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専属侍女ルルとの出会い 10




「――では、試合開始っ!」

 準備が整ったのを見て、審判役を任された黒薔薇の一人が掛け声を上げる。


 それと同時に、シルフィアとルルが動き出した。特に示し合わせたわけでも無いのに、自然と分かれ、ベルスレイアを左右から挟撃する形になる。

「――シッ!」

 シルフィアは呼気を吐き、鋭い剣閃を放つ。ベルスレイアの首を狙う致命の一撃。当然、これぐらいでベルスレイアが死なないことを理解しているからこその攻撃である。

「――ハッ!」

 同時に、反対から妖狐と化したルルの爪が襲う。ベルスレイアを頭から潰すような振り下ろし。魔法力依存の、鉄さえひん曲げるような一撃が落ちてくる。


 だが、ベルスレイアは慌てない。しゃがんでシルフィアの剣を回避。そのまま打槍を掲げ、ルルの爪を受け止める。

 ごきゃっ、と重い金属音が鳴り響く。鍛え上げた鋼でも歪むような一撃を、打槍は耐えてみせた。

「ッ!?」

 これは、ルルには予想外であった。どれほど鍛え上げた金属でも、ルルの魔法力依存の一撃であれば傷ぐらいは付く。ましてや、打槍は魔導器。機械的構造を持ち、頑強と言えど弱い部分は存在するはず。

 それがルルの一撃を耐えた。しかも、傷すら付いていない。普通であれば、ありえないことであった。


 だが、この打槍はベルスレイアの武器である。普通であるはずが無い。

 事実、ベルスレイアの打槍は魔法金属と呼ばれる特殊な金属で作られている。


 魔法金属とは、この世界に存在する特殊な金属。通常の金属に膨大な魔素を浴びせ続けると、結晶構造が複雑化し、魔術的な意味のある大規模な立体構造を持つ単位格子を成す。

 これにより、金属が常に魔法を発動しているような状態となる。その結果、特殊な性能を持つようになった金属が魔法金属と呼ばれている。

 なお、これはLTO時代から存在した設定である。ベルスレイアは前世の頃から知識として知っていた。


 魔法金属の中でも有名なものは数多くある。アルミニウムの魔法金属はミスリル。銅はヒヒイロカネ。チタンはアダマンタイト。クロムとニッケルの合金がダマスカス鋼。タングステンがオリハルコン。そうした多種多様な魔法金属を成していた。これもまたLTO時代から存在した設定である。


 ベルスレイアはそうした設定を知っていた。その為、この世界では未だに発見されていない新たな魔法金属の生成に着手した。そもそも、魔素で通常の金属が変化し生まれるのが魔法金属だという事実をこの世界の人間は知らない。故に、これはベルスレイアだけのアドバンテージであった。


 真っ先にベルスレイアが魔法金属化したのは銀。ミスリルに良く似た、上位互換の魔法金属となった。これをベルスレイアはエルダーミスリルと名付けた。

 これを契機に、次々と魔法金属を生み出したベルスレイア。貴族の成金主義故に、使用した金属の多くは貴金属である。中でも金と白金は特に優秀な魔法金属となった。


 金は魔素を流すとゲル状に変化し、自在に形を変える。粘り気のあることから、これをベルスレイアは粘金と名付ける。

 白金は極めて頑強で粘りのある金属でありながら、形状を記憶し、曲げても元に戻る性質を持っていた。あらゆる魔法金属の合金に利用できる優秀な性質である。主役級の白金、という意味を込めてスタープラチナと名付けたベルスレイア。


 この二つを合金にすることで、頑強かつ粘りがあり、歪みや傷を魔素を流すと固体のまま徐々に修復する性質を持たせることに成功した。

 また、微量なエルダーミスリルも混ぜることで魔素の通りも良くなった。

 こうして生まれた合金を、ベルスレイアは自らの名を取ってローゼスタイトと名付けた。ベルスレイアの打槍は、杭を除く全てがこのローゼスタイトで作られている。ベルスレイアから膨大な魔素を供給される限り、破壊不可能と言えるほどの頑強さを発揮する。


 そして杭の部分は純粋な鉛の魔法金属で作られている。スタープラチナ以上に頑丈で、魔素の通りもエルダーミスリルに並ぶほど高い。その代わり、異様に重く粘りが無い。強度を越える圧力を受けると容易く折れる。

 通常の鉛より僅かに黒い鈍色に光るこの魔法金属を、ベルスレイアは壊鉛と名付けた。

 性能で言えば杭もローゼスタイトにすれば良い。が、ベルスレイアの打槍は特製である。多種多様なギミックを内蔵しており、その都合で杭は消耗品である。そのため、金や白金よりは生産が容易で単価も低い壊鉛を杭部分に据えているわけである。


 ともかく、そうした事情でベルスレイアの打槍は常識外れの性能を誇る。粘金やスタープラチナ、壊鉛、エルダーミスリルはどれも世間的には未発見の魔法金属。そんなもので作られた武器の性能を推し量れ、という方が無理な話である。


「くッ……!」

 ルルはその場を飛び退く。それと同時に、ベルスレイアの打槍がガシャン、と稼働しシリンダー部分が前後する。

 これと同時に杭が射出。伸びる方向はルル――ではなく、背後のシルフィア。剣の振りの後隙を狙う一撃。


「ふっ!」

 シルフィアはこの攻撃を読んでいた。素早く後ろに跳躍。ベルスレイアの打槍の攻撃範囲から離れる。

 同時に、打槍が炸裂。ゴシュウッ! と轟音を立てて突き出る壊鉛の杭。その衝撃による風圧がシルフィアの全身を撫でる。直撃していれば、即座に沈黙していただろう。


 一連の攻防の後、再び三人は対峙する。ベルスレイアを挟む形で、ルルとシルフィアが臨戦態勢のまま構える。ベルスレイアは打槍から白い烝魔素をしゅうっ、と排出し、その煙に巻かれながら気取った構えを堂々と取る。

「こんなものじゃないでしょう、二人とも? もっと、本気を出してくれていいのよ?」

 言って、ニヤリと笑うベルスレイア。


 手合わせ、という建前のベルスレイアの戯れはまだまだ続く。

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