婚約破棄と計画的逃亡及び強奪 10
スキルの設定を練っていたら、少し遅刻してしまいました。申し訳ありません。
――スキル、覚醒。突如として、その使用方法が理解できたベルスレイア。
そして、これまで使えなかった理由にも納得する。発動条件は著しく高いステータス。そして体内で烝魔素機関のように魔素を凝縮する必要があった。
どちらも、通常はあり得ない。要求ステータスは平均して百を越えており、習得時点では微妙に不足していた。発動できないのも当然のこと。
また、魔素の凝縮など、普通は起こさない。自身の持つ魔法力以上の力を発揮するが、不安定であり、通常使用されない。……自爆覚悟で破壊力を求める場合でも無ければ。
ましてや、ベルスレイアには過剰なまでの高いステータスが備わっている。魔素を凝縮し、わざわざ必要以上に高い破壊力を見せつける必要性が皆無であった。
しかし、今日この時。怒りを抑える意識に釣られ、魔素を無意識の内に凝縮していた。そして、ステータスは覚醒スキル習得時よりも上がっている。
結果、発動条件を偶然にも満たすこととなった。
迷わずベルスレイアは覚醒を発動。すると、体内に凝縮した魔素が割れるような感覚に見舞われる。
そして魔素が身体中に流れると同時に――肉体が反応する。感覚が鋭敏に。血潮の流れが分かるほど鋭くなる。そして魔素は体毛に浸透。頭髪から眉、見えぬ部位にある体毛に至るまで全てが鮮血のような赤に染まる。
覚醒スキルが完全に発動すると、ベルスレイアは血色のドレスと血色の髪、そして血色の烝魔素という禍々しい様相を呈する。
そして――外見の変化に相応しく、ステータスも変化した。
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名前:ベルスレイア・フラウローゼス(Bellsreia Flaurozes)
種族:吸血鬼
職業:天馬騎士
レベル:19
生命力:281
攻撃力:260
魔法力:254
技術力:140
敏捷性:133
防御力:111
抵抗力:126
運命力:155
武器練度:剣S 打槍X 拳S 槍A
魔法練度:闇X 炎S
スキル:精強 灼熱 俊足 広域戦闘
回避 先制 飛剣 獣人特攻
血統 カリスマ 先手必勝 武器節約
根性 自然治癒 孤高 人類特攻
死の呪い 悪運の呪い 血の呪い
新月 魔族特攻 剛闘気 讐闘気
血の解錠 血の翼 魔素操作
覇者の魂 赤い月 収納魔法 血の魔眼
潜影 操影 覚醒 破壊
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覚醒の効果。それは攻撃力と魔法力の倍化。単純な効果だが、ダメージが単純に攻撃力から防御力を引いた数値で決まるこの世界である。LTOに存在していたならば、確実に壊れ性能のスキルである。
その気になれば、一般的なステータスの持ち主など、肉片も残さず吹き飛ばすことが可能な数値。圧倒的な力。これに、ベルスレイアはだが満足しない。
まだ足りない。さらに上があるだろう、と自分に問う。この程度で――人間を消し飛ばす程度では生温い。全ての障害を吹き飛ばす……全能の破壊力こそ、自分に相応しい。と、ベルスレイアは只管願う。
願いが通じた――訳ではなく。覚醒スキルによる攻撃力、及び魔法力の急上昇が、ベルスレイアにさらなる力を齎す。
スキル『破壊』。その発動条件は、攻撃力と魔法力が共に二百を越えていること。
効果は――破壊する。願ったものを。標的に定めたあらゆる存在を。自らの攻撃力及び魔法力が許す限りの全てを、自由自在に破壊する。
攻撃するまでも無く。願うまま、念じるがままに全てを壊す。人であろうが、城の石造りの壁であろうが――例えば相手の発動した魔法やスキルの効果でさえ、破壊する。
視神経を破壊する。味蕾を破壊する。脳を破壊する。脊髄を破壊する。手や足だけを、指の先端を。爪を。歯を。拷問じみた繊細な部位を、望みどおりに破壊する。
――ああ、やっぱり。私こそが、この世界で一番尊いのね。
ベルスレイアには、ただ納得があった。理由など不要。何故そのような、異常と言える力を持つのか。考える必要など一切無い。絶対的な存在であると、自らを信じ、定義する。だからこそ、突如得た力に興奮こそすれども、困惑などあるはずも無かった。
そんな――恍惚とも言える笑みを浮かべ、様相の変わったベルスレイアを、誰もが見ていた。何か恐ろしい、得体の知れない存在が誕生したのを目の当たりにしていた。
何が起こったのか。何が起こるのか。予想もできず、しかし異様な光景から目を離すことも出来ず。サティウス、ミスティ、貴族の面々、国王に至るまで、誰もが言葉を失い、呆然としていた。
ベルスレイアは、間抜け面で身動きも取れずにいる哀れな猿共に語りかける。
「――宣戦布告をしてあげるわ」
その言葉を、誰もが現実感の無いまま聞いていた。どこか遠い場所で響く音のように。物語の中の一節のように。他人事のように、耳を傾けていた。
「今日からお前たちは、この私の敵となる。この私に殺されることを許す。この私に奪われることを許す。苦しみ、絶望し、破滅し、破壊されることを許す」
それは名誉である。ベルスレイアに望まれての事であれば、例え死や絶望が待ち構えていても幸福である。
何故なら、ベルスレイアこそが全てなのだから。ベルスレイアこそが、至高の存在なのだから。
故に――そう考えるからこそ。
ベルスレイアは『逃亡計画』を立てたのだ。
「さあ――始めましょう。小さな小さなこの国の全てと、私の戦争を」
宣言し、ベルスレイアは手を天に掲げる。
そして――魔素を操り、血の魔眼を発動。魔導書を使わず、自在なアレンジを加えた魔法を使える。血の魔眼が持つ効果の一つを、ベルスレイアは行使する。
魔眼が妖しく、赤く光を帯びる。
これに伴い、ベルスレイアの魔法が発動。莫大な魔法力から放たれるのは――炎、及び闇属性の最上位魔法。練度Sに到達して初めて使用可能な魔導書の――威力を高めるアレンジを施したもの。
轟音を立てて、火柱と、闇の龍が螺旋を描き、立ち昇る。城の天井を貫き、轟音を響かせ、辺り一帯を揺らしながら――天を衝く。
強大過ぎる魔法は、雲にも届こうかというほど高く登り、その光と闇は、王都のどこに居ても一目瞭然。
これが――逃亡計画発動の合図である。
この合図と同時に、既に各地へと散らばっている黒薔薇、及び白薔薇が行動を開始する。
――ベルスレイアもまた、同様である。
「まずは、玩具同士で仲良く遊んで貰いましょうか」