素晴らしき友情 04
「――さて、それじゃあ清美のことは親友の英美里さんに任せるとして。私たちは文句の一つでも言いに行きましょうか」
雪菜の提案に、薫と美緒は首を傾げる。
「文句って、どこに?」
「私たちのクラスは、明日の朝礼の前にでも言いましょう。まずはよそのクラスからね」
「ほ、本当に行くんですか?」
「当たり前よ。清美の為よ?」
雪菜が清美を引き合いに出すと、もう薫も美緒も文句は言わなかった。
「じゃあ、行ってくるわ。ちょっとだけ待っててね」
最後に雪菜が言って、その部屋――清美たちが学校で集う為にいつも利用している空き教室から離れていく。
そうして二人きりになった途端、英美里の態度が豹変した。
「おい清美。今はどんな気持ちだよ」
ニヤニヤと、嫌味っぽく笑いながら告げる英美里。
「上手いこと誘導できたみたいで安心してるよ。アタシが悪口を言わなくたってなぁ、所詮どいつもこいつも本当はカスばっかりだ。ちょっと誘導してやったら、お前に不満を持つようになってくれたよ。後は放置してるうちに、悪意は勝手に広がって、でかくなって、収拾がつかなくなる」
清美は、これでようやく理解した。全ては英美里の策略だったのだ、と。クラスメイトの間で流れる噂は、英美里が誘導した結果なのだ、と。
つまり自分を抱きしめてくれる、この腕の暖かさも嘘。
「なんとか言えよ、清美」
英美里は問い詰める。抱きしめられたまま――清美は答える。
「……大丈夫。私は、平気だよ」
やはり、清美は変わらない。
「たとえ嘘でも、私を貶めるためでも……英美里は上辺だけでも演じてくれるなら、私を守ってくれるでしょ? だったら、守ってくれることだけでも本当なら、私は平気。幸せだよ」
「――チッ」
清美の答えに、英美里は心底苛立った様子で舌打ちする。
そして清美を抱きしめたまま――英美里は、清美の耳元でささやく。
「いい加減にしやがれよ、良い子ぶりやがって」
「そんなつもり、私にはないよ?」
清美は、笑みを浮かべたまま英美里に答える。
だが――英美里も、今回ばかりは安々とは引き下がらない。
「調子に乗ってんじゃねえぞ。アタシを騙せてるとでも思ってんのか?」
英美里は、声に凄みを乗せて言う。
「こっちは根っからのクズやってんだよ。テメエのお友達を騙すのもワケねえぐらいだ。人の面の皮ぐらい見分けもつく。……清美、テメエの面の皮はくせぇ。上品ぶった臭いがぷんぷんしやがる」
英美里の言葉に、清美の表情が少しばかり強ばる。
「アタシには分かる。テメエの本質は善人なんかじゃねぇ。邪悪邪道の畜生外道だ。アタシとおんなじだよ。優しさなんかじゃねえ。テメエってやつは、不愉快なぐらい善人臭い皮を被って、その下のどうしようもねえ本性を隠してやがる」
清美は、すでに笑っていなかった。
「そうだよ、清美。その顔だよ。そういう皮の下のテメエの本性を晒してやりたくて、アタシはこんなことやってんだ」
言われて、清美は自分が無表情になっていた事に気付く。慌てて――というふうには全く見えない自然な仕草で、笑顔を取り繕う。
「もお。何言ってるの、英美里ちゃん? 私は、そんな悪い人じゃないよ。普通の、できればみんなと仲良くして優しくなりたいだけのなんでもない人間」
そう語る清美の表情は、普段と何の変わりもない笑顔だった。
そして、その日を境に清美は変わった。
まるで人付き合いを恐れるかのように――他人を避けるようになった。