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専属侍女ルルとの出会い 14




 ベルスレイアのふにゃふにゃ朝モード以後。ルルの仕事は問題なく遂行された。朝食の配膳後、ベルスレイアは特務騎士団の事務仕事の為、仕事部屋に籠もる。昼食前に呼びに行けば良いだけである。そのお蔭で、明日のパーティーに備えた準備をする時間は十分に取れた。


 昼餉の頃合いとなり、ルルはまた食事を配膳する。その後、ベルスレイアを呼びに向かう。特に問題も無くベルスレイアは昼食に向かう。食事を終え、また仕事に。ほぼ仕事は残っていなかった為、一時間も経たずに午後の仕事は終了した。


 そして、次にベルスレイアは訓練場に出向いた。自らの技術を磨くための基礎訓練である。と言っても、黒薔薇と一緒に練習するわけではない。距離を隔てた、庭園の只中。ベルスレイア専用の訓練場。美しい薔薇の生け垣のど真ん中に作られた空間で、体術、剣術、そして魔法の特訓をする。

 この間、またルルは自由時間をもらった。パーティーに備えた準備は万全と言えるほどまで整えることが出来た。ルルの予想以上の自由時間があった為である。


 そして日も沈む頃になって、ようやくベルスレイアの自己鍛錬が終わった。次は勉強の時間。ベルスレイアは屋敷の蔵書室に篭り、様々な本を読む。

 今日は魔導器に関する専門的な本であった。ベルスレイアが自ら打槍を開発する為、こうした専門書は日常的に読んでいる。またある日は魔法に関する知識。またある時は歴史。ある時は薬学、経済学、その他諸々。蔵書に無い本も、役に立つと分かれば取り寄せて読む。


 つまり、ベルスレイアは勤勉であった。鈴本清美であった頃から勤勉でもあったが、現在はそれ以上である。

 人との関わりを捨てた分、ベルスレイアは知識の蓄えを増やすようにしていた。自らを至高とする以上、その内面を高める読書は最高の娯楽であり、友でもある。


 そしてルルは、またもや暇となった。お蔭で、既に決まっていたパーティーの式次第のうち、不備のある部分を指摘。当日に問題の起こらないよう、修正の指示を白薔薇に出した。

 完璧以上の備えをするに十分な時間をもらうことができたお陰である。


 こうして夜闇が濃くなった頃。ようやく夕餉の頃合いである。ベルスレイアの食事の配膳と、呼び出し。ルルはもうこれを慣れた動作で遂行。ベルスレイアも自然体でルルに従う。呼ばれたらば、読みかけの本を閉じ、笑顔で食事に向かった。


「あら、今日は唐揚げじゃないの!」

 ベルスレイアは目を輝かせた。食卓には、こんもり盛られた大きな唐揚げが並んでいた。

 貴族が食べるものではないな、とルルは思いながら見ていた。が、唐揚げは美味しい。だから文句は付けなかった。ベルスレイアの目の色が変わるのも仕方ない話である。


 こうして夕餉に唐揚げを頂いたベルスレイア。満足げな笑みを浮かべつつ、湯浴みに向かう。ベルスレイアの身体を流すのもルルの仕事である。当然、ルルも浴場に付き従う。

 裸で、二人きりで浴場に入る。

「ねえルル? お願いがあるのだけれど」

「はい。何でしょうか?」

「しっぽをもふもふさせて貰えないかしら?」

 ベルスレイアの興味はそこに向いていた。


 そうして――浴場にて、ベルスレイアはルルのしっぽの感触を堪能することとなった。ベルスレイアと言えども、もふもふには弱い。特に、ルルの毛並みは極めて美しい。綿と絹を足したような極上の手触り。天然の狐にはありえない、薄緑の毛色も美的感覚を程よく刺激する。

 ベルスレイアにとって、ルルのしっぽと耳は貴重な嗜好品であった。


 まさか主に、しっぽをもふもふされるとは想像だにしていなかったルル。最初は何らかの罠かもしれない、と緊張し身構えていた。だが、杞憂である。ベルスレイアは純粋にもふもふしたいだけであった。

 結局、浴場で湯浴みをする間、ベルスレイアはずっとルルの毛並みを堪能し続けた。



 こうして、ベルスレイアとルルの一日は終わろうとしていた。

「どうかしら、ルル。今日一日、専属侍女として働いてみた感想は?」

 夜、ベルスレイアの私室にて。ルルは就寝前のルルの着替えを手伝い終わったところであった。ネグリジェ姿のベルスレイアは妙に扇情的。着替えさせたルル本人でさえ、一瞬どきりとするほどである。


「思っていた以上に、心地よく働かせて頂いております」

 ルルは、本心を口にした。実際、ベルスレイアはあまり要求をしない。無茶なことはもちろん、当たり前の業務さえ少ないぐらいである。普通の貴族が侍女にやらせるようなことを、ベルスレイアは自分でやる。故に、ルルは四六時中ベルスレイアと行動を共にする必要が無かった。お蔭で、明日の誕生パーティーは準備万端である。


「良かった。せっかく私が選んであげたんだもの。働くなら、せめて気分良く働いてほしかったの。白薔薇とも相性は悪くないみたいだし、安心したわ」

 ベルスレイアは、まるで真っ当な上司のようなことを言う。だが、それはおかしい。ベルスレイアは上司ではない。雇い主、つまりクライアントである。ルルを気遣うというのは、下手に出過ぎているぐらいの行為と言える。


 だが、ベルスレイアにとってこれは必要なこと。ルルを自分の所有物としてみているからこそ、環境は快適でなければならない。自らを最も尊いと自負する以上、その所有物も尊い。故に労働環境は純白の絹よりホワイト。素敵な職場でなければならない。


 ここまで来て、ようやくルルは理解しつつあった。ベルスレイアはどこかおかしい人物である。だが、おかしすぎて一周回っている。歪な部分が噛み合い、調和し、良い結果を生み出す。

 結論として、ベルスレイアは主人として優れている。それを、ルルは悟りつつあった。


 ――が、そんなルルの認識を崩す者が姿を現す。

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