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婚約破棄と計画的逃亡及び強奪 09




 いよいよ事情も分かってきたところで、ベルスレイアは考える。この愚か者共に相応しい裁きは何であろうか、と。

 この場に居る全員を皆殺し。という選択も無くはない。だが、それは少々つまらない、とベルスレイアは考えていた。力の差故に、殺すのは容易い。まるで息をするかの如く、この場に留まる羽虫共を殺して回ることが出来るだろう。


 だが、それは娯楽として考えると退屈過ぎる。

 ベルスレイアにとって、敵対者を潰すのはある種の娯楽として成立する。そして娯楽である以上、十分に楽しむべきである。

 ならばひと思いに殺すのは風情が無い。苦しめ、絶望させて、奪う。殺すよりも、むしろ相手の反応を楽しむという意味では、生かしておく方が好都合と言える。


 しかし一方で。殺しておく方が良いという事実もある。

 王国の人間は、間違いなく何らかの企みを隠している。ベルスレイアという存在に関する秘密。そしてリーゼロッテという存在に関する秘密。この二つがある限り、王国が何らかの危険を及ぼす可能性を否定できない。

 自分とその所有物を傷つけられる前に、予め殺しておく。その方が、安全という意味では確実である。


 ――と、ベルスレイアはまだ迷っていたところ。

 当人にとっては最悪なことに……サティウスが、口を開く。


「残念だよ、ベルスレイア」


 その言葉に、ベルスレイアはつい思考に釣られて俯きがちになっていた顔を上げる。


「昔の君は、こうじゃなかった。優しくて、気が効いて、よく話を聴いてくれた。なのに今の君は……獣人差別を憎むあまり、君らしさを失ってしまった」

 その言葉は、ベルスレイアの神経を逆撫でた。

 ――知りもしないものを、よくもまあここまで語れるものね。と、


 さらに、ミスティが告げる。

「ベルスレイアさん。私は、もしも可能なら……同じ獣人差別を嫌う者同士、協力していきたいって私は思っています。だからこそ、話を聴いてくれませんか? サティウスや、他のこの国の人たちの言葉を。差別をする人々の声を。その上で、一緒にこの国を変えていきませんか?」


 ミスティの要求に、ベルスレイアはさらに怒り、感情が昂ぶっていく。一切の理解が無いまま、自分の都合だけで要求を伝える。それは、ベルスレイアが憎む行動の一つ。かつて鈴本清美であった頃に経験した、最も身近な悪意の一つ。


 ――ああ、もう限界。

 ベルスレイアは、口を噤んではいられなかった。


「黙りなさい、愚物共」


 その言葉に意表を突かれたのか。サティウス、そしてミスティは驚愕する。だが、構わずベルスレイアは話し続ける。


「私を楽しませるのも大概にしなさい。黙って聴いていれば下らない御題目ばかり並べて、馬鹿馬鹿しい。この私がお前と協力? 冗談にもならないわ。そしてサティウス。お前のようなゴミに手間を掛けてやったのだから、感謝こそされても批判される理由は無いわ」


 ベルスレイアの語る理屈は、突拍子が無さすぎた。故に、サティウスとミスト――だけでなく。この場に集う貴族の誰もが、理解できなかった。

 誰もが呆気にとられ、反応できない。ベルスレイアは構わず、堂々と語り続ける。


「度し難い。許し難いわ。本当に……限度があるという言葉が相応しいわね。この期に及んで私は、まだ甘いことを考えていたわ。お前たちを生かしておいても良いだろう、と。それも面白いのではないか、と。そうやって、未だに下賤な者共に期待していたと言えるわね」

 言って、ベルスレイアは二人を睨みつける。


「けれど、それをぶち壊してくれたのはお前たち二人よ。これについては感謝するわ。心置きなく――この私を侮辱したクズ二人を裁くことが出来る。お前たちのような、舐め腐った態度のゴミを処分するのに、何の躊躇いもない」

 語りながら、ベルスレイアは感情を開放していく。この瞬間まで、あえて黙って聞いていた。自分を侮辱する者共の言葉を耳に入れた。

 そうして湧き上がった怒りの感情は、今の今まで溜め込んでいた。集めて、凝縮した感情は――爆発的な勢いで、ベルスレイアの脳内を染め上げる。


 憤怒一色。ベルスレイアは、興奮とも快感とも言い難い感覚に包まれていた。

 そして――感情の昂ぶりが、身体にも影響を及ぼす。


 少しずつ、ベルスレイアの身体は魔素を取り込んでいく。身体の内側に溜め込み、そして溜め続けた魔素は烝魔素となって溢れる。この烝魔素は、ベルスレイアの色――血色の暗い赤に染まっていた。


 赤黒い烝魔素の霧が、場に漂う。ベルスレイアの周囲を包む。この時、ベルスレイアは奇妙な感覚に陥った。


 ――覚醒。そのスキルを、今なら使える。そんな直感が働いたのだ。

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