素晴らしき友情 03
英美里と清美が友達になってから、半年が過ぎた。
英美里の演技は巧妙で――清美以外の前で、本性を現すことは無かった。雪菜や薫さえも騙し、清美の友達であり続けた。
そんなある日。雪菜が、清美にある噂話について話をする。
「……ねえ、清美。最近、変な噂が広がってるんだけどね」
そう前置きして、雪菜は語りだす。
「最近ね、清美のことを悪く言うクラスメイトが増えてきたみたいなのよ」
「えっ!? 清美を!?」
心底驚いた様子で、薫が反応する。そして、まず真っ先にその場で疑わしい人間……英美里を睨む。
「待ちなさい、薫。悪く言っているのは以前のグループとは違うわ。……というか、グループですらない。クラス全体、いえ、学年全体に清美の悪口が広がってるみたいなの」
「そんな……清美に限って、そんなこと言われる理由が無いよ!」
まだ悪口の内容すら知らないのに、否定する薫。
そんな薫のことを醜悪だと思いつつも、表情には出さない英美里。
「それで……噂というのは、どんなものなんですか?」
話の続きを尋ねたのは、美緒だった。
「本当にくだらないんだけれどね。清美が優しいのは、他人を見下して、悦に浸るためだっていう噂。自分より能力の低い人間を見下す為に、わざと格の違いを見せつけるためなんだって。部活で助っ人に入ったり。クラスの仕事の手伝いをしたり。テスト勉強の時期の勉強会を開いたり……。そういう行為が全部、善意じゃなくて悪意によるものだって言われてるらしいの」
「そんな、めちゃくちゃです!」
美緒が真っ先に怒りの声を上げる。
「そんなの……証拠が無いじゃないですか。なのに疑い始めたら、どんな人の善意だって信じられなくなります」
「そのとおりね。全く愚かな話だと、私も思うわ」
美緒と雪菜が同じ観点から憤りを感じ、互いに共感する。
「私はよくわかんないけど……でも、清美の善意を捻じ曲げるなんて許せないよ!」
薫は直情的に憤りを顕にする。
「なあ清美。さすがにこれは、いっぺんシメてやった方がいいんじゃねぇか?」
英美里もまた、清美を案じて言葉を投げかける。――ような、フリをする。それが演技であることは、とっくに分かっている。清美だけではあるが。
清美は考え込むような仕草をとった後、すぐに答えを口にする。
「大丈夫だよ。私は別に平気」
悲しそうな――それこそ、薫や雪菜でさえ見たこと無い微笑みを浮かべて、清美は語る。
「私が悪く言われるからって、減るものがあるわけじゃないから平気だよ。それに、悪口が行き渡るってことは、やっぱり私に不満があったってことだと思うから。それは私のせいでもあるから……。悪口を言ってみんなの気持ちが落ち着くなら、私はそれで全然かまわないよ」
「清美ぃ! お前ってやつは!」
英美里は、感極まったように言って清美を抱きしめる。
「本当にお前は、どうしようもねえぐらい良い奴だよ。お前はそのままでいい。何か言ってくる奴、嫌がらせしてくるような奴がいたらアタシに言え。全部、アタシが守ってやるから」
ぎゅうっ、と清美を抱きしめる英美里。清美も、英美里を抱きしめて返す。
「――うん。嬉しいよ、英美里ちゃん。頼りにしてるね?」
「任せろ。お前だけは、絶対に傷つけさせねぇ」
二人の仲睦まじい様子に、他の三人は半ば呆れたような表情を浮かべる。
「全く。すっかり仲良くなっちゃって」
「幼馴染の私たちより、英美里の方がずっと清美のことが分かってるみたいだね」
「すごいです、英美里さん。仲直りしてから、そんなに経ってもないのに。こんなに清美さんとお近づきになれるなんて……尊敬しちゃいます」
三者三様の感情で、清美と英美里の絡み合いを眺める。