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婚約破棄と計画的逃亡及び強奪 11




 ベルスレイアは両腕を広げ、仰々しく宣言する。


「さあ――来なさい、私の愛する玩具達」


 これと同時に、スキルを発動。まずは『操影』で自らの陰を巨大に膨れ上がらせる。続けて、『潜影』を発動。内部空間と、外部を繋げる。


 すると――途端に、中から人影が溢れ出す。闇の粒子を纏いながら、陰から滲み出るように。


 次々と姿を現したのは。


「――ようやく、出番ってことね」


 専属侍女のルル・アプリコット。


「ベル様の命とあらば。私は……どのような道でも進みましょう」


 剣術指南役のシルフィア・ロンドウェイ。


 そして二人の背後に立ち並ぶ、黒薔薇と白薔薇の面々。

 ベルスレイアが抱える、信者達の姿である。


 スキル『潜影』は、ベルスレイア自身が利用している通り、生物が内側に潜むことの出来る異空間を生み出す。

 収納魔法と似た性質を持ちながら、この点こそが最大の相違点。生物を収納可能である以上、ベルスレイアは自身が持つ内部空間に、他人をも控えさせておくことが出来る。


 細かく言えば、まず『操影』で他人を掴み、『潜影』で生み出した異空間に引きずり込むことで収納。取り出しは逆に異空間内の存在を操影を掴み、引っ張り出す。つまり他人が出入り出来るというよりも、自分自身の出入りに巻き込んでいると言った方が正しい。

 が、実態としては収納しているのに違いは無い。


 王宮への出頭命令が出た直後。ベルスレイアは『仕事』のある黒薔薇、及び白薔薇のみを残し、自らの信者全員を『潜影』の内部空間に収納した。

 つまり――一人で王宮に出向いたように見せかけて、総攻撃を仕掛けていたわけである。


 突如現れた無数の兵力に、場の全員が慌てふためく。護衛の為、幾人かの近衛騎士はこの場に同席していた。しかし、ベルスレイア一人を警戒していただけである為、人数は最低限。

 当然、突如現れた黒薔薇、白薔薇の軍勢に対処できるような数ではない。


 また、貴族達は頭数こそそれなりであるものの、ほぼ全員が戦いに関しては素人。武勲に秀でた貴族も数名紛れてはいるが、今は武器も携帯していない。戦力として数えることは不可能である。


 何故こうなったのか、とは誰も考えなかった。ただ、自分たちの命が危険に晒されている。これだけは理解できていた。


 一瞬の混乱の後。貴族は――一人残らず、その場から『逃亡』を図る。


「やって頂戴」


 ベルスレイアが呼びかけると、黒薔薇、及び白薔薇が行動を開始する。


 白薔薇は貴族にも、近衛騎士にも見向きしない。王宮内の、事前にベルスレイアが指定した場所へと向かう。

 白薔薇の向かう先には、事前にベルスレイアが調べ上げた貴重品がある。由緒正しき、美しい装飾の刀剣や鎧等。そうした美術品を、ただベルスレイアが気に入ったという理由で強奪する。

 資産を失うという意味で、これもまた王国への攻撃と言える。


 黒薔薇は逃走する貴族を追い、僅かに配備された近衛騎士と対峙する。日頃から理不尽なステータスを持つベルスレイアと訓練を重ねている為――また、ベルスレイアが神託の水晶を所有している為。黒薔薇及び白薔薇は近衛騎士よりも遥かに優れたステータスを持つ。一対多で戦ったとしても、負けることは無い。

 ましてや、近衛騎士は数でも負けている。黒薔薇が押し負ける道理など、一つも存在しない。


 まるで芝刈りでもするかのように。――次々と、近衛騎士が切り捨てられる。何の抵抗にもならず。足止め程度の役目も果たせず。聖王国サンクトブルグの最高戦力は、瞬殺された。


「な、何故だッ!? 何故こんなことをするんだ、ベルスレイアァッ!」


 サティウスは――その場から逃げなかった。怒りに満ちた表情で、ベルスレイアに怒声を浴びせる。


 だが、ベルスレイアは意に介さない。


「何故って? 馬鹿なの? 私と敵対したでしょう。立場が違うと。考え方が違うと。勿体ぶった言い方をしていたみたいだけれど、要するに貴方達は私を否定したでしょう?」


 当然のことを、子供に諭すように。ベルスレイアは不気味なほど優しく語る。


「否定するなら、敵対する覚悟を持つべきよ。敵対するなら、攻撃される覚悟を持つべきよ。優しい顔をしていれば、相手も笑ってくれると思っているのかしら?」

「詭弁だッ! 殺されるほどの事を僕が言ったとしても、何故近衛騎士を切り捨てる必要があった!」

「同じ群れの一員なのだから、狩りの対象になるのは当然でしょう?」


 やれやれ、とでも言いたげに。ベルスレイアは首を横に振る。


「――全く。勘違いも甚だしいわね。善意、努力、理性、友情。そういった人間的な文化を、私も信じていたことがあるけれど。でもね。確実ではないの。そこに何の保証も無いのよ」


 ベルスレイアは笑みを浮かべる。


「よく覚えておきなさい。人間だって、動物なのよ。道理も合理も無く、欲望のまま自分を利する選択をする。自分が理性を尽くしたからといって――相手が理性的に応えてくれるとは限らない。だって人が人を殺すのは、本来自然なことなんだもの」


 言いながら――ベルスレイアは未だ息のある近衛騎士に手を翳す。


 そして、スキル『破壊』の発動。


 近衛騎士は、まるで落下した石膏像のようにひび割れ――砕け、砂になって崩れ落ちる。あたかも最初から人ではなく、砂の人形であったかのように。


「……君は、狂っている」


 サティウスは、ベルスレイアを否定した。だが、やはりベルスレイアには届かない。


「そう思うなら、私を止めてみせなさいな」


 言いながら、ベルスレイアはサティウスに背を向ける。


 そして壁に向かって手を翳し――スキル『破壊』の発動。王宮の壁など、所詮は石。美しく磨かれた頑強な壁であろうとも、ベルスレイアの攻撃力の前では無意味。ひび割れ、砕け、崩れ落ち、砂になって消し飛ぶ。


「行くわよ、ルル。シルフィ。リズを迎えに行くわ」


 ベルスレイアは歩き出す。その背後を、シルフィアとルルが追う。

 三人の姿を――サティウスと、そしてミスティは呆然と眺め、見送ることしか出来ずにいた。

ここまでお読み頂いている皆様は薄々お気付きかと思いますが……ベルスレイアは、決して正義の側の人間ではありません。


前世の死にまつわるトラウマと、今生の恵まれた出自が、彼女の第二の人生を歪ませているわけです。

歪み、狂った道を行くベルスレイア。その先に、何が待ち受けているのか。

どうぞ、これからもお楽しみに。


※追記※


スパロボTが発売したため、少し投稿をお休みします。

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