専属侍女ルルとの出会い 09
二人のステータスを眺め、満足して笑むベルスレイア。通常なら圧倒的な強者の側にいる二人を相手に、まるで気負う様子すら無い。余裕の態度である。
それも当然。ベルスレイアは、二人を遥かに上回る力を持っているのだから。
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名前:ベルスレイア・フラウローゼス(Bellsreia Flaurozes)
種族:吸血鬼
職業:呪術師
レベル:16
生命力:238
攻撃力:115
魔法力:102
技術力:120
敏捷性:108
防御力:95
抵抗力:101
運命力:133
武器練度:剣S 打槍X 拳S
魔法練度:闇X 炎S
スキル:精強 灼熱 剛闘気 讐闘気
回避 先制 飛剣 獣人特攻
血統 カリスマ 先手必勝 武器節約
根性 自然治癒 孤高 人類特攻
呪い 悪運の呪い 血の呪い
血の解錠 血の翼 魔素操作
覇者の魂 赤い月 収納魔法 血の魔眼
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ベルスレイアのステータスは完全に壊れていた。もしもLTOで、ベルスレイアのようなステータスの敵が現れたら、その時点で引退していただろう。そう言えるほどの理不尽な能力。
LTO、そしてこの世界は単純な足し算、そして引き算でダメージを決定する。つまり、圧倒的なステータス差の前では誰もダメージを通せない。攻撃が掠っただけで即死する。
さらに、ベルスレイアの場合は武器や魔法の練度、スキルについても異様である。
練度はXという数値に達している。LTO時代にも存在した、一部のボスキャラ限定のパラメーター。Sの上を行く練度である。
練度による各種補正効果はSの時の倍以上もある。本来はステータスを上限まで上げたプレイヤーが戦うような、エンドコンテンツとして設定された各種ボスが持つような能力である。つまり意図的に難易度を上げる為の要素であった。理不尽な力である。
そして各種スキル。LTOでは考えられない数のスキルをベルスレイアは習得している。
精強は生命力を上昇させる。灼熱はクリティカルヒットの確率上昇。剛闘気は、短期間の攻撃力上昇バフ。讐闘気は近距離への被ダメージ反射。これらは格闘家、そして格闘王のスキルである。
回避、先制はシルフィアも持つ剣士のスキル。飛剣と獣人特攻は剣豪のスキル。飛剣は生命力最大時に、剣での遠距離攻撃が可能になるスキル。獣人特攻は文字通り、獣人族への攻撃に特攻効果が発動する。
そして呪い、悪運の呪いが呪術師のスキル。それぞれ回避率、クリティカルヒットの回避率を低下させる。呪いは呪術師がレベル20に達することで、死の呪いというスキルに変化する。回避率のデバフ効果が強化される。
ただでさえ、ベルスレイアのステータスは高い。これに加え、スキルや武器、魔法の練度による補正もかかる。
全うな手段でベルスレイアを倒すことは、不可能と言えるほどであった。
「……ベル様。私が妖狐族であること、他言無用でお願いできますか?」
長いこと、ベルスレイアとシルフィア、そしてルルは対峙したまま沈黙していた。そして、ようやくルルが口を開いた。
「ええ。この場でのことは全て秘密にするわ。私だって、打槍を使えることは秘密だもの。ここはそういう場所。隠さなくていいのよ。本気を出してちょうだい」
そして、ベルスレイアはルルを促す。
なお、当の本人は実力の半分も見せるつもりは無い。それでも二人を圧倒するほどの力を発揮出来る為である。そもそも、本気を出せば死人が出かねない。力を制限するのは当然の選択と言えた。
対して、ルルにはそうした心配は無い。相手はベルスレイア。怪物、悪魔、どこかおかしい奴である。例え妖狐に変身したとしても。本気で殺しにかかったとしても。ベルスレイアにとって何の危険にもならない。
そして、この場で秘密は保持される。ならば、隠し立てする必要もない。
そもそも、妖狐族であることがバレている。そして、力を使うよう主人に促されている。この状況で隠し立てするのは、むしろ今後不利に働くだろうと推測できる。
「――わかりました。私の全力でもって、手合わせに当たらせて頂きます」
こうして、ルルは自らの変身能力を使う覚悟を決めた。
ルルは目を閉じ、精神を集中する。全身に魔素を流し、内に眠る力を外へと解き放っていく。妖しい光がルルの姿を包み隠す。
そして光が収まると、そこには人の背丈ほどもある大きさの狐――五本の尾を持つ妖狐が立っていた。
ベルスレイアは、すぐさまその能力を魔眼で確認する。
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名前:ルル・アプリコット(Lulu Apricot)
種族:妖狐(変身)
職業:魔道士
レベル:20
生命力:40
攻撃力:24
魔法力:34
技術力:30
敏捷性:32
防御力:24
抵抗力:28
運命力:25
武器練度:拳B
魔法練度:炎A 氷A 雷A
スキル:魔力 精神統一
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獣人族は変身すると、ステータスに補正がかかる。妖狐族は、中でも極めて高い補正値を持っていた。お蔭で、ルルはシルフィアに匹敵するステータスを発揮している。
そして何より、魔法力の高さが目立つ。
これこそ妖狐の特徴である。妖狐は爪や牙の攻撃の他、自然を操る魔法を魔導書無しで扱う。炎、氷、雷、風の四属性である。また、爪や牙での攻撃も威力は魔法力依存となっている。
獣人の身体能力で、魔法力依存の攻撃を次々と放つ。極めて脅威度の高い存在。それが妖狐。差別、排斥されたのも、その強すぎる力を恐れられたから、という理由もある。
「これで、心置きなく手合わせできるわね」
にっこり笑い、ベルスレイアは言う。事実、これで準備は整った。ベルスレイア対、ルルとシルフィアという一戦が始まろうとしていた。