥ずかしそうに、雪花はいつものように冷静の仮面を顔に貼り付けて、如何にも大家のお嬢様然とした雰囲気を醸し出している。


「では、最後に写真をいいですか。お二人のツーショットを」

「……だって。鶴喰大丈夫? 俺と映るんだよ?」

「し、取材なんだから仕方ありません。さっさと撮りましょう」


 相変わらずツッケンドンに答えてみせるが、実は嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。冷静こそ装っているものの、今日の取材を楽しみに生きてきたようなものである。ただでさえ大好きな葉沼と二人きりな上にツーショットというサービスまでついてきた。後で記者を脅してツーショットの拡大コピーをもらってやろう、と考えていたのは内緒である。


「は、早くポーズを撮ってください。し、仕方なくなんですから」


 雪花は顔を真っ赤にしながら、悪態をつくと、心の奥底から不気味な声が響き渡った。


(お主は男が嫌いなんじゃな……?)


「え?」


 聞いたことのない不気味な声が身体の中に駆け巡る。雪花は思わず硬直をしてしまった。


「……どうかした?」

「いや、なんでもありません……」


 一時の気の疲れだろう――そう断じた雪花は葉沼の隣にいられる喜びと彼から放たれる匂いを満喫しながら、そっと指先を背中につけてみたりする。


「……はい。終わりですー。どうも長々とありがとうございました。」


 記者は丁重にお礼を述べ、菓子折りを置いていくとそのまま引き上げた。葉沼は一息つくと、首席の玉座に座った。雪花もちょこんと隣りに座った。


「あれ、鶴喰。もう終わったんだから戻ってもいいのに……俺はもう少しだけ作業していくけど」

「勝手に帰ったら不義理してるみたいじゃないですか!」


 相変わらずの返答であるが、今の雪花からすれば上出来といったところ。因みに模範解答は「だって……二人きりの時間は滅多にありませんから」である。


「……て、手伝いますよ。わ、私も……じ、次席なんですから。し、仕方なくですよ!」

「そうか。悪いね。いつもいつも。頼りになるよ本当に」


(た、頼りになるって!)


 葉沼の微笑みを目の当たりにした雪花はその場でトリプルルッツを決めてしまいそうなくらいの喜びと歓喜に包まれた――が、葉沼を意識した瞬間、心臓がずきりっと傷んだ。


『この娘は……良い器じゃのう』


 また胸の中から聞いたことのない声が響き渡る。雪花は急に気分が悪くなって、椅子にもたれかかった。


「……大丈夫?」

「や、ちょっと立ちくらみがしただけです……」

「休日なんだから、無理しなくていいよ……?」

(折角の二人きり……逃してたまるものですか……)


 雪花はゆっくりと目を閉じて、昨日響子と話し合ったアレコレを思い出す。自分だけの世界に閉じこもる事にした。


『雪花ちゃん。いい? 首席と二人きりになるからにはチャンスよ。ちょっといいところを見せれば、男嫌いを克服している、って相手に思わせるようになれるから』

『……うん』


 昨日の夜、雪花は親友の響子に作戦――題して『葉沼にお近づき作戦』の作成を持ちかけたのであった。


『逆に暴走なんかしたりしたら、葉沼くんドン引きするからね……。明日は私が庇ってあげられないから……』

『……わかってるもん』


『ほほお、お主は男嫌いなのか。浅ましいのぉ……』


 また、変な声が響き渡る。雪花は『誰ですか!』と心の声を荒げるが、返事はない。再び響子との会話を思い出す。


『葉沼くんは優しいから少し甘えてもいいと思う』


『男嫌いを通してきたのか此奴は……』


『わ、私だって男の人を好きになる権利があるんだもん』


『無駄無駄。お前は今からワラワの餌になるのだ』


『……さっきからなんですか。うるさいですよ! 今、葉沼首席といい雰囲気なんですから……!』


 雪花のメンタルの強さは今更いうまでもないだろう。男嫌いを貫徹し、仮面を幾重にも被せることのできる人が、こんな事で折れるはずがない。


『大体、あなたは誰ですか! 人の心の中に入るのにも礼儀というものがあるでしょう!』

『……ほう。ちょっとは根性があるようじゃな?』


 そういうと共に長い髪と青白い肌、闇を垂れ流したような漆黒の瞳を有する八尺様がニュッと雪花の前に現れた。流石の雪花もこの不気味な姿には耐えられないと見えて、思わず顔を背けてしまった。


『ワラワは……名乗るほどでもない。直にお主はワラワの生贄になるのだから』


 八尺様は怪鳥のような笑い声上げ、ニコッと嫌らしい笑みをチラつかせてみせる。


『生贄……? そ、そんなことはさせませんよ!』


 雪花は必死に抵抗をしてみせる。が、八尺様の圧力と力には敵わず、あっという間に身体の自由を奪われてしまった。


『他愛のない女子……。まあ、よい。これくらい立派な器ならば、ワラワもじきに復活できるであろう』

『な、何をするんですか?』

『ええい、欲望のままに狂うがよい! 女の本能をさらけ出して、嫌いな男に抱かれるがよい!』


 八尺様は腕を伸ばして、雪花の顔を掴んだと思うと、その不気味な瞳を見開いて、雪花の眼の中を覗き込む。


『あ……あ……』


 雪花の目がたちまち色を失い、ガチャリと不気味な金属音が当たり一面に響き渡った。彼女の心のなかにある本能と狂気の扉を開いた音である。

 その音を聞いた八尺様は高笑いをした。


『ふふふ……意地はあっても、所詮は人間。催眠一つで簡単なものよ……どれ、負の感情で力でも付けようか』


 思考とは真逆の行動に出ることによって、耐え難い屈辱や恥を覚えた人間は、負の感情を心のなかに生み出す。

 八尺様はこれを食らってパワーアップをし、心を巣食いはじめるのである。

果たして雪花の運命は!?

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