運命との邂逅 08
シルフィアとベルスレイアが抱き合い、一件落着。――と、いうわけではない。
ルルは二人の話に決着がついたのを見て、話を切り出す。
「それにしても、ベル様が初対面の相手にそこまで入れ込むなんて、不思議なこともあるもんなんだね」
そのことに、ベルスレイアも反応する。
「あら、それを言えば貴女のことも、シルフィアのことも初対面からかなり入れ込んでいたつもりよ?」
「かもしれないけどさ。にしても、程度が違いすぎるでしょ?」
言われてみれば、とベルスレイアは思い返す。初対面から、リーゼロッテを天使か何かだと思っていた。この世にこれほど美しいものは、自分を除けば二つと無いだろう、とさえ思った。圧倒された、と言っても良い。
そこまでの衝動を初対面の人間に覚える。これは、前世の鈴本清美であった頃も含めて初めてである。
「確かに……私としても、自分のことがちょっと分からないぐらいだわ」
なぜ、それほどリーゼロッテに入れ込んでしまったのか。考えてみれば、理由に一切思い至らない。
美しい女性が好きだという可能性を考えてみる。ベルスレイアは自分を美しい女性だと思っている。故に美しい女性のこともまた好きである。
だが、リーゼロッテよりも自分の方が美しいとも思っている。故に、リーゼロッテに心酔するのはおかしい。美しいものに心酔するなら、鏡を見ただけで発狂しているはずだからだ。
ならば、他の何かが原因か。例えば、リーゼロッテのスキル。不幸と幸運。あるいは、聖女という職業の特色か。聖女と吸血鬼の関係というのは、LTOというゲームでも特に明言されては居なかった。つまり、何らかの特殊な事情があっても不思議ではない。
「原因は色々考えられるけれど……断定はしかねるわね」
「案外、実は生き別れの姉妹とか、そういう理由だったりしませんかね」
シルフィアが能天気に、安易な想像を口にする。ベルスレイアが特別視するなら、ベルスレイアに限りなく近い存在――つまり血縁者であろう、という発想である。
これを、ベルスレイアはため息を付いてから否定する。
「髪も瞳の色も違うわよ。というか、いつ生き別れるの?」
「さあ、そこまでは」
「もう、おバカ」
これで粗相一つ。夜のご褒美が増えるため、シルフィアは少し喜んでいる。
シルフィアの突飛な想像はともかく。可能性として、血縁関係というのもありうる。というのも、ベルスレイアはLTOの頃から吸血鬼にある設定のことを思い出していた。
吸血鬼は血の匂いに敏感であり、その関係で同族、特に血縁の近い者を見分ける能力が高い。そのため、近親者同士での仲間意識が極めて高い種族である。
とまあ――ほぼ設定として存在するだけの設定があった。これを、ベルスレイアはシルフィアの発言をきっかけに思い出していた。
だが、即座にこれを否定。思えば、他ならぬ父親たるルーデウスを見て何も思わない。であれば、吸血鬼が近親者に特別な意識を持つ説は否定される。
吸血鬼でないルーデウスが適用範囲の外であるとか、そうした可能性もある。故に、全く無いとまでは言わない。だが、可能性が極めて低いというのは間違いないことである。
ベルスレイアはリーゼロッテが近親者である説を頭の隅に追いやる。それよりは、未知のスキルである幸運と不運。そして聖女という職業が影響している可能性から探った方が良さそうである。
「……今日もリズに会いに行くわ。その時に、いろいろ訊いてみるわね」
何にせよ、これから毎日リーゼロッテと会うことになる。原因を探るのは、いくらでも可能なように思えた。
「リーゼロッテ様に、あたし達のこともご紹介しといてよね?」
「分かっているわ、ルル。それに、そろそろ私の話ばかりではリズも退屈するころだもの。貴女たちを話の種にさせてもらうわ」
だって私の、自慢の所有物だもの。その一言を、ベルスレイアは最後に付け加えた。