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婚約破棄と計画的逃亡及び強奪 01




 二年の時が経った。ベルスレイア、十四歳。身長も伸び、少女から大人へと近づく、狭間の年頃。まだ幼さを残しながらも、美貌と発育の良い肉体のお陰か、妖しい色香さえ放つ。同世代の少女と比べても遥かに大人びていた。また――遥かに、美しかった。

 人形のような、という評価が正に的確。狙って作り上げたような美しい顔のつくりに、多くの人々が溜息を漏らす。見惚れ、視線と心を奪われる。


 しかし――その美貌を披露する機会はそう多くなかった。


 サティウスとの関係が悪化。その噂は、貴族社会の間で瞬く間に広まった。定期的に開いていた、私的なお茶会が無くなった。それだけの事実があれば十分。サティウスとベルスレイアの不仲説は、もはや公然の事実となっていた。

 当然、不仲どころか殺してやりたいぐらいムカついているベルスレイア。その噂を聞いて憤ることも無く、平然と聞き流す。


 そもそも、噂を訂正する機会すら無かった。


 というのも、ベルスレイアは社交デビュー以来、一度も社交界に顔を出しては居ないのだ。

 特務騎士団の団長としての仕事で、限られた貴族と顔を合わせる機会はあった。だが、そうした貴族が社交の催しを開いても、ベルスレイアは参加しなかった。


 これもまた、ベルスレイアからすれば当然のこと。単に、この国の全ての貴族を見限っているだけに過ぎない。

 社交デビューの日。多くの貴族が居たにも関わらず、誰一人として味方しなかった。ベルスレイアの専属侍女が獣人であることに、不快感を示していた。たとえ理由があろうとも、それは不敬である。ベルスレイアの所有物を敬わぬ者は、皆等しく無価値。

 だから、社交界には顔を出さない。無価値な者に付き合う必要は無い。


 それでも特務騎士団としての仕事を続けていたのは、黒薔薇という組織の維持に利用できるからである。王国から資金と備品を得て、任務の対価として報酬を得る。金は貴族の命より重い。故に、ベルスレイアは団長として働いていたわけである。


 そうした二年の間も、ベルスレイアは諜報活動を続けていた。夜になれば操影にて闇を肌に纏い、潜影を駆使しつつ王都を駆け抜けた。

 そして様々な情報を得ることには成功したが――結局、出生の秘密については何一つ分からなかった。リズに関する情報も、何一つ出てこなかった。


 さすがにこれはおかしい、とベルスレイアは感じていた。


 確かに、ベルスレイアでも捜索不可能な場所はある。何らかの魔法、あるいはスキルの影響か。王城の深部の一部は、潜影や操影を駆使しても侵入できない。血の魔眼を使っても中を覗けない。

 そうした場所に隠された情報が、ベルスレイアの目に付かないというのであれば、それは仕方のないことである。


 しかし、二年だ。二年もの間、あらゆる情報をそうした捜索不可能領域に押し込めることは可能だろうか? もしも可能だとして、実行するメリットがあるだろうか?

 どちらも否。


 通常、秘密は人が共有するものである。個人的な秘密でもない限り、人と人の間で情報は必ず飛び交う。つまり、ベルスレイアの目に見える場所に出てくるはずなのだ。

 だが、二年の間、ベルスレイアはそうした人と人の間で共有される秘密の中にさえ、目当てとする情報を見つけられなかった。


 だとすれば。全ての情報は捜索不可能領域に封じ込められており、人と人との情報共有でさえ、そういった限定された場所でのみ行われていたことになる。

 実際のところ、そこまでして隠蔽する意味が分からない。情報を隠すのであれば、別にベルスレイアの捜索不可能領域に限定する必要はない。魔法で厳重に警戒された場所での密会。強固な金庫に仕舞った重要書類。その程度の警戒レベルがあれば、秘密は十分に守られる。


 にもかかわらず、情報は一切表に出てこない。ベルスレイアとリーゼロッテに関するあらゆる情報が、捜索不可能領域に押し込められている。


 そんなことが、ありうるのだろうか?


 ベルスレイアは王国に対する不信感を高める。

 何故なら――そこまでして情報を隠す。それはつまり、最初からベルスレイアに潜影、操影、血の魔眼に相当する捜索能力が備わることを警戒していた、ということに他ならないのだから。


 身内にさえ、全容を明かしていないスキル。その性能を、スキルを獲得する以前から予想し、警戒していた。それはあまりにも――ベルスレイアにとって、不愉快であった。クズ共に自分の一部でも理解されていると思うと虫酸が走る。何より、敵に正確な情報を掴まれているというのはそれだけで危険である。


 となれば、これ以上捜索を続けるのは得策ではない。


 王国は、対ベルスレイアを警戒して情報隠蔽を続けている。そのような相手の懐に拠点を構えたまま、いつまでも不毛な捜索を続けるのは危険。いずれ王国が牙を剥くとも分からぬ状況で、のうのうと屋敷に居座るわけにもいかない。


 何も分かってはいないけれど――もう、潮時かもしれないわね。


 と、ベルスレイアはいよいよ、王国に見切りをつけ始めていた。

いよいよ、ようやく、婚約破棄に向けて話が動き出します。

とは言うものの、やはり話の進みは遅いのでまだまだ時間はかかりますが。

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