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運命との邂逅 06




 怒りに震えながらも、ベルスレイアはリーゼロッテを抱きしめる。

「ずっと一人だったのね。可哀想に。寂しかったでしょう?」


「寂しい……? 言われてみると、昔はそうだった気もします」

 ところが、リーゼロッテからは拍子抜けするような答えが返ってくる。

「寂しさよりも、退屈の方が辛かったかもしれません。でも、それもあまり気になりませんよ。じっと黙って、座ったままで、空気が震えるのを感じるんです。そうやっていると時間なんてすぐ過ぎていきます。だから、平気です」


 ベルスレイアは、尚更憐れむ。寂しい、退屈と言った感情が壊れるほどの孤独。それがどれほどのものか、想像もつかない。

 そして――想像を絶する孤独にリーゼロッテを追い込んだサンクトブルグという国を、尚更憎む。外道の国。今まで遊び相手に選んでやったことを後悔する。

 出生の秘密について調べがついたら、すぐにでも国を捨て、どこかへ旅立とう。そんなことさえ考える。


 しかし、今は出来ない。ベルスレイアは、まだ自分という存在に関わる秘密について、何も分かっていない。出生の謎を追う間、サンクトブルグに縛られてしまう。

 仕方無い事とは言え、不服であった。


 だからせめて、リーゼロッテのことは気にかけてやろう。そう思い、話を続ける。

「リズ。私ね、貴女のことが好きよ。大切に思っているわ」

「まあ。ベルもそうなんですね。私も、ベルが大好き」

 儚げな笑みを浮かべ悦ぶリーゼロッテ。この笑顔に、ベルスレイアはくらりとする。まるで酔っ払ったような感覚。正体不明の衝動。言葉にするなら――凡百の、愛だ何だという話になるであろう。


 だが、自己愛をこじらせたベルスレイアに、そうした素直さは無縁である。故にリーゼロッテへの無償の好意を、自己愛の延長線上として解釈する。自分のように尊く思える人。それは自分同然の存在と言える。つまりリーゼロッテはベルスレイア。そしてベルスレイアはリーゼロッテ。

 そう解釈することで、ベルスレイアはどうにか自分の心に沸き立つ衝動を受け入れた。


「明日も来るわ。必ず来る。だからリズ。もう、退屈しなくていいのよ」

「本当ですか? それは、素敵ですね。――私、ベルがここに居てくれるだけで幸せ。世界が輝いて見えるんです。だから、本当なら、ずっと隣に居て欲しい」

 我儘とも取れる言葉を、リーゼロッテはベルスレイアに告げる。それが、幽閉され続け心の擦り切れた少女の、なけなしの欲望であった。


 可能なら、ベルスレイアだってそうしたい。リーゼロッテを連れ出して、屋敷に住まわせてやりたい。

 だが、さすがに不可能な話だ。塔に侵入し、会話を楽しむ分には問題ない。だがリーゼロッテを連れ出したともなれば、さすがに国も異常に気付く。

 まだ、この国と敵対するわけにはいかない。自分に関わる秘密を暴くまでは、穏便に活動する必要がある。


「私も、リズとずっと一緒に居たい。でもね、リズ。さすがにそれは難しいの」

「そうですか……ごめんなさい、ベル。私、我儘を言ってしまいましたね」

 しゅん、と悲しげな表情を浮かべ反省するリズ。

 ああ、どうしてなの。貴女は何も悪くないのに。悪いのは全部、私と貴女以外の見知らぬクズ共なのに。ベルスレイアは溢れそうになった言葉を、ぐっと堪えて胸に秘める。


 代わりに、リーゼロッテを慰めるようなことを言う。

「我儘を言ってくれた方が嬉しいわ。だって、私はリズが好きだもの。リズの我儘は、私の我儘。リズがやりたいことをやれば、それは私がやりたいことをやったのと同じ。だから、貴女はどんな身勝手なことを言ってもいいわ。貴女が私に我儘を言ってくれた分だけ、私も幸せになれるんですもの」

 その言葉を聞いて、リーゼロッテは驚く。そして、すぐに微笑みに変わる。


「嬉しい。私がいるだけで、ベルは幸せになってくれるのね。こんなにも素敵なことは他にありません。貴女が幸せだと言うなら、私も幸せ。だから――私に奇跡を、光を見せてくれた貴女に、私は全てを捧げましょう」

 そう言って――リーゼロッテは、ベルスレイアの額にキスをした。


「嬉しいわ、リズ。お礼に貴女の全てを、この私が貰ってあげるわね」

 そしてベルスレイアもまた。返礼のように、リーゼロッテの首筋に吸い付く。キスをして、吸って、痕を付ける。吸血鬼らしく、歯をうっすら突き立て、浅い傷を付ける。


 ベルスレイアが離れると、リズは感慨深げにキスの痕を擦る。

「――本当に、ベルに支配されちゃったみたいです。なんだか、とっても幸せ」

 そう言って、微笑むリーゼロッテ。


 ああ、この笑顔が見たかった。もっと見ていたい。これからも、貴女が笑っていられるようにしてあげたい。私の全ての力で、貴女を幸せにすると誓うわ。

 と――ベルスレイアは、すっかりリーゼロッテの虜となっていた。

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