専属侍女ルルとの出会い 20
ベルスレイアが立ち去った後の、パーティー会場にて。
パーティーを仕切っていたのは白薔薇である。故に、尊きベルスレイアを侮辱した貴族に対して気遣うことは無い。ベルスレイアの居ないパーティーは、終了したも同然。次々と、追いやるようにして参加者に帰るよう促した。
三十分ほどで、会場からは白薔薇以外の人影は無くなった。パーティーは解散となった。
だが――フラウローゼスの屋敷の前。未だに帰らず、話し込む者の姿があった。
カイウス・エゼルバイン大公。そして、向かい合うのはフラウローゼス家当主、ルーデウス。
「……手綱を握れていない、という噂は本当だったようだな」
カイウスの責めるような口調がルーデウスに突き刺さる。
だが、ルーデウスはまるで恐れる様子も無く受け応える。
「仕方が無かったのです、カイウス様。あれは制御可能な知的生物ではありません。本能のまま敵を選び、噛み付く。犬や狼のような存在です」
ルーデウスはベルスレイアが居ないのをいいことに、でかい口を叩く。
なお、ベルスレイアはルーデウスとカイウスの密会の現場については監視している。だが、会話までは聞き取れていない。見ることしか出来ない、血の魔眼の性能限界である。
「まあよい。王家はお前にも、アレにも甘い。暴力装置にしつけは不要、というのが今の王家の方針だからな。我らを侮るあの態度も、単に飼い犬がうるさく吠えているだけに過ぎぬ」
「は。おっしゃる通りにございます」
カイウスも、ルーデウスもベルスレイアを卑下する。この会話をベルスレイアが耳にしていれば、秒と待たずに二人を肉片に変えていることだろう。
「……だが、ものには限度というものがある。犬に人を敬えとは言わぬ。しかし、飼い主を見て吠える犬を飼う物好きはそう居ない。王家はその物好きであり、我ら大多数はそうでないということ、理解できるな?」
「重々承知しておりますとも、カイウス様」
「ならば話は早い。アレにはもう、期待するべきではない」
期待するべきではない。その言葉に、ルーデウスが表情を固くする。
「……処分する、という意味でしょうか?」
「いや。それには準備が必要だ。それに、王家の了承も得ねば我々の立場がまずい。――とはいえ、将来的には処分の方向で話を進めるつもりだ」
処分、という言葉が冷たく響く。その言葉がベルスレイアに向いていること。処分という言葉が出てきたこと。どちらも、魔眼でしか事態を観察できないベルスレイアは知る由も無い。
「ともかく、今後の方針は私に任せてもらおう、お主への指示は、追って連絡を寄越す」
「はい。カイウス様のお望み通りに」
ルーデウスは深く頭をさげる。こうして、二人の密談は終了した。カイウスは馬車にのり、フラウローゼス家を後にした。
――密談の現場を盗み見ていたベルスレイアは頭を抱える。
「あぁ……なんだか、面倒なことが起きそうな予感がするわ」
既に、私室にはベルスレイア一人である。誰に聞かせるでもない。鬱憤晴らしにため息と共にぼやくベルスレイア。
「まあ、私ぐらいのステータスがあれば、何が起こっても大抵の場合は楽勝でしょうけれど」
言って、ベルスレイアは血の魔眼で自らのステータスを確認する。
「……あら?」
そして、異変に気づく。
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名前:ベルスレイア・フラウローゼス(Bellsreia Flaurozes)
種族:吸血鬼
職業:呪術師
レベル:16
生命力:238
攻撃力:115
魔法力:102
技術力:120
敏捷性:108
防御力:95
抵抗力:101
運命力:133
武器練度:剣S 打槍X 拳S
魔法練度:闇X 炎S
スキル:精強 灼熱 剛闘気 讐闘気
回避 先制 飛剣 獣人特攻
血統 カリスマ 先手必勝 武器節約
根性 自然治癒 孤高 人類特攻
呪い 悪運の呪い 血の呪い
血の解錠 血の翼 魔素操作
覇者の魂 赤い月 収納魔法 血の魔眼
潜影 操影 覚醒 破壊
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一瞬見た限りでは、異変には気づかない。
だが、ベルスレイアは確かに異変に気づいた。スキルの欄に、覚えの無いものが増えているのだ。それも、四つものスキルである。
その名も『潜影』『操影』『覚醒』『破壊』の四つ。
しかもこの四つのスキルは――LTOにも存在しなかった、未知のスキルであった。
「未知の力に目覚めるのはいいけれど。私だものね。……ただ、使い方も効果も分からないのは不便だわ」
ベルスレイアは一人言を呟きながら、魔眼の力を集中する。
ステータスの、さらにスキル一つに集中する。こうすることで、魔眼がある程度のスキルの効果を解析してくれる。今まで良く見知ったスキルしか習得していない為、使ってこなかった機能である。
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潜影:一定以上に暗い空間、あるいは周囲より暗い空間の中に溶け込み、自在に移動する。
操影:魔素操作で潜影可能な空間を実体のある影に変え、操作する。
覚醒:自らの本来の力を開放し、濃密な魔素を纏い、発するようになる。
破壊:破壊する。
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「……なにこれ?」
ベルスレイアは、つい声を上げてしまった。
潜影、操影については辛うじて理解できる。おおよそ、言葉通りの効果。影に潜り、影を操るスキル。何故このスキルに目覚めたかはともかく、使い方は分かる。
だが、覚醒と破壊については謎が多い。
本来の力を開放する、という覚醒のスキル。だが、その本来の力とは何なのか。そもそも、濃密な魔素を纏い発するとはどのような状況なのか。魔眼による解析だけでは、具体的な効果が何一つ分からない。
極めつけは破壊というスキル。効果は『破壊する』という一言のみ。何をどのように、どうやって破壊するのかが一切不明である。
「……まあ、いいわ。今日は疲れちゃったもの。明日考えましょう」
ベルスレイアは、考えるのをやめた。ひとまず、頭を休める。未知のスキルについては、万全の体調で性能を確認する。
そうと決まれば話は早い。ベルスレイアはベッドに潜り込む。目を閉じると、すぐに眠気はやってきた。怒りは脳を疲労させる。お蔭でこの日、ベルスレイアは快眠を貪ることが出来るのであった。