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運命との邂逅 01




 未知のスキルに目覚めたベルスレイア。その力を検証する日々が始まった。


 最初に性能の確認が成功したのは潜影のスキルである。奇妙なことに、ベルスレイアは潜影の発動に必要な『部位』を直感的に感じ取ることが出来た。前頭葉より少し内側の脳付近。ここに意識して魔素を集めると、暗い空間に溶け込むことが出来た。


 空間に溶け込む、という表現は正確であった。実際、潜影最中のベルスレイアは肉体が溶けて薄く広がるような感覚があった。

 視覚は無いが、血の魔眼で周囲を見ることは可能だった。そして、移動は滑るような動きとなった。空間に溶け、肉体が消えている以上は当然の挙動である。


 また、溶け込んだ空間が単に暗い空間そのものでは無いこともわかった。性質的には収納魔法に近い。現実の空間と、薄皮一枚ほどの距離を隔てた場所にある空間に、暗い場所を扉にして入り込む。というのが、潜影の実態に近かった。


 この潜影というスキルにより、ベルスレイアの行動はさらに自由となった。暗い場所であれば、間に壁を隔てていても関係無い。つまり潜影は自在に闇を滑り、移動することが可能。

 これにより、ベルスレイアが入り込めない場所など存在しないも同然となった。一切影の存在しない場所など無い。むしろ、秘密がある場所ほど光が当たらず、暗いと相場は決まっている。


 お蔭で、ベルスレイアはフラウローゼス家の地下に隠された財産を発見することが出来た。ルーデウスの隠し財産であろう、と推測される。手は付けない。無論、見つけたベルスレイアに所有権が移るのは当人にとって当然の摂理。金銀財宝を無断で持ち出すことに何のためらいも無い。だが、今は不要である。

 何よりも。地下に置きっぱなしにしておけば、ルーデウスが勝手に財産を増やしてくれもする。便利なのだ。


 なお、ベルスレイアはルーデウスの私室にも忍び込んだ。結果、ベッドの下から熟女モノの春画を発見してしまった。

 翌日、ベルスレイアはいつもよりキツイ態度でルーデウスに当たった。理由も分からず、ルーデウスはとにかく怯えるばかりであった。


 屋敷の隅々まで探索を済ませたベルスレイアは、続いて屋敷の外に目を向けた。貴族に限らず、あらゆる者の秘密を暴く。潜影を使い、密偵ごっこで遊んだ。



 潜影の操作に慣れてきた頃には、操影の使い方も理解していた。


 潜影と操影は、名前とは裏腹に無関係な別々のスキルであった。潜影は、言うなれば自分を入れられる収納魔法。一方で、操影は単なる攻撃魔法に近いスキルであった。

 魔法陣の代わりに、潜影と同様の発動条件が存在する。条件を満たした時、魔素で影を実体化。つまり、暗黒物質を生み出す。

 生み出された暗黒物質は手足のように動かすことが可能。形状も鞭や鈍器、刃物のように様々な形態を取れる。


 力を込めて殴れば攻撃が出来る。力を込めなければ、第三、第四の手足となって器用な作業が可能。鍵穴のような狭い穴をくぐり、その先へ入り込むことも可能。

 俗に言う、スライムのような存在である。


 そうした性質から、操影もまたベルスレイアの密偵ごっこの役に立った。手の届かぬ狭い場所から物を拝借する時。見張り等を一時的に縛り上げ、無力化する時。

 何よりも――自らの姿を隠す時。


 潜影中のベルスレイアは人に見つかる心配が無い。だが、潜影解除後は当然生身の人間。色白の美しい肌は人目に付きやすい。

 そこで対策として、ベルスレイアは操影を身に纏うという選択を取った。布よりも薄く、全身に操影を張り巡らせる。こうすることで、肌の白さを隠した。顔を覆うことで、顔立ちも隠した。光を跳ね返さない、闇に紛れる衣。これ以上に、隠密行動にふさわしい服は無かった。


 そのため――密偵ごっこに慣れてきたベルスレイアは、一切の服を身に纏わないようになった。全裸であれば、全身を操影で隠すことが出来る。服が邪魔になることも無く、身軽である。

 実際は全裸、という点を除けば完璧な隠密服であった。



 そうして、実質全裸の隠密として貴族街を暗躍するのがベルスレイアの日課となりつつあった頃。ついに、ベルスレイアは有力な情報を耳にする。


 ――王城の、ある一角に立つ尖塔。その頂上は立入禁止となっており、何人たりとも近寄れないようになっている。出入り口さえ存在しない、奇妙な場所。

 そこに、何か王家の重大な秘密が隠されている、という噂であった。


 最初は、ベルスレイアも単なる噂としてまともに聞き入れなかった。だが、複数の貴族の間で、いくつも同じ情報が確認された。詳細まで一致する、謎の尖塔に関する話。それが複数ベルスレイアの耳に届いた頃には、既に確信していた。

 噂の尖塔には、何かが隠されている。


 もしかしたら――私に関係のある秘密かもしれないわね。

 そんなことを思いながら、ベルスレイアは噂の尖塔へ忍び込む計画を立て始めた。

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