運命との邂逅 03
ベルスレイアは、言葉を失った。
それは――眼の前の少女に見とれていたからに他ならない。
年の頃は、十七か、十八。生前の鈴本清美と同世代程度に見える。だが、外見に不相応なほど表情は大人びていた。老成している、とさえ表現できるであろう。異様なまでに落ち着きを保つ少女。だが流石に、黒ずくめの侵入者、ベルスレイアに対しては僅かばかり驚きを見せていた。
その、異様なまでに大人びた少女を、ベルスレイアは見つめる他無かった。気配を察知できなかったことなど、最早関係ない。
美しい。尊い。愛おしい。あらゆる感情が溢れ出す。彼女は尊ぶべき存在である、と本能が訴える。自分本位なベルスレイアの意識を、ガンガン殴るように。
己の気質とあまりにも矛盾した命令が下り、身体が硬直して動けない。変な緊張がベルスレイアの身体を支配していた。
一方で、少女もまた動かなかった。まるで何かを品定めするかのように。ベルスレイアをじっくり、頭の天辺からつま先まで順に観察する。
そしてベルスレイアの全身を隅々まで観察した後、また視線を重ねる。ベルスレイアの瞳を見つめながら、口を開く。だが何かを言う前に口を閉じる。これを、何度も繰り返す。
二人が揃って、緊張していた。ベルスレイアは絶世の美少女を相手に。少女は謎の侵入者を相手に。
だが、互いに同じことを悟っていた。
この人は敵じゃない。むしろ、きっと自分以上に大切な存在だろう、と。
「……あの、お名前は?」
金髪碧眼の少女が問いを発した。
「――私は、ベルスレイア。ベルスレイア・フラウローゼス。貴女は?」
「私は、リーゼロッテ。リーゼロッテ・クルエリア」
互いに名前を教え合う。
「なら、貴女をリズと呼んでいいかしら?」
「はい。私も、貴女をベルとお呼びしてもいいでしょうか?」
「もちろんよ」
互いに愛称で呼ぶことを認め合う。
そのまま、二人は自然と歩み寄る。手を繋ぎ、指を絡める。お互いの瞳を見つめながら、何も言わずに寄り添う。
二人はそのまま、無言の時間を過ごす。言葉を発しようとして、けれど失敗する。何を言えばいいのか分からない。それよりも、こうしていたい。触れ合っていたい。本能の赴くまま、互いを感じる距離で見つめ合う。
一方は金髪碧眼に、白いドレス姿の天使のような少女。もう一方は黒髪に赤い瞳、身体を闇で覆った悪魔のような少女。まるで対比する為に作られたような二人は、お互いのことが気になって仕方がない。
しかし、やはり何も言葉を発することが出来ない。緊張、そして興奮。二つの感情が、言葉を紡ぐ邪魔となっていた。
――結局、二人は一時間ほど見つめ合っていた。何も言わぬまま、二人だけの時間を過ごした。
やがて時間を使いすぎた、とベルスレイアが気づいた時。ようやく二人は距離を離す。
「……また来るわ」
ベルスレイアは、それだけを伝える。
「はい。お待ちしています」
リーゼロッテは、静かに笑み、応えた。
こうして、二人の初対面は終わった。
この日――ベルスレイアは『運命』と出会ったのであった。