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専属侍女ルルとの出会い 16




 パーティー当日。ベルスレイアの誕生パーティーは、本人の希望で夜会である。日も沈んだ頃になって、フラウローゼス家に次々と馬車が到着する。

 そうして訪れた貴族の群れといちいち挨拶を交わすベルスレイア。つまらぬ時間である。


「お噂はかねがね聞き及んでおります、フラウローゼス令嬢」

 また一人。つまらない顔立ち。つまらない身なり。つまらない挨拶を口にする男がベルスレイアの前に現れる。


 誰だよお前。と内心で思いつつ。ベルスレイアはよそ行きの仮面を被る。

「うふふ。光栄でございます」

 名前が出てこない為、ベルスレイアは無難な言葉しか返さない。


 そこで、隣に控える専属侍女の出番である。

「……カスタル伯爵。パーティーで出すワインの産地を治める領主様です」

 ルルは小さな声で――それこそベルスレイアにしか聞き取れない程度の声で呟く。しかも唇を動かさない。傍目に見れば、喋っていることなど分からないほどである。


 そんなルルの甲斐甲斐しいフォローもあり。ベルスレイアは男に対し、ふさわしい社交辞令を思いつく。

「時に、カスタル様。ご領地で生産なさっているワインの調子はいかがですか?」

「ええ、今年は良い葡萄が採れましてな。しかし収穫量は例年ほどでは無く、生産量自体は少なくなる見込みですな」


「まあ、それは大変ですこと。貴重なワインがよそに買われてしまう前に、フラウローゼス家で買い取っておかなければなりませんわね」

「ははは。フラウローゼスでご愛飲頂けるのでしたら、多少の融通は効かせましょう」

 カスタル伯爵は嬉しそうに、快活に笑う。

「今年の葡萄がワインになる頃には、酒を楽しめる年齢になっておられるでしょう。どうぞ、その日をお楽しみにお待ち下さい」


「ええ。今から楽しみにしております。今日だって、無理を言ってワインの味見を出来ないかとメイドを困らせてしまったほどです」

 ベルスレイアは社交辞令を重ねる。正直に言って、ベルスレイアはワインは好みではない。味覚は子供である為、甘ったるい果実酒を好む。

 だが、正直に教えてやる義理など無い。こうした場では、いい気にさせて調子づかせるに限る。特に男なんぞ、騙してこそである。


 こうしてまた一人、ベルスレイアの仮面の笑顔に気を良くした愚か者が会場入りした。



 パーティーは順調に進んだ。貴族共の挨拶をベルスレイアは華麗にこなす。全て、ルルによる細かな気配りのお陰である。貴族の名前、特徴はもちろん。些細な仕草からどのような点を不快に思うかまで分析。パーティーそのものをストレス無く楽しめるよう、事を運んでいく。


 フラウローゼス家からの挨拶――ルーデウスとベルスレイア、それぞれの分も終わった。後は貴族同士の交流の時間。食事と酒を堪能しつつ。社交に精を出す貴族の面々。各人のご婦人方もまた、交流を始める。女性でなければ作れる縁もある。そうした繋がりを求め、多くの貴族は夫人を連れて来ていた。


 こうして、パーティーは賑わいを見せる。ベルスレイアの周囲にも、幾人もの貴族、そして夫人が集まっていた。サティウスとの仲については周知の事実。だが、本人からも確認して確証を得たい。そうした者共が群がり、ベルスレイアから確かな言葉を貰おうと躍起になる。

 当然、ベルスレイアは現在猫かぶり状態にある。サティウスとも親しい関係にあると、はっきり言葉にしてやった。サティウスとの関係はそうした遊びなのだから、当然のことである。


 ――そうして順調に進んでいたパーティーが、突如ある男の一声で台無しになる。


「公爵家の令嬢ともあろう者が、獣人族を専属侍女にしておるのか!? ふざけるのも大概にしろ!」

 怒声が、会場に響く。

 途端、会場の誰もが怒声のする方に目を向けた。


 そこには白髪混じりの金髪を後ろに流し、固めた髪型をした老年の男が立っていた。その顔を見て、誰もが顔を青くする。

 何しろ、その男は有名である。その名はカイウス・エゼルバイン。エゼルバイン大公家の当主であり、先々代の国王の甥。先代国王の従兄弟に当たる男である。

 今代の国王とも深い親交があり、その権力は公爵家の中でも有力なフラウローゼス家を遥かに凌ぐ。


 そして何より――獣人差別主義に染まった、思想的に偏りのある人間としても知られている。

 サンクトブルグの国民及び貴族はみな、獣人に悪感情を抱いている。しかし、表立って大きな差別をすることは無い。法の上では平等と定められているからである。

 だが、中には過激な思想を持つ者もいる。かつての時代のように、獣人を排斥すべきだと主張する者もいる。それが、獣人差別主義者である。平民の間でも、貴族の間でも存在する思想。その筆頭がカイウス・エゼルバイン。差別主義を唱え、獣人排斥の為に法の改正を求める勢力の代表でもある。


 そのような男が、声を荒げたのだ。触らぬ神に祟り無し。また、専属侍女が獣人であることを快く思っていなかったことも多くの者共にとって事実。誰もが口を噤み、距離を置いた。ベルスレイアからも、カイウスからも離れていく。


 結果的に広い空間が出来た。カイウス、ベルスレイア、そしてルルの三人を残して。

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