専属侍女ルルとの出会い 07
戦闘終了後。ベルスレイアは、地に伏し倒れた面々を一人ずつ介抱し、傷の手当をする。そして立合いの感想を少し述べて、また次へ。
「貴女は中々突きが良かったわね。相手の脚さばきを見れていれば、もっと良くなると思うわよ」
「はい! これからも修練に励みます、ベルスレイア様!」
「ええ。頑張って頂戴。ただし、無理の無い範囲でね。身体を壊しては元も子もないんだから」
「はい!」
「貴女たちは私の所有物よ。勝手に壊すのも、壊れるのも許さないから。忘れることのないようにね?」
「はいっ!」
自分の所有物は大切にする。つまり自己愛の延長が、巡り巡って配下の者を気遣う結果に。一度洗脳したメイド達の信心に揺らぎがない理由の一つである。
実際、ベルスレイアは気遣いだけではない。待遇に関しても、信者の者達に関しては良くしてやっている。今回の手合わせでも、打槍に用いた金属の杭は先端が丸く潰されたものを使用。しかも、怪我のないように威力を絞ってまでいた。
痛くて起き上がれないほどではあったが、深刻な負傷をした者は居ない。せいぜい、飛ばされた拍子に擦り傷を負った程度である。
そうして全員を開放すると、ベルスレイアはシルフィアの方へと歩み寄る。
「せっかくだから、もう少し手合わせを続けましょう。今度はシルフィ。貴女が相手してちょうだい」
「はい、仰せのままに」
言われて、腰に下げる剣の柄を触りつつ応えるシルフィア。
「それと、ルルも参加できるでしょう?」
「私も、ですか?」
突然、話を振られてルルは驚く。
「私は、単なる侍女ですよ。立合いなんて、とんでもないです」
「何を言っているのかしら。貴女、この場ではシルフィアの次ぐらいに強いでしょう?」
当然のことのようにベルスレイアが言う。これに、ルルは内心で舌打ちする。
確かに、ルルには戦闘能力がある。それも、生半可な騎士では相手にもならないほど。だが、そうと分かるような素振りは見せなかった。なのに、何故ベルスレイアにはバレているのか。理由が分からず、眉を顰める。
なお、理由は単純。ベルスレイアが血の魔眼でルルのステータスを確認しただけに過ぎない。だが、ルルはベルスレイアの能力について何も知らない。どうやって自分の力を調べたのか。どこから足がついたのか。余計なことまで考え出す。
「さあ、わかったなら準備をして。私は気が短いの。もたもたしていると、お仕置きをしなければならなくなるわね」
そう言って、ベルスレイアは急かす。疑問は一先ず置いておき、ルルは主の要望に応えることにした。
「もう、ベル様。そうやって急なお願いをしては、ルル殿も困ってしまいますよ」
ベルスレイアをシルフィアが諌めるように言う。これに、ルルは安堵する。ここにまともな人がいた。この屋敷は、変な信者ばかりじゃないんだ、と。
そして、少し時間をかけて準備が整う。ルルはメイドらしい服を着替え、戦いに向いた軽装の革鎧を着ている。そして、武器は持たない。素手、つまり拳で戦うような構えを見せた。
「あら。素手で戦うつもり?」
ベルスレイアは首を傾げ、ルルに問う。
「はい。これが一番、慣れていますので」
「変身はしないのかしら?」
変身。獣人族の持つ特徴の一つ。自らの種族に応じた獣の形態に姿形を変える能力である。これにより身体能力が飛躍的に高まる。
ただし、変身には魔素の消費が伴う。永続的な変身は不可能。また、一度変身が解除されたら再び変身可能になるまで時間を要する。言わば、獣人族にとって戦闘の切り札と言える。
とは言え、一戦限りの手合わせともなれば、十分に変身可能な時間の範囲内である。最初から変身しておいて戦う、というのも選択肢の一つではある。
「折を見て、力を使います」
まるで力を隠すように。ルルは、そう静かに言い放つ。
「そう。まあ、切り札は伏せておくものよね。私はてっきり、貴女が『妖狐族』だとバレたくないから変身しないものだと思っていたわ」
「っ!?」
そして、ベルスレイアの見透かすような発言。ルルは驚愕を隠しきれず、表情に出してしまう。