運命との邂逅 04
リーゼロッテの居た尖塔から屋敷へと帰還したベルスレイア。興奮冷めやらぬまま、就寝した。
翌日になっても、頭からはリーゼロッテのことが離れなかった。
直感的に、本能的に感じる。リーゼロッテは尊い存在である。自分と並ぶ――あるいは、自分よりも素晴らしき敬うべき存在である。と、ベルスレイアは感じていた。
何故、という疑問が浮かぶ。どうして初対面の少女を、そこまで想うのか。いくら美しいからと言っても、限度がある。
ましてや、ベルスレイアは自他ともに認める自己愛主義者だ。リーゼロッテを尊い、と感じること事態があり得なかった。
何よりも――ベルスレイアは、リーゼロッテを所有物にしようと思わなかった。美しいものは自分のもの。本来のベルスレイアならそう考えるはずであった。なのに、リーゼロッテに関しては何も思わない。ただあるがままを愛でる他無かった。所有する、という行為が烏滸がましく思えた。
彼女は、何者なのか。ベルスレイアは、そこを一日中気にし続けていた。
だが同時に――そんな些細なことはどうでもいい、とも考えていた。
結局の所、大事なのは自分。よって、リーゼロッテを尊いと思う自分もまた肯定すべきである。
つまり悩むこと、考えること自体が無意味。全てはあるがままに。自分は尊い。リズも尊い。それでいいじゃないの。と、ベルスレイアは考えている。
そもそも、考えた所で答えは出ない。何より、分からなければ聞けば良い。――本人が、尖塔に居るのだから。
ベルスレイアは、詳しい事情を問い詰めようと決意した。
そして、夜。ベルスレイアは屋敷を抜け出し、再び噂の尖塔へと向かった。リーゼロッテの待つ場所へと。
「――ようこそ、ベル。また来てくれたんですね」
リーゼロッテは、静かに、淡く微笑んだ。
これだ。この笑顔が見たかったのだ。この人の笑う姿を見ていたい。もっとこの人に笑って欲しい。幸せにしてあげたい。
ベルスレイアの胸中に、慈愛の心が湧き上がる。
抱きしめたいという衝動を押さえ込む。そして、肝心な話題を言葉にする。
「ああ。会いたかったわ、リズ」
いや。出来なかった。
「私も、ベルがまた来てくれることを今か今かと待っていました」
「嬉しいわ。そんなにも、想っていてくれるなんて」
「当然です。私にとって、ベルは唯一の光。奇跡の人ですから」
リーゼロッテは言いながら、ベルスレイアに歩み寄る。そして自然と、ベルスレイアに抱きついた。これを、ベルスレイアも抱き締めて支える。結局、お互いに抱き合う格好になった。
「私を奇跡の人、と呼んでくれるのは嬉しいわね。でも、それはどういう意味かしら」
ベルスレイアは、話を本題に移そうとする。切り口として、リーゼロッテの言葉を話題に上げた。
「私、この部屋にずっと閉じ込められていたんです。時折誰かが来て、実験と称して何か細々としたことを手伝わされましたけど。それ以外は、ずっと、何もないこの部屋に閉じこもっていました」
リーゼロッテは、理由を詳細に語った。
「そんなある日、貴女は空から舞い降りた。私にとって、貴女は退屈な日々を破壊する奇跡の人。ただ存在するだけの日々を壊した、愛おしき破壊者。だからベル。貴女は私にとって、敬愛すべき奇跡の人なんです」
語りながら、リーゼロッテは頭をベルスレイアの胸元に預ける。十二歳のベルスレイアでは身長が足りない。そのため、リーゼロッテが腰を曲げ、しゃがむ格好になっていた。
そんなリーゼロッテを、ベルスレイアは慰めるように抱く。頭を撫で、慈しむ。
同時に、事情について考える。予測するに、リーゼロッテは特殊な立場の人間。表に出せない何らかの問題を抱えている。そのため、こんな閉鎖的な場所に幽閉されている。
ここまで考えて、ベルスレイアは気付く。そもそも、魔眼でステータスを確認すれば良い。種族や職業、名前、各種ステータス。これらが分かれば、リーゼロッテの抱える事情についての手がかりになる。あるいは、一目瞭然の何か大きな問題が見えてくるかもしれない。
そこで、ベルスレイアは魔眼に魔素を流す。リーゼロッテのステータスを確認した。
そして――絶句する。